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「複眼人」(2021年、台湾小説、呉明益 著)
CAVA BOOKSさんの海外文学選書サービスをきっかけに海外小説を読むようになりました。小説も映画も好きですが、いい小説を読んだ後の読後感はその小説が長いほど、一緒に生活を営んだような旅をしてきたかのような、お前も終わってしまうのかと後姿を見送るような、少し複雑な気持ちになります。同時に長い旅を終えた後の安堵感のようなものも。
小説自体が経験できない世界に行ける媒介物のようなものですが、特に海外文学というと、完全にここではないどこかであったり、文化の大きな隔たりだったり、自身の周りにはない異質なものに触れることができて、また、(その言語を使えないから日本語で読むしかなく)それら全く異なる世界を日本語によって理解するという不思議な体験ができるということに、私は毎回新鮮に感動します。
海外文学を読むときはやっぱり自分は日本人だなぁということと、その国の言葉を理解して本や映画を嗜みたいなぁということと、その小説を現地の言葉で読み、理解し、翻訳し、そして日本語で発売してくれた方々に拍手喝采を送りたくなる、それらの気持ちがないまぜになります。そして、それなのに、毎回新たに語学を学習し始めることがないのがダメなんだ(自責
さて、今回は「複眼人」です。
まず書いておきたいのは、自分が映画や小説についてこういった文章を書こうというときは、「(この作品)やっべー、めっちゃいいじゃんこれ。面白すぎるでしょ。でもその良さとか一言で言えねえなぁ。とりあえずちょっと書いてみるか。本当やべーなこれ、マジで」ぐらいに感動しているときなので、この作品がすごくよかったというのは大前提で読んでいただけると吉です。
また、小説や映画について書くときには、あらすじの1ミリも分からない状態で初見を迎えるのが最も重要だと考えるぐらいにネタバレが嫌いなので、そのあたりに緊張しつつ文章を書き進めようといたしております。本当の完全には無理だけど。
さて、この小説何がよかったかというと。
パラレルワールド的世界観
舞台となるのは基本的には台湾なのですが、その台湾の存在する世界線が非常に現代世界に似通っているけれども、起こりそうなとある社会問題を孕んでいて、まだその出来事は今の世界では起こってはいないけれど、こりゃああり得る世界線だ、という絶妙な世界観です。今後の予知・予見にも思えるし、その状況下の人間の反応が映画「ドント・ルック・アップ」で描かれた人間たちの反応のように皮肉で可笑しくて「うわぁ、めっちゃリアル」というのがとにかく面白くて面白くて。
キャラクタードラマの仔細な表現
キャラクターのドラマが仔細で悲しくてちょっと可笑しくてそれぞれに小さな救いがあるけれど、やっぱり苦しい。誰に感情移入するか、というものというよりも、なんというか、ウォッチャー的視点(マーベルのワット・イフのあのウォッチャーのこというてます。ディズニー+を観れる人はチェケラ!)というか、淡々とキャラの出来事とドラマを描いていくのが、読んでいても悲しくてちょっと可笑しくて苦しいというね。うまいんです。
やっぱり台湾の物語
大きな世界の出来事を描きつつ、台湾という国を丁寧に描いていて、ものすごく感心してしまう。特に台湾の土着民族の話が多く、日本人なら看過できないですよね?セデック・バレという映画の話をしたくて仕方ないんですが、それは長くなるので「絶対みてね!!!」と書くに留めます。絶対観てね!!!(アマプラで見れます。まさのぶぅ)
いったんまとめやす。
複眼人という小説は、台湾を舞台にしつつ、現代世界のパラレルワールドを描いていて、世界的でファンタジックなとある出来事が描かれる。一方でそれぞれのキャラクターの細かい人生ドラマを丁寧に描いていて、そのマクロ的なものとミクロ的な視点がすんごくいい塩梅、です。
では、なぜ「複眼人」という題名がこの小説につけられたか、なのですが、そこはやはり小説を読み進めながらおのおのが心の中で考えるのが一番じゃあねぇか、ということで、本作を読む前に「複眼」というものを少し知っておくとより楽しめたなぁと思うので、以下に示します。
昆虫および甲殻類の頭部に一対あり、これらの動物に特有な目をいう。個眼とよばれる光受容単位が多数集合してつくりあげているのでこの名がある。個眼は、キチン質からなる透明な凸レンズ状の角膜、集光した光の通り道である4個のガラス体細胞、それらの間隙(かんげき)を埋めているガラス体(円錐(えんすい)晶体)、細長く伸びる7~8個の視細胞とその中心にある感桿(かんかん)(受光部)を主要な部分としている。視細胞の最奥部は神経繊維となって光刺激を脳に伝える。この個眼は、洞穴動物や土壌昆虫のように退化してしまったものは除いて、比較的少ないイエバエで400、もっとも多いトンボの類で2万8000ぐらいが集合して複眼を構成する。各個眼の角膜は六角形で、互いにすきまなく並んで球面状の複眼表面を埋め尽くしている。各個眼で受光する光刺激が全体としてどう総合されるかは明らかではないが、一つのレンズで像をつくる脊椎(せきつい)動物のカメラ眼と同様、像を見ていることが知られている。その解像力(近接した2点の間を区別する能力)は、ミツバチの場合ヒトの100分の1、ショウジョウバエで1000分の1とされている。複眼では動くものを感じ取ることもできる。複眼をもつ昆虫の色覚はヒトに比べて短い波長側に感受性が高く、紫外線の部分まで感じ取るという。このほかミツバチで偏光の方向を認める働きのあることが調べられている。
ふむふむ。
で、少し逸れますが、もう少し込み入って、かつ、面白い複眼のお話。
こどもの質問に真面目に答える大人って好き。
ということで、複眼人、毎晩寝る前に読んでいたのですが、寝る前に完全に異世界に行けて、少し悲しくて、不思議で、あったかい。おすすめの海外文学です。「セデック・バレ」も観ないとですよ。映画館でやらないかなぁ
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