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ピアソラが影響を受けたタンゴミュージシャン②アルフレド・ゴビ

【君が魔術師だったら】
1952年エミリオ・バルカルセ作曲

この音源で演奏しているアルフレド・ゴビはタンゴ黄金時代を中心に活躍したバイオリン奏者/楽団リーダーです。

録音が少ないためか、トロイロ、プグリエーセなど同時期のタンゴミュージシャンの中では知名度が低いですが、その独創的な音楽は1940年代の音楽家たちに多大な刺激を与えました。

アストル・ピアソラは彼こそが「モダンタンゴの父」と考え、その革新性を絶賛していました。
アルフレド・ゴビ楽団のロマンあふれる音色やドラマチックなアレンジ、ピアソラの言う「タンゴのスイング」が感じられる心が浮き立つようなリズムは今聞いても全く古臭さを感じさせず、後のピアソラが影響されたであろう現代的なセンスやひらめきを感じます。

ピアソラ以外のタンゴをほとんど聴いたことがないという人や、「1950年ごろのタンゴなんてどうせ古臭いんでしょ?」という先入観がある人にこそ、ゴビの演奏はぜひ聞いてもらいたいですね。

【私の贖罪】アルフレド・ゴビ 195?年

さて、こちらはピアソラが1961年にリリースしたキンテート(五重奏団)のアルバムに収められたゴビ作曲のタンゴ『私の贖罪(redencion)』です。 

この頃にはすでにアルコールに蝕まれていたゴビは、自分ではこの曲を録音していませんでしたが、ピアソラはゴビのスタイルを忠実に再現した名演を残しました。
収録にはゴビ本人も同席し、オリジナルを尊重した演奏に満足していたそうです。
ピアソラは前期キンテートの最初の録音の一つにこの曲を選ぶことで、「モダンタンゴの父」に敬意を表したのでしょう。

【アルフレド・ゴビの肖像】アストル・ピアソラ

1965年のゴビの死後にピアソラが追悼の思いを込めて作曲した作品。

揺れ動くようなリズム感や時折押さえきれないようにあふれ出すロマン性は、まさしくゴビの音楽の世界とつながっており、それがピアソラが引き継ぎ発展させていったモダンタンゴだということが聞き取れます。
天才的な才能を持ちながら、アルコールと麻薬に溺れるようになったゴビは、身体を壊して53歳の若さでこの世を去ります。
最後は場末のうらびれたカフェで演奏しながらの死だったといいます。
まさにタンゴのボヘミアン的な側面を体現したような生き方だったのかもしれません。

ゴビの死後、ピアソラは「(タンゴの)最大の革命家だったが、自分の価値に気付かないままこの世を去ってしまった」とその早すぎる死を惜しみました。

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