108. 歯型のついた羊羹
ヒジュラ暦1443.3.27 (2021.11.2)
前回の一時帰国からリヤドに戻ってきて、そろそろ1年経とうとしている。リヤドに戻る時には、フリーズドライのお味噌汁、ふりかけ、カレーのルーといったリヤドでは手に入らなくて、かつ日持ちがするものを持って帰ってくる。それを一年かけて、ちびちび食べては遠い日本を思い出す(笑)
そうはいっても、私はそれほど日本食の何かが恋しいみたいなことはほとんどないのだけれど、あんこだけは別だ。リヤドでは和菓子も手に入らないので、リヤドに来てから自分で和菓子を作るようになった(小豆は一応、手に入る)ただ、小豆からあんこを作るのはけっこう面倒なので、最近はあまり作らなくなった。
そのかわりに、日持ちのする羊羹を日本から買ってくるようになった。もともと、羊羹は日本からのお土産用に買ってはいたのだけど、自分の分も買うようになった。今回は成田でいくつかの味が入った一口羊羹を買ってきた。
それを研究室に置いておいて、仕事で辛いことがあった日に食べるのだ(笑)
そんな私の机の羊羹も残すところ、あと4本になった。日本に帰るまであと2か月。十分な量だ。これだけあれば、逃げ切れる。
その矢先の出来事だった。いつものように出勤して、研究室においてある500mlのペットボトルの水を飲もうとしたら、違和感があった。
あれ、少ない??昨日まで5本くらいあった気がしたのに2本しかない。
別に毎日、気にかけているわけではないので、気のせいかなと思っていたら、同僚の先生が
「先生の部屋は、大丈夫でしたか?」
と。
同僚の先生の部屋が朝来たら、荒らされて、ひどいことになっていたそうだ。金品などを取られたという感じではなく、食べ物などを食い散らかしているということだった。
それを聞き、先ほどの違和感が気のせいじゃないことを確信した。よくよく見てみると、本棚に置いておいた、お昼ごはん用のクッキーもなくなっている。ゴミ箱を見ると、そのクッキーの袋や水のペットボトルが入っていた。そして、羊羹の箱も見えた。
やられた…
ふだんは、研究室にはカギがかけてあり、誰も入ることができないのだけど、ここ数日は、構内のエアコンの工事などで業者が研究室に入ると聞いてはいた。けど、金目のものは置いてないし、そうはいっても、大学を出入りしている業者の人が、そんなことはしないだろうと思っていた。
*正確には誰の仕業かわからないけど、状況から考えると業者の人以外は考えにくかった。業者の人は十数人構内を出入りしている。
結局、私の研究室の隣の先生も被害にあっていて、3つの研究室が荒らされている感じだった。
同僚の先生と
「よっぽど、お腹が空いていたんですかね~」
と。サウジに働きに来ている人で生活が大変な人も多いので、仕方ないのかなと、そう自分を言い聞かせた。
自分の研究室に戻り、他に何が取られたのだろうとゴミ箱を見て、私は愕然とした。同時にさっきまでの「仕方ないか」という気持ちは吹き飛んだ。
よくよくゴミ箱をのぞいてみると、ゴミ箱の中に歯型のついた羊羹が、そのまま捨ててあった。つまり、開けてみて、かじって、気に入らないで、捨てたのだ。
これは頭にきた。というのも他の先生の部屋の被害も、取られたというより、食い散らかされた、荒らされたという表現がしっくりくる感じで、隣の先生の部屋では、冷蔵庫が開けっ放しになっていた。
百歩譲って、お腹が空いていたのなら、部屋にあるものを食べたり、飲んでしまったということも理解はする。ただ、やり方ってものがあるだろうと思ったのだ。
嫌な言い方だが、私はかじられた羊羹を見て、畑の作物を食い荒らすイノシシを思い出した。野蛮だなと思って軽蔑してしまった。こうなると、お腹が空いていたのかもしれないという擁護する推測も疑わしく思えてきた。
私が嫌だったのは、食べるのは仕方ない。まずいと思うのも仕方ない。ただ、そう思ったのなら、ここに捨てるなと。もう少し、後を濁さずができなかったのかと。持ち主が見たら、嫌な気分になることを想像してほしかった。
だんだん、腹が立ってきて、同僚の先生にも、
「学科長や学部長にも、このことを伝えた方がいいんじゃないか」
と言った。
しかし、同僚の先生は
「たぶん、言ってもあまり意味がないと思う。まぁまぁ別にいいじゃない、それくらいって言われると思う」と。
確かにそうなりそうだ。それを聞いて私はますます、もやもやした。
金額の問題じゃないんだ。
こんな、やりたい放題を黙って、許すのが嫌なんだ。
しかも、わぁわぁ言う自分が寛容じゃない感じがするのも、もやもやする。
羊羹をかじった人にとっては、それはまずいものだったかもしれない。ただ、それを心の支えにしている人もいるわけで、それなら、他所で捨てるぐらいしてほしいし、せめて、黙って人のものを食べるなら、それぐらいわきまえて欲しかった。
この出来事は2021年で、最も不快な出来事になったし、できるだけ異文化を配慮して、いろいろな人がいるんだと言い聞かせてはいるのだけど、理解しきれなかった。たかが羊羹、されど羊羹だった。
いつもより、ちょっとよい茶葉や甘味をいただくのに使わせていただきます。よいインプットのおかげで、よいアウトプットができるはずです!