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思考の応用でつなぐ、ブランドとUIデザイン

この記事はGoodpatch UI Design Advent Calendar2019の15日目の記事です。

はじめに

1年ほど前、Goodpatchは領域を広げるため、Brand Experience Design(BXデザイン)専門チームを立ち上げました。新しい領域への挑戦の中で「GoodpatchにしかできないBXデザイン」を探りながら、私はそのメンバーの1人として様々なプロジェクトを担当させていただきました。

この1年の多くの学びの中で特に印象的だったのは、UIデザインの思考法がブランドデザインにも応用できるのでは?という可能性に気づいたことです。

BXデザインの目当てを「企業としてのスタンス、社会へ果たすべき使命を表明するため」、UIデザインの目当てを「ユーザーが思い通りに、ストレス無くソフトウェアを操作するため」だとすると、この両側の体験を一気通貫させることはとても難しく、まずはそれぞれの専門性を深く理解しそこにある共通点を見い出し、齟齬なく一直線につなげていかなければいけません。

前置きが長くなりましたが...この記事では、ブランドデザインとUIデザインの間にある共通点の一つが思考であり、思考の応用によって異なる2つの専門性をつなぐことができるのでは?と考え、実践してきたことの例を2つご紹介したいと思います。

❶グロースサイクルの応用で、ブランドとしてやるべきことを整理する

プロダクトの成長サイクルを可視化して整理するために、深津さんが実施されているグロースサイクル。ユーザーの理想的な行動と、KPIを対応させるなどの目的でUIデザインの世界では活用されています。

この成長サイクルの可視化という点は、UIデザインだけでなくブランドデザインにも必要な観点なので、抽象度を上げてとらえると応用可能な思考法となります。

例えば、レストランを例にしてみると....

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ミニマムでこのような成長サイクルを作り、単にお客さんの数を増やすのではなく「良いお客さんを増やす」をサイクルに入れてみます。そうすると「良いお客さん」とはどんな人なのか?という問いが生まれます。

当然、繋がる指標は「シェアが増える」なので「シェアをしてくれるお客さんがこのレストランにとっては良いお客さんである。」と定義できるのですが、どんな内容のシェアを増やしたいのか、どんな認知を広げていきたいのか、など定性的な定義も乗せていくことで、ブランドとしてやるべきことを可視化していくという使い方ができます。

例えばブランドの思想として「このレストランにとって良いお客さんとは、食事の感想や評価だけではなくこのレストランで過ごした素敵な時間や洗練されたスタッフとのやりとりについてシェアしてくれる人だ。」とするならば、ブランドが持つミッションは、「食事の内容だけでなくその空間やサービスそのものを人に話したくなるような体験にする。」と設定できます。これをうまく対応させればグロースサイクルを起点に定量と定性の目標をブランド側とUIデザイン側で共有することができます。

❷オブジェクト定義の応用で、ブランドの輪郭をとらえる

1年ほど前から、Goodpatchの有志メンバーで始まったソフトウェアデザインを研究するチームが、OOUIについてのたくさんのナレッジを社内外に発信してくれてました。

その中で、ソフトウアはオブジェクトの集まりとして編成されているので、オブジェクトを正しく整理することでユーザーにとって扱いやすいものになるという考え方がブランドデザインにも応用可能であることに気づき、ブランドに内包されている概念をとても思考しやすくなりました。

つまり簡単に言うと、一度俯瞰してこのブランドは何を扱うものなんだっけ?と考えて整理するということです。とても単純ですがこれが意外と重要で、正しく捉えることはもちろん切り取り方次第で思想やミッション、ポジショニングまで変わりうる重要な定義なのです。

例えば、食事に関係するブランドがあるとします。しかし食事のままでは概念はとても広く、粒度の大きいものから小さいものまで、無限に広がってしまいます。

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この無限の概念を、どのように切り取り、何を大切にするのか?を曖昧にせず、きちんと定義付けすることでブランドの輪郭が作られていきます。

切り取り方の違いで圧倒的な世界観の差を作り上げたブランドの例として、今年担当させていただいた、Holmes様の事例を紹介します。Holmesは企業の契約に関わる業務全般を最適化する、日本で唯一の契約マネジメントシステムです。このブランドが競合他社との違いを生み出しているポイントは、「契約書」ではなく「契約」そのものを切り取っているという点です。この思想がブランド側にもプロダクト側にも徹底されており、ユニークで他にない日本で唯一のポジションを築いています。

ソフトウェアがオブジェクトの集合によって編成されているのと同じように、ブランドもブランドが持つオブジェクトによって編成されています。オブジェクトを整理することでユーザーが使いやすくなるのと同じように、ブランドの輪郭を正しく捉えることで、より世の中に価値を伝えやすくすることができると、思考の応用によって気づくことができました。

おわりに

あらゆる専門性には原理・原則があり、それは他の専門性にも応用できる普遍的なものであると言われるように、今後デザインの領域がさらに広がり細分化されたとしても必ずそこには何かの共通点はあるはずです。全ての専門領域を1人のデザイナーが担当できれば理想ですが、異なる専門性を持ったチームとしてゴールをめざすのであれば、同じコトをみつけて思考を応用しあうことで、遠くのゴールへ速く到達できるのではないでしょうか。

そしてGoodpatchでは、様々な専門性を持ったデザイナーがそれぞれの領域の学びを積極的に発信してくれています。自分の専門性でなくても、日々情報に触れることで理解と気づきを得てられる環境は学びが多く、とても心強いです。冒頭に書いた「GoodpatchにしかできないBXデザイン」の答えが、この環境で自然と共創される異なる専門性の思考の応用にあると信じ、2020年もデザインの力を世の中に証明していきます。

がんばる。

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