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『LAW & GUNZ』FIRST EXHIBITION 「プリエロだけじゃダメですか?」at: 新宿 B Gallery

LAW&GANZ フライヤー 作画はMiranda Yokota

とある展覧会で米さんが「今度『LAW & GUNZ』やるからさ」。と何やら楽しそうに言うのだ。「え?なんですか?ブランド?」と素っ頓狂な返答をすると「違うよ。みんな老眼だから『LAW & GUNZ』。面白いでしょ?」と、ニカっと笑った。

『LAW & GUNZ』とは米原康正、内藤啓介、常盤響。写真家3名によるフォトグラファーユニットである。編集者・写真家・アーティスト、キュレーターと多岐に渡り存在感を発揮する米原康正。smartの「ちんかめ」でおしゃれエロの新境地を開拓した内藤啓介。フォトグラファー、デザイナーとして数々の名盤のアートワークや、広告を手がけた常盤響。この写真家として“異色”の経歴を辿る3名が、それぞれが好きな、「写真」と「エロ」を表現する展示『LAW & GUNZ』FIRST EXHIBITION 「プリエロだけじゃダメですか?」を新宿 B Galleryにて4月29日から5月29日まで1ヶ月間、開催した。

「せっかく集まったから」ということで急遽、話を聞く機会を設けてもらえることとなった。舞台は、新宿にある内藤さんのピカピカのニュースタジオである。あらためて、いかにしてこの3人が、令和の新宿B Galleryにたどり着いたのか。過去から現在、音楽、カルチャー、写真、おっぱい。あらゆる方向に散弾しつつも、3人の交流のきっかけから展覧会開催に至るまで、ざっくばらんに話をしてもらった。都合上、録音した音源中ほとんどの固有名詞を伏せ、カットすることになってしまったのだが、近所のコメダコーヒーに通い、笑いを必死にこらえながら(時に吹き出しながら)書き起こした『LAW & GUNZ』座談会の模様をお送りする。

展覧会はいかにして実現したのか。3人の出会いとは

ーさっそくですが今回の展示のきっかけについてあらためてお伺いしたいです。

米原康正さん(以下:米原):元BEAMSの永井さん(永井秀二『TOKYO CULTUART by BEAMS 』元ディレクター)とこの3人でやりたいって話したのが最初かな。最初はイラストレーターの寺田さ ん(寺田克也)と、空山さん(空山基)、覆面画家のRockin'Jelly Beanの3人展と合同展をやろうとしていたみたいなんだけど。

内藤啓介さん(以下:内藤):一応、空山さんたちのその展示は4年に一回やってるんですよね。

米原:そのタイミングが重なって最初は6人で、なんて話してるうちに肝心の永井さんが定年で辞めることになったと。だけどこれは絶対形にするって永井さんが男を見せてくれて(笑)今回の展示が実現したんだよ。

BEAMS、B galleryでの展示風景

ーBEAMSと3人の繋がりはなんだったんですか?

米原:アウフォト(OUT OF PHOTOGRAPHERS)を作っているときにね。ビームスと「新宿」っていう写真集を作ったんだよ。その時、常盤さんにデザインをやってもらって、ちん(内藤さん)に写真撮ってもらったんだよね。

内藤:結構いろんな人が撮ってましたよね。

常盤響さん(以下:常盤):渡辺克己さんとか笠井くん(笠井爾示)とか。
ーどういう経緯でその「新宿」を作ることに?

常盤:当時ダブルネームブームで、服はあるけど、本はあまりないからということで新潮社とBEAMSがコラボしたんですよ。

内藤:俺はなんにもわかんないまま写真撮りに行ってました。パッパラパーだったから(笑)。やり始めたかけだしの頃でしたね。

米原:「egg」の写真をちんに撮ってもらってたね。街の女子高生に低周波電気流したりして痛がる様子を撮ったりとか(笑)。

内藤:(笑)もちろんちゃんと説明して向こうも楽しそうでしたよね。「なにこれオモローい」なんつって。和やかに撮影してました。

ーそんな3人の馴れ初めはどんな感じだったんですか?

常盤:僕と米さんは仕事以前、僕が小学生とか中学生くらいの時に会ってますよね。「ナイロン100%」とか「think」とか塾の途中にそういった当時最先端のカルチャースポットがあって、遊びに行ってたんですけど、所々で米さんにお会いしてました。

ー小中学生の年齢でそこに入ろうと思ったのはすごいですね。

常盤:「あ。ここ雑誌で近田春夫が書いてたところだ」と思って覗いてみたんです。酒飲んだりタバコ吸ったりする気もなく、オレンジジュース飲んでレコード見て帰る。みたいな感じだったんです。

内藤:やな小学生だな〜。

ー米さんはいくつくらいですか?

米原:俺は大学生だったかな。

常盤:普通はそんなところにいる僕なんて目にもつかないわけですよ。だけど米さんは覚えてるんです。「前にも来たよね?」って声をかけてくれたり。今の感じそのままです。「こういうの好きなんだあ」って親しげにしてくれる。同じ世代の子たちが何人か出入りしてたんですけど、当時は康くんって呼んでいて、康くんがなにかと気にかけてくれていました。

米原:面白いでしょ?突っ込んでみたくなるじゃん。

常盤:最初はDCっぽい格好をしていて気づいたらサーファーになってました。

米原:やっぱりモテたいからね(笑)。

ー米さんと内藤さん、2人の出会いは覚えていますか?

内藤:俺全然覚えてないなー。田島さん(田島 一成)の手伝いしてたけど独立した後、いちばんフラフラしてた頃にちゃんと接点を持った気がする。『SPEAK』の関係かも。

米原:『SPEAK』だ!今のNumeroの編集長の田中杏子が編集長をやっていた月イチのクラブ情報誌があったんだけど、それをやっていた石塚くんから紹介してもらったんじゃないかな。

内藤:そうそう!石塚さんからインタビューを撮ったりDJの写真撮ったり仕事頼まれておこづかいもらいながら撮ってたんですよ。

米原:そんな中で「俺も今度色々やるからこれからも撮ってよ」ってお願いしたんだよね。(※当時米さんはエロゲリラ日記と題し、「東京大快楽宣言」という企画を連載していた。)

内藤:俺なんかなんでもないのに、米さんがすげえ面白がって何でも呼んでくれました。

ー石塚さんという方はどんな人だったんですか?

米原:『SPEAK』の副編集長やっていた人。

内藤:俺からすると、地元のスケボーやってた先輩だね。

米原:それが90年代初頭だよね。それからずっと一緒にいる感じかな。

内藤:あそこ(『SPEAK』)のリーダーが面白い人でしたよね?

米原:荒井くんね。発起人の荒井(荒井勇次)くんていう、MTVのジングルで粘土アニメ作ったりアートをやったりしていたんだけど面白かった。

内藤:米原さんがいきなりジャニーズに会わせてくれたり、杏子さんと地方のクラブに行ったりして。現場の振り幅がすごかったのを覚えてる。

米原:その頃、egg作って2年くらいかな。コギャル文化が地方にどのように伝播していったか実地調査するっていう企画を、『GON!』という雑誌に持ち込んだの。比嘉さんていう人が編集長をやっていたんだけど「面白いね!やろうよ!」と言ってくれて、それもちんに付いてきてもらったりしてたね。地方のギャルにうどんをすすってもらってそれを撮るっていう、くだらないけどなんだか楽しかった(笑)。

ー内藤さんと常盤さんの出会いはいかがでしょうか?

内藤:その数年後に、俺と常盤さん2人でサザンオールスターズのアートワークやりましたよね?

常盤:僕がアートディレクションをやって、内藤さんに撮ってもらったんです。

米原:あらためて聞いてみたいんだけどサザンとかメジャーな仕事いっぱいやってた常盤くんが、アングラな方へ進んでいったのはどういう変化なの?

常盤:米さん覚えてないかもしれないけど、米さんに言ってもらったことが大きく影響しているんですよ。

内藤:アングラもメジャーも両方やってたんじゃないですか?

常盤:うん。両方やってたけど、僕が最初の写真集「Sloppy Girls」を出したときちょっと売れてね。その時はカメラマンでもなんでもなくて、グラフィックデザインをやっていたけど、やっちゃえみたいなスタンスでアマチュアイズムでやればいいやと思っていた。米さんも写真集は気に入ってくれたんだけど、「常盤くん、大人の言うことをあんまり聞いちゃダメだよ」って言われたのをすごく憶えている。

ーそれはどういった意図があったんでしょうか?

米原:たぶんねえ「サザンなんて常盤くん聴いてないじゃん」って言ったと思うんだよ。

常盤:もちろん作る上では聴くんですけど、確かに普段聴いているわけではなかった。でも、メジャーな仕事が来たら嬉しくてつい受けちゃうんですよね。自分では言うこと聞いてるつもりはないけど、やっていると無意識のうちに言うことを聞いた写真になっている。キャリアがあるわけじゃないから、「こっちの方が良い」とかセレクトについても言えないし。広告の大きな仕事がやりたいと思って始めたわけじゃないから、「俺、なにやっているんだろう」って、知らないうちに言うこと聞いちゃってたなあと思ったんです。それである時、全部やめたんです。

内藤:そうなんだ。俺なんか全然若かったから、単純に常盤さんはすげえデザイナーだと思ってましたよ。

常盤:会うたびに米さんに「常盤くんが人がいいから、言うこと聞いちゃうでしょう?絶対ダメだよ。パンクじゃないよ」ってずっと言われてましたから(笑)。

ー今や90年代のカルチャーを語るには欠かせない数々の名盤をデザインしてきた常盤さんですが、ジャケットデザインを始めたきっかけを教えてください。

常盤:最初はヤンさん(ヤン富田)さんの「HAPPY LIVING(ASTRO AGE STEEL ORCHESTRA)」だったんですけど。ジャケットデザインなんてやったことなかったんですよ。1stアルバム「ミュージック・フォー・アストロ・エイジ」のときに、ブックレットの割り付けを手伝ったことがあったんです。ムーグ山本さんがディレクションしていて。ちなみに、そのアルバムは2LPでいとうせいこうの『MESS/AGE』のインストとか入っているアルバムなので今60万くらいするアルバムなんですけど(笑)それをやっている間、ヤンさんがずっと家に来てたんです。「常盤くん変なレコードいっぱい持ってるんだね」とか言いながら。そしたら「次のアルバム、やってくんない?」って言うんですよ。

ーすごいですね。

常盤:でも「デザインなんでやったことないです」って正直に言ったら、「でも変なジャケのレコードいっぱい持ってるじゃん。デザイン的に間違っていても、レコードジャケット的に良ければ、それで良いんだよ」ってやることになりました。そしたらまりん(砂原 良徳)とか小山田くん(小山田圭吾)とかが、「デザインなんてやるんだ?じゃあやって」ってなって。まりんのソロや電気(グルーヴ)とか、コーネリアス周りやスチャ(スチャダラパー)とかやらせていただきました。そしたらなんか、まだ数枚しかやったことないのに、売れてる人みたいな見え方になっちゃいました。

内藤:俺、常盤さんって知らないで買ってたもんなあ。

米原:時代を作った感はあるよね。

常盤:先人たちの時代から、代理店を経由しないアマチュアの時代に一瞬変わったタイミングだったんです。それもたまたまよかったと思います。

ー米さんと常盤さんの交流は出会いからずっと続いていたんですか?

常盤:連絡先を知ってたり、待ち合わせしてたわけじゃないけど、定期的に顔を合わせる機会がありました。言い方は違えどその度に米さんからは言われてましたね。「パンクじゃないよ」、と。米さんも気づいたらサーファーになってけどなあとは思いつつ(笑)

米原:パンクはファッションじゃなくてアティチュードなんだよ。

内藤:ジョー・ストラマーのおかげだね。

米原:ただ単にアティチュードだけだと不良になっちゃうから、そういう姿勢を取れるようなシステムや環境を作れることが大事だよね。

米原康正

「ちんかめ」という革新。 「smart girls」の舞台裏

ー「ちんかめ」をsmartの誌面で発見したときは僕自身、こんなおしゃれなヌードがあるんだと感動すら覚えたんですが、始まりを教えてください。

内藤:すげえ米原さんがサポートしてくれたんですよ。

米原:「NoWoN(ナオン)」っていう雑誌で、ファッションカメラマンにヌードを撮ってもらうっていう企画をやってたの。やっぱり「NoWoN」の中での企画だったから、あまりウケなくてしょんぼりしてたら、ちんから「smart」でちんかめやります。って連絡くれて。「smart」でそれやるの完璧じゃんって。羨ましいなあと思ったね。「絶対成功するから」って言った。

内藤:米さん宝島のえらい人にも「絶対本にした方がいい」って言ってくれて、米さんの企画も立ち上がったり、いろいろ動いてくれましたね。

米原:「smart girls」作ったりね。最初会社と喧嘩したよね(笑)。1号目、そっくり撮り直したりして大変だったよ。

米原:キャスティングした子が、前日としまえん行ったって真っ黒でさ(笑)。

内藤:あの子もトンガってたから、現場で機嫌悪くてさあ。

米原:ちんなんて遅れて来るしさ。モデルより遅く来るんだもん。

内藤:全然憶えてない。

米原:5分10分じゃないからね。びっくりするくらい来ないんだから。

内藤:あの頃はほんとひどかったですね。米さんも「ちんかめ」以外にもやった方がいいよって言ってくれてましたよね。

米原:「ちんかめ」のインパクトが強かったから、ちんのイメージが“=”になっちゃうでしょ。だけど、稼いだお金でブランド立ち上げたりしちゃってさあ。

内藤:カメラから離れた時期もありましたね。何年かしてから、米原さんの言ってたことが分かったなあ。自分でもうんざりしちゃった。

米原:今回の話も、ちんが初心に戻って「ちんかめ」をやり直し始めたことで実を結んでいるんだよ。

内藤:それがここ10年くらいですね。

常盤:素人さんを載せてくれる媒体も少なくなってきて、とはいえ仕事しなきゃいけないから結局、女優さんやタレントさんを撮って、「何やってんだろう?」って思うことはたしかにありました。

内藤:ね。そんな写真撮ってるなら洋服やってる方が楽しいって思っちゃう時ありましたもん。

内藤啓介


異端な3人の共通点とジレンマ「米原くん、草原へ行こう」

米原:この3人が言われるのが、「もっとエロく撮ってくれませんか?」ってことなんだよね。「もっとグッと寄って」なんつって。

内藤:それは他にうまい人もっといるからと思いますよね。

常盤:週刊誌だと圧がすごいですね。「何百万人の読者がチ◯コ握ってるって思って撮ってください」なんて言われて。「考えたくないわあ」って思いながら撮ってました。

米原:必ず股間に寄ってとか言われるもんね。

内藤:よく言われることありましたね。

常盤:あと、週刊誌でたまに僕らみたいな当時新々のカメラマンを特集した企画ってあったじゃないですか。そうすると、ベテランのカメラマンの先生方が「あいつら使うなよ」って編集者に言うとかね。弟子たちが控えてるから。

内藤:編集者が呼び出されて怒られる。

米原:身内で固めて他のカメラマンが入る余地がないんだよね。

常盤:異動で来た編集者が事情を知らずに使って怒られるみたいなことはよくあった。

内藤:俺を面白いって使ってくれてた編集者も、トバされちゃってた。

米原:表紙とかページとか、全部カメラマンが決まってるんだから。びっくりするよ。あとグラビア作ったりしたときに某グラビア誌の編集長に呼ばれてさ。「米原くん、今から良い写真集を作る方法をレクチャーするからメモしてくれるかな?草原へ行こう草原。干し草に女の子寝かせるんだよ。メモしとけよ」なんて言うから。本気で言ってるんだよ。どうしようかと思ったね。

常盤:週刊誌の忘新年会なんかいくと、大御所カメラマンの派閥が集まったりして、派閥同士でも仲悪かったりするから、僕なんかどこの派閥に属してないけど写真集とか出してたから、なんかね。

米原:昔は人間関係だけしか見ない人が多かったよ。それは写真だけの話じゃないけどさ。

内藤:冷静に考えたら嫌になっちゃうよね。今だからすげえ分かる。昔は欲しいものいっぱいあったから、やっちゃうんだけどね。

常盤:なぜそこでやってるのか?というのを考えたらお金でしかなくて、東京から出れば、そういうことしなくて良くなるのかな?と思って福岡に移住したんです。ここ10年くらいは、仕事を少しづつ減らして、営業しなくても来る仕事と音楽のイベントとかをやっていましたね。それ以前の10年はケータイ関係の仕事が多くて、他にちゃんとした仕事がなくても食べていけるくらいゴツかった。

米原:どんどん雑誌も売れなくなってきて、編集者たちの顔も悲壮感漂う感じになってきちゃってさ。僕はその頃はずっと中国だった。もうちょっと日本でもやっとけば良かったなとは思ったけど。女の子とかも中国人撮る方が楽しくて。

内藤:出版の仕組みみたいなものもその頃から変わっていきましたよね。

米原:今は編集が営業に寄っていっちゃってる感じがするよ。昔は営業と編集なんてバチバチにやりあってたけど。

常盤:今は営業の言う通りにやっちゃう人が多い。パワーバランスが逆転しちゃいましたよね。

常盤響

プリエロを求めて。たどり着いた『LAW & GUNS』

米原:女の子の写真を撮るのが好きなだけなのに、マスの文脈にいくと「女に嫌われる写真を撮れ」って言われるじゃん。マスの文脈じゃない違う文脈で「女の子の写真」を今回、あらためてやりたかったんだよね。

常盤:そもそも嫌いな人、嫌われる人がそこに映ってたら、それはもうエロくはないですもんね。やらしいことしなくても、コート着てマフラー巻いてても、近しい気持ちになってくれている、ノッてくれている写真だからこそエロスをそこに感じると思うんです。

内藤:本当そうっす。

米原:見てくれている人がそれを感じ取ってくれるかが大事で、「股間撮っておけばいいよ」みたいな読者ばかり相手にしているからそうなる。

常盤:その時に有名な女優さんやアイドルの写真集やトップAV女優の写真集とかよりも「ちんかめ」の方が売れていた。それが結果じゃないですかね。

内藤:若い編集者さんとやっているといい感じになったりするんだけど、有名な人撮ると偉い人が出てくる。そうすると急に、キャプションとかも変なポエムになっちゃって、レイアウトもなんか違ってきちゃったりする。

米原:偉い人は自分の文脈に持っていこうとするからね。レイアウトもデザイナーのスキームがある程度できあがっちゃってるんだよね。

内藤:一回、有名なタレントのコを撮ったときに、切り抜かれて背景ベタみたいなことになっちゃって、俺カチンと来て言っちゃったんだよ。それからそこと仕事してない(笑)。

米原:一言言ってくれりゃいいのにね。昔、バリまで行ってアーティストの写真集作ってそんなこともあった(笑)。デザイナーからの仕上がり見てほとんどベタで、写真がページの半分くらいで。まあいっかと思ってたけど、めちゃくちゃ怒られたよね。

内藤:そういえば昔、めちゃくちゃデカイ写真集作って米さんに迷惑かけたのは申し訳なかったっすね。「こんなの売れないよ」って米原さん言ってくれてたのに。

米原:売り場に置けないくらいデカイんだもん。でも偉い人には「ちんかめですよー?売れるに決まってるじゃないですか」なんて言ったりしてね。ちんかめのネオンサインまで作ってさ。どんだけ製作費使うんだよって(笑)。回収できないよ。

内藤:いやー申し訳なかったです(笑)。やりたかったんですよね。思い返してみると、俺、干されても仕方ないな。

米原:作家にやりたいって言われたら、編集者としてはやるしかないじゃない。謝るの大変だったんだから。

常盤:あのデカイやつ、僕たぶん家にありますよそれ。

ー苦楽をともにした3人がこうして展示を行っているのはなんとも感慨深いです。

常盤:福岡に行って、原点回帰して写真を撮ろうと。そしたら昔の写真集とか表紙を見て撮ってほしいって言うコが連絡してくれて、頼んでくれた人の写真を撮ろうと思いましたね。それを撮ってたら、米さんが「こういうのやろうよ」って言ってくれて。声をかけてくれたんです。

ー『LAW&GUNS』の構想はずっと米さんの中にあったんですか?

米原:写真界隈から干されている3人でやりたかったんだよ(笑)。まあ業界に入ろうとは思ってないんだけど。

「おっぱいを出す出さないで勝負しているわけじゃない」

内藤:そりゃそうですよ。写真業界はちゃんとカメラとか好きでやってた人たちがやってるんだから。それは別ですよ。距離を作ってるのはこっちだって話にもなりますけど。界隈に相手にされようなんて思ってないでしょ?

米原:ないないない。だからチェキ使ってんだもん。「米原、カメラのこと分かるのか?」って言われて「分かんないっす」なんて言ったらそりゃ怒られるっしょ(笑)。
そういうことじゃないのよ。今の若い子たちはカメラなんて関係なしに、MVや写真集、かっこいい作品作ってるじゃん。それでいいと思うんだよ。

ー「ちんかめ」のような革新性を持った作品、コンテンツは今生まれていたり若い作家でいると思いますか?

内藤:うーん。今、逆に表現がなんでもありすぎて、もう発明はしづらいんじゃないかなと思うよ。

常盤:すでに世にあらゆるものが出てしまっていて、何らかの影響を受けている、または受けていると思われざるを得ないから。

米原:だから俺も絵を描き出したっていうのがあるんだけどね。昔、DJやっているコを撮ってあげたら、「うまい!インスタっぽいですね」って言われたことがあって(笑)。
俺昔からやってんだけどな、とは思ったけど、今の若い子たちからしたらインスタがスタンダードなんだよね。だから、このままじゃダメだと思って絵を描き始めたっていうきっかけがある。でも写真は好きなんだよ。

photo & paint  米原康正

内藤:たぶん俺よりも好きですよね。

米原:好きなんだけど、そんな中で制作物として見せるときに、写真のままで良いのか、という思考錯誤も面白いところ。ちんなんてパズルみたいにしてさ。

photo & collage 内藤啓介

ー今回はみなさん展示していたのは全て新作ですか?

内藤:俺は8割そう。

米原:昔撮って出してなかったやつとか、今回のために撮り下ろしたものもある。

常盤:どこまでが新作と言えばよいのかということはありますけど、ここ1年で撮り下ろしたもの。こういうかたちで発表することは久しぶりなので、そういった意味では新作です。ペインティングを施してみたり。

ーみなさんただ写真を展示するだけではなく、アイデアを加えていましたね

常盤:展示のそのときまで、どういう作品を出すのかわからなかったので、偶然そうなりましたね。外的なものなのか、撮影時のものなのか何かアイデアを加える、というのは聞いていましたけど。

内藤:俺のいちばん大きな作品に関しては、ずっと撮り続けているものを深化させた作品ですね。

米原:俺は久しぶりに写真を軸として選んだ作品ですね。

常盤:今までの作品は見る人も写真という枠の中で評価してくれていた人が多かったんですが、例えば、以前展覧会で熱心に写真を見てくれている方がいて、声をかけられたんです。「これは何dpiで出力しているんですか」って聞かれて、「そこかい」みたいに思うことは多かったんですけど(笑)。そういうものから解き放たれたいという思いがありました。今回のようにシルクスクリーンで刷った作品だったり、まさしく米さんの言う違う文脈の表現。

photo & collage 常盤響

内藤:示し合わせたわけではないのに、どこか共通している作品が出揃ったのはいいですよね。

常盤:ちゃんとそれぞれのバラエティの良さもありつつね。

内藤:キャリアだなーと思いましたね。

ーてっきり、そういうコンセプトを示し合わせた上で作品を制作したのかと思っていました。

内藤:全然だよ。途切れ途切れのZoomで一回話しただけ(笑)。

米原:Zineもシルクスクリーン入れたり、折り込みポスター入れたり、手が込んでるよね。

内藤:これやりたかったんですよ。今出版社やってくれないもん。キャバクラ連れてったり外タレ連れてきたりはするくせに(笑)。そんなのいいから刷ってよと思う。今回みんなのやりたいことが実現できたZineも、内容見れば安いと思うんだけどなー。

ZINE
ZINE 米原康正ページ/シールデコ
ZINE 常盤響ページ/シルクスクリーンプリント
ZINE 内藤啓介ページ/折り込みポスター

ー「エロ」や女性の身体での表現に対して厳しい世の中ではありますが、今回の3人の作品は自分たちのやりたいことを表現したという感じがします。

常盤:CP+(写真とカメラの見本市)のカメラメーカーのブースに講師として呼ばれたことがあったんですけど、作品も出して欲しいっていうから水着の写真を出したんですよ。そしたら「刺激が強すぎるので別の写真をと」言われて驚きましたね。昔は、サム・ハスキンスのエロいカレンダーがペンタックスブースでもらえるから、勇んで晴海まで行ってたくらいなのに。そこにはカメラとか写真が好きな人たちが集まってるわけじゃないですか。一方で、会場ではキャンペーンガールが露出してカタログ配ったりしているんですよ。「女性層にもアピールを」なんてメーカーは言うけど、今や女性のカメラマンの人たちも女性を被写体としてたくましく思い切って表現してるよなーと思いますね。

米原:まあ確かに今、おっぱい出しにくくなっているけどそれはかまわない。例えば今回ビームスじゃなくどっかの百貨店とかだったらちょっとおっぱい出すのはやめようか、って最初から自粛するよね。でもそれはそれで別にいいと僕は思ってる。

内藤:そうそう。別におっぱい出す出さないで勝負しているわけじゃないし。何か、そういった風潮に対して革命を起こそうとかそんなつもりもない。

常盤:今日、展示に立ってみて思ったけど、若い女性や女性のカメラマンからの関心の方が高くてエロの表現の人気が高まってくると思いますよ。

ー常盤さんはご自身でブログマガジン週刊ニューエロス(WEEKLY NEWEROS)を配信していますが、そういったところからも女性からの反響はありますか?

常盤:実際アクセスを解析すると性別や国、年齢などわかりますが、30代半ば以上は大体男性。しかし20代になると女性が圧倒的に多いです。

内藤:俺のインスタもそんな感じです。

米原:おじさんはステレオタイプのエロが好きだけど、一方で、アート性を感じる、おじさんたちが嫌がるエロスを若い世代の女性が好きなのかなと感じる。

常盤:若い世代は、おっぱいが出てなきゃダメとかそんな次元で作品を見ていない。一方でおじさんたちからは、「(ニューエロス)今週号拝見しましたが、乳首が出ている写真が一枚もありませんでした。どういうことですか?」というメールが届いたりしますから(笑)。

常盤響

写真とのそれぞれの向き合い方。『LAW & GUNZ』のこれから

米原:おっぱいじゃないけど、僕もチェキで撮っててこの写真家はいつもピンがボケてるなんてamazonに書かれたりするからね。「ピンが合わせられないのか」なんつって、チェキだって言ってんじゃん(笑)。カメラマンの美学みたいなものがあるんだろうね。全部ピンを合わせるということに。建物撮るようなやつで撮る人もいるから。

内藤:米原さん世代のカメラマンって、機材もフィルムも複雑だったじゃないですか。だから人よりもピンを合わせられるって価値観が重要だったんでしょうね。望遠レンズとかで車をバチっと撮ったり。そういう技術が重宝された時代なんだと思います。

常盤:いくら、有名であれその価値観から抜け出せないということはカメラマンとして優秀でも、表現者としてはそれまでなんでしょうね。

米原:女の子撮るのに高速連写で撮ったりする人もいるけど、何にも変わらないわけ。女の子止まってるんだもん。36枚全部一緒。カメラ投げる人もいるよね。

常盤:いましたよね。ペンタの67とかを何台もセッティングしてバンバン投げるような。

内藤:カメラならまだ良いけど灰皿投げる人もいたね。今はそんな人いないけど。

米原:アシスタントなんてヒヤヒヤもんだよ(笑)。

内藤:昔、ランウェイのバックステージのスナップかなんか撮ってるときに、ハイファッションのカメラマンの人のスタジオ撮影見学したことがあるんですけど、「Came On!」とか「Good!Good!」なんつってカメラをブンブン投げてて。「外国人の霊が降りてきちゃった」なんつって笑ってましたね〜。

米原:そういう人に限って外国に行ったことないんだよな。もう、ダメよ!悪いこと言っちゃ。良い写真撮るんだから。

内藤:確かにね。グルーヴィーな写真を撮ってましたよ。

ー3人が撮影するときに大切にしていることはありますか?モデルを選ぶ基準とか。

米原:俺は、ページの企画や媒体に合わせてモデルを選ぶ。エロい写真を撮るときは、ちゃんとエロい子で撮りたい。“エロそう”とかじゃなくて本気でエロを追求している人。金のこととか、次どこ整形しようかとか、他のこと考えている子じゃだめなんだよな。その仕事にちゃんと向き合ってくれる人じゃないと。頼まれた仕事で来てくれた子が全然前向きじゃなかったりすると、俺喧嘩するもん。

内藤:しそうー。割と見たことある。

米原:仕事しようよ。ってはっきり言う。ファッションで撮るならファッション寄りの写真で撮るし、でもエロの撮影に呼ばれてるわけだからさ。事前にちゃんと話をして、その人のパーソナルな部分を聞くようにしてるんだけど、そこで嘘つかれたりしちゃうとダメ。信頼が築けないじゃない。

内藤:俺はなるべくベタベタしない。なるべく距離を取る、かな。

米原:「ちんかめ」はまさにあの距離感が肝だよね。

内藤:撮影後に仲良くなったり、一冊丸々親近感のある写真を撮らなきゃいけないってなったらやり方考えますけど。「ちんかめ」はフィギュア人形っぽいというか、漫画の扉絵が好きだったからそういうイメージ。一枚で完結させたいというのがもともとのコンセプト。

常盤:僕は逆で、撮影の時はなるべく距離感を詰める。撮影後はご飯も行かないし、連絡もしない。撮影は仲良さそうに撮るけど、あまりその人のプライベートに関しては知らない。「ニューエロス」に至っては過去の週刊誌のときのトラウマの対極で、自分がターゲットで客がいない。だから被写体の女の子が喜んでくれればそれで良いんです。撮ったあとでやっぱり載せたくないって言ったらそれでももちろんOK。客がいなければいないほど嬉しいみたいな感じ。

内藤:俺と常盤さんを知っている友達はよく俺、常盤さんを比較したりするけど、常盤さんは写真の距離感が近いから、実際にしてるんじゃないか。みたいなこと言ってますよ。

常盤:実際の話、写真撮ってると疲れるじゃないですか。大体世の中に出てる僕の写真は撮影開始から3〜4時間くらい経ったときのもの。最初のは緊張していて使えないから。いいなと思えるものが撮れるときにはもうヘトヘトで早く帰って休みたい。モデルさんから「お腹減りませんか?」って言われたりするけど、「ごめん。このあと打ち合わせがあって」って嘘ついてご飯も断っちゃうくらい。

内藤:たぶん、常盤さんは女の子に気を持ってかれちゃってる感じがするね。

常盤:ほんと、吐きそうになるくらい消耗する。

ー今回の展示についてのモデル選びはいかがでしょうか?

米原:今回はニコルちゃんって言って、前から知っている子なんだけど自分でエロい写真をインスタであげたりしていて、ギャル系で有名なコ。撮りたいと思った女の子を撮らせてもらった。顔が出ているところは全部ニコルだね。話したら「おっぱいとアソコがでなければ好きに撮ってくれていいよ〜」って言って快諾してくれた。

常盤:僕は自分では一切モデルを選んでいないので、来てくれた人を撮った。日程が合えば、誰でも撮ります。ただし、未成年はヌードじゃなくても撮りません。それ以外はモデルの方からやりたいって言ってくれた人を撮りました。撮影中も敬語で喋っていて、来てくれた人は「エロいことされるんだろうなと思ってました」って言ってサラッと帰っていきます。それくらいの気持ちで来てくれた方が実際、良いのかもしれませんね。

内藤:俺は万美ちゃん(渡辺 万美)と撮りたいねって話をしていて、このスタジオ(取材は新宿に新しくできた内藤さんのスタジオで行われた)が出来たのと、展示があるタイミングが重なった感じですかね。うまくシンクロしました。もう1人のタトゥーの子もそんな感じ。

ー最後に『LAW & GUNZ』の今後の展開を教えてください。

米原:これやってみて楽しかったから、広げていこうと思ってるんだよね。『LAW & GUNZ』ツアーをやります。

内藤:色々なところでやりたいっすね。DJイベントもセットで各地を回りたい。

常盤:9月にとりあえず大阪ですか?

米原:ほぼ決定ですね。

内藤:葉子さん、米さんの9月のスケジュール押さえちゃってください。

常盤:あ。東京のレギュラーイベントがある第二日曜以外でお願いいたします。

米原:9月、元BEAMSの永井さんも来てくれるといいね。『LAW & GUNZ』、今後もぜひご期待ください。

『LAW & GUNZ』FIRST EXHIBITION 「プリエロだけじゃダメですか?」の展示は3人の個性が際立った作品が、ホワイトウォールを鮮やかに色めきたたせ、ひとつの空間の中で調和していた。老眼だなんてとんでもない。ファインダーを覗きモデルと相対するその眼差しと審美眼は曇りなく鮮明である。純度の高い、好きを突き詰めた写真たちが躍動している素晴らしい展示だったと個人的には思う。

近年は若い世代の、新しい価値観にスポットが当たることが多いが、紆余曲折、時代を駆け抜けてきた先人たちの話から得られる知見もあるというもの。そしてどの時代に置いても、旧態的なルールにうんざりしながら、枠からはみ出しながら、新しい生き方や表現を模索した人たちは確かにいたのだ。ピュアに“好き”を追求している人、いわば“センス的不良”、砕けた言い方をするとトッポいおじさんたちの話はやっぱり面白い。第二の青春を謳歌する男たちの今後に、期待せずにはいられない。神出鬼没の異端の写真家ユニット『LAW & GUNZ』のリベンジはまだ始まったばかり。次は、あなたの街にやってくるかもしれない。

Text:Tomohisa Tomy Mochizuki
Photography "LAW&GUNZ”
内藤啓介
常盤響
米原康正


LAW&GUNZ zine は6/24(金)から7/18(月・祝)
六本木ヒルズ A/D ギャラリーで開催されている
「HERE IS ZINE MARKET 2022」に参加・販売されている。


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