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勝手に マルチばース of 山田YO次(勝手にMoY)

勝手にマルチバース


あっちの映画に出ていた俳優が、こっちの映画ではまったく異なるキャラクターを演じていて驚く。
そんなときに、「あぁ、この人は別の宇宙ではこんな人だったのか・・・」と勝手に結論付けること、それを勝手にマルチバースと呼ぶ。
勝手にマルチバースは、映画が今後作られる以上、増えることしかなく、また、増えることで誰にも迷惑をかけないし、そもそも勝手にマルチバースと言って理解できるのは、この文章の冒頭を読んだあなたと私意外には存在しない。


例えば「ブロークバック・マウンテン(2005年、アン・リー監督)」で男性同士の衝動的な恋愛と社会的に認められない関係に揺れる男性を好演したヒース・レジャーは、「ダーク・ナイト(2008年、クリストファー・ノーラン監督)」では完璧に狂った超絶魅力的な悪役ジョーカーを演じた。
そのときも「あぁ、ヒース・レジャーという人はあっちの山ではホモセクシュアルに悩む男性、こっちの宇宙ではえらく悪い人になったものだなぁ。ってか、人間が完全に違うくない?」などと思ったものである。


純朴そうな青年が・・・



こうなる。あれが、こう。
同じ人物・・?


ちなみに、同じく「ブロークバック・マウンテン」でヒース・レジャーの相手役を演じたジェイク・ギレンホールも死に物狂いで物騒なニュースを追う狂った記者役(「ナイトクローラー(2014年、ダン・ギルロイ監督)」)とかスパイダーマンの敵(「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム(2019年、ジョン・ワッツ監督)」)を演じてくれたりするので、勝手にマルチバースの想像にはまったく事欠かない好役者である。

本来のマルチバース

本来の、「マルチバース」というジャンルはいま株価が高騰している。
そもそも多くの映画で語られてきたマルチバース(日本では特撮系で取り入れられたのが先駆けでそれは大変すごいことらしいが、いかんせん特撮系の知識が薄いから書けない)だが、やはりそこらへんを切り開いてきた近年の映画群といえばマーベル映画にほかならぬ。



「スパイダーマン スパイダーバース」「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」「ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス」など、これまで拡げに拡げてきたMCUという共通宇宙が、さらにマルチバースという発想でまさに無限に拡がっちゃって大盛り上がりしている。
なんでもありですやん、なのである。





それから、エブエブがアカデミー賞作品賞ををを獲ったし、ミシェル・Yoもキー・ホイ・クァンも受賞した。
となればこれはもうマルチバースが世の中を席巻しているといっても過言でない。
だがしかし、マルチバースというものは広範囲なテーマゆえに、その取り扱いは難しく、マーベルみたいに広げた風呂敷をどないしてまとめましょか、となることもあるから、エブエブみたいに秀逸に一本の映画にまとめたのは稀有な例であろう。(だからこそアカデミー賞という名誉を手にしたのだと思う)


エブエブといえばの石。映画面白かったですねぇ


MoY(マルチバース オブ 山田洋次)


ところが一方、勝手にマルチバースは、各々の心の中で展開され、正直個人の匙加減だから、文字通り言い出したらきりがない。
それこそ宇宙的な規模のバカ話になってしまう。
ハッキリ言おう、宇宙的な規模のバカ話、望むところである。
ここからがM oY(マルチバース オブ 山田洋次)の話だ
山田洋次映画という宇宙についてだ



「博物館網走監獄」より拝借
行ってみたい。



高倉健
といえば、「網走番外地(1965年、石井輝男監督)」網走刑務所から脱走している。
行きがかり上と男のメンツで脱走することになる高倉健はかっちょよく、鉄砲で撃たれたりしながら雪深い網走を逃げてゆく。

また、高倉健といえば、刑期を終えて出所した後の顔がなんともいえず哀愁があってたまらない。特に「冬の華(1978年、降旗康男監督)」で刑期を終えて出所した高倉健の顔と雰囲気。
仲間に用意された部屋で、パンと牛乳を食べたときのあの美味そうな顔。
質素な好みとそれを食った時の「うまいぃ」というあの顔がもうたまらない。



そこへきてようやく山田洋次監督の「幸せの黄色いハンカチ(1977年)」の話をしよう




この映画においても高倉健は出所したての男を演じている。しかも網走刑務所から出所したばかりである。もうこの時点で高倉健×網走刑務所というのでニヤリしてしまうのが勝手にマルチバースの思考法。高倉健は何度網走刑務所を出たり入ったりしているのか。
しかも出所した高倉健は町の食堂に入ってラーメンを食うのだけれど、
また、その、顔!!!
「黄色いハンカチ」は1977年公開、「冬の華」は1978年公開の映画だから、幸せの黄色いハンカチの美味そうな顔のほうが少しタイミングは早い。
出所した後に初めて飯食う美味そうな顔グランプリ優勝である。


これは黄色いハンカチのシーン。この後の顔が・・・もう・・・


そのあと、黄色いハンカチで高倉健が出会うのは、武田鉄矢桃井かおりであり、結局はこの二人と高倉健の家に帰り着くまでのロードムービーなわけだけれども、武田鉄矢と桃井かおりと「車」というものも相性がいい。


武田鉄矢と赤いファミリアが旅に出るのは黄色いハンカチで、その車がスズキのジムニーになって九州を走れば、それはもう、「男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく(1978年、シリーズ21作目)」となる。
武田鉄矢ってば、このころは「ばかちんがぁ~」の学校の先生のイメージよりも、田舎から出てきたちょっとダメな若者、といった塩梅でコメディ要素が強かった。
まぁ男はつらいよでは車で旅に出るわけではないんだけれども。
とにかく、モテない男と車と旅ってのはよく合う。それを別の映画でほとんど同じように使っちゃったものだから勝手にマルチバースみが強い。


赤いファミリア。旅のきっかけ。


その赤いファミリアに乗り込むことになる桃井かおりも、黄色いハンカチでも人の車に乗せてもらって旅するけども、人の車に乗ってぐちぐち悩んでいる桃井かおりといえば「男はつらいよ 翔んでる寅次郎(1979年、シリーズ23作目)」だ。


この映画では、桃井かおりが結婚式から逃げちゃって、旅に出ちゃって、知らない男の車に乗って襲われそうになったところを寅さんに助けてもらう。
こうなってくると、「男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく」と「男はつらいよ 翔んでる寅次郎」と「幸せの黄色いハンカチ」の世界が頭の中で交差しまくってしまう。これぞ勝手にマルチバースの妙味、というかこの頃の山田洋次監督のそれぞれの俳優に対するイメージがそういうものだったんだろうなぁと思う。それを言っちゃあおしめぇなんだけどもね


兎にも角にも、黄色いハンカチでは、赤いファミリアに武田鉄矢と桃井かおりと高倉健とで乗って、高倉健の家に行く。
で、道中あの健さんが「どうせ嫁は待っててくんないよ~だっておれ人殺しだもの~」とネガティブ健さんになったりして。
そしてそして、家で待っている嫁というのが倍賞千恵子でしょう。


それはもう「男はつらいよシリーズ」で、毎回毎回、兄の帰りを浅草で待っているさくらと重なるしかないじゃあないですか。こっちの宇宙では高倉健の帰りを待っていたのかさくら…

もう、ほとんど、男はつらいよと黄色いハンカチって同じ映画なんじゃないの、実は。
黄色いハンカチでは、もし倍賞が健さんのこと待ってるなら黄色いハンカチを見えるところに吊っててね、と約束してた。
で、家についたら家の前にたくさんたくさん黄色いハンカチが掲げてあって、よかったねぇぇぇっぇえぇとなるっつーもんなんだよね。
いい映画だ、ほんと。



で、終わらないのが黄色いハンカチ。
旅の道中、健さんの担当刑事としてさらっとでてくるのが渥美清ですよ。
もう言わずもがなの寅さんですよ。
寅さんってば、もう寅さんのイメージが強すぎて、刑事の格好をしているのにテキヤ稼業のあのキャラと風貌が思い出され、もう刑事の服や様子や演技なにからなにまで寅さんにしか見えない。刑事の皮からもう寅さんが半分突き破っているような塩梅。
寅さん何やってるの、あなたは別のユニバースでは刑事さんにお世話になるほうでしょうが、まったくもう。




で、さらに。
黄色いハンカチの3年後に「遥かなる山の呼び声(1980年、山田洋次監督)」って映画がやってましてね、それも高倉健と倍賞千恵子なんだけど、すでに、黄色いハンカチのマルチバースか?!としか思えない。


北海道を舞台に、誤って人を殺して警察に追われる男と、牧場を経営する母子の出会いと別れを描いた人情ドラマ。監督は“男はつらいよ”シリーズの山田洋次。北海道東部の酪農の町・中標津。風見民子は一人息子の武志を育てながら亡夫の残した牧場をひとりで切り盛りしていた。そんなある日、激しい雨の降る夜、一人の男が民子の家を訪れ、民子は納屋を提供する。その晩、牛のお産があり、男はそれを手伝うと、翌朝、去っていった。男が再びやってきて、働かせてくれと願い出た……。

ヤフー映画より


しかも倍賞千恵子の息子は吉岡秀隆
て、それはもうまさに「男はつらいよ」シリーズの親子じゃないの
ひろしはどこに出てるんですか。(ひろしは出てないし、おいちゃんもおばちゃんもでてない)


映画の終盤、ついにはね、警察の捜査が及んで健さんは逮捕されるし、これ以上家族は牛を飼ってここで暮らせないと、そういう状況になっちゃう。
倍賞・吉岡の家族は中標津の町へ、健さんは刑務所へ。
その刑務所への道中、列車の中で乗り込んでくる倍賞。
直接は健さんには話しかけられない。
隣のボックス席で、人と話しているフリをしながら、暗に自分たち家族が中標津の町で健さんを待っていると伝える。


そうして、倍賞から健さんへ渡される黄色いハンカチ
山田洋次映画における黄色いハンカチが何を意味するのかというのは、もう言わずもがな。
このハンカチをみて驚かずに、そして泣かずにいれませうか。
ここに、山田洋次的勝手にマルチバース究まれり。
実は「遥かなる山の呼び声」のこの部分を伝えたかっただけの文章だったりして。ぜひ見ていただきたい。感動するには他のユニバースの予習が必須ですけどね〜


ちなみに、酪農業を助けてくれる人工受精師として渥美清が出演。
キャラクターはそのまま。てか、人工受精師ってナニ!
なぜだろうなぁ、マルチバースであっても寅さんは寅さんなんですよね。それだけ偉大な映画なんですね
(すみません、人工授精師という仕事がありました。正確には家畜人工授精師という資格がありますね。世の中知らないことばっかりだ


ちなみにちなみに、「遥かなる山の呼び声」エンディングで高倉健が護送されて、収監されるのは網走刑務所なのでございました。
おあとがよろしいようで・・


「網走刑務所」の字の強さ。
RETRIPさんから拝借


今日は以上!


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