【映画】ナイト ミュージアムを三幕構成で分解してみる
■はじめに
まさか、プライムビデオでこの作品にまた出会えるとは思いませんでした。
『ナイト ミュージアム』。
自分の骨を投げるようにせがむ、恐竜の骨格標本・レクシー。
鍵を盗むし、マニュアルを破る、なのに愛嬌のあるオマキザルのデクスター。
小さくても勇敢で漢気のある、ジェデダイアとオクタヴィウス。
心の痛みに触れられて涙ぐむ、フン族のアッティラ。
石板を取り戻そうと一致団結する、博物館の展示物たち。
すごく思い出深くて、何回観ても面白い。
こんな博物館があったら、どれだけ楽しい夜を過ごせるか。
……その前に、まずは散々な目に遭うでしょうけど。
今回はコメディ映画の名作『ナイト ミュージアム』のストーリー構成を、三幕構成に基づいて分解してみようと思います。
三幕構成の参考書籍はこちら。
『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』フィルム・アート社
物語創作をしている方にとっては定番中の定番でしょうか。
なので、三幕構成といいつつ、正確にはブレイク・スナイダー・ビート・シートに沿って分解します。
■ストーリー構成の分析
◇オープニング・イメージ
主人公の名前はラリー。
バツイチの失業男性。
すでに再婚相手のいる元妻・エリカと、エリカと暮らす一人息子のニックがいる。
3ヶ月ごとに仕事を変えていて、今はアパートから追い出されそうなほど困窮している。
◇テーマの提示
明確にテーマを示しているのは、ニックのアイスホッケーの試合と、その後の2人の会話のシーン。
アイスホッケーの試合では、リンクで試合に臨むニックと、観客席から応援するラリー。
ニックが試合中に転倒するや、リンクに入って駆け寄り、「大丈夫か?」と心配するラリー。
それに対して、「大丈夫、だからリンクから出て」と返すニック。
ささやかな日常風景ですが、親子の間にある隔たり、立ち位置や視点の違いを表現するシーンになっています。
試合後の会話では、
「そのうち勝負どころが来る。そうなれば問題はすっかり片が付く」
「夢見ていないで仕事探した方がいいかも」
野心家的・夢想家的なことを言うラリーに対して、現実的な意見を言うニック。
テーマを挙げるなら、
・人生の立て直し
・親子関係の修復
といったところでしょうか。
仕事が定まらず、引っ越しを繰り返すラリーは、はたして人生を立て直せるような仕事に就けるのか?
ふらふら落ち着かない父親に不安げな表情を向けるニックを笑顔にできるのか?
そんな問いが、アイスホッケーの試合中とその後の2人の会話で提示されていました。
◇セットアップ
職業斡旋所で、ラリーの特徴について補足が入ります。
以前は「スナッパー」という、指パッチンで反応するスイッチを開発して、会社の社長をしていた。
けれど、拍手で反応する「クラッパー」が普及して、「アイデアを盗まれた」とぼやく。
場面は博物館に移り、メインプロットに関わる登場人物が提示されていました。
博物館のガイドを務める、レベッカ。
夜間警備員のセシル、ガス、レジナルド。
博物館の館長、マクフィー博士。
ティラノサウルスの骨格標本、レクシー。
セオドア・ルーズベルト(蝋人形)。
ローマ時代、西部開拓時代のジオラマ。
フン族のアッティラ。
モアイ像。
オマキザルのデクスター。
アクメンラーとその石板。
職業斡旋所での会話で、なかなか仕事が定まらず、野心家的な発言をするラリーの人柄への納得感が深まったように思います。
強いこだわりを持っていたり、一般的な仕事が合わない、みたいな気質が。
博物館でセシルに案内されるシーンでは、物語の舞台と共に、これから関わるキャラクターがしれっと紹介されていました。
◇きっかけ
夜間警備員として、博物館に1人残るラリー。
居眠りから目覚めた後、動き出したティラノサウルスの骨格標本との遭遇がきっかけで、奇妙な夜の博物館の物語が始まります。
◇悩みのとき
夜になると展示物が動き出すという、思いもしない事態に翻弄されるラリー。
ティラノサウルスの骨格標本に襲われて、尻尾に打ちのめされて。
血気盛んなフン族に追いかけられて。
オマキザルのデクスターに鍵を盗まれて、噛みつかれて、マニュアルを破られて。
ジオラマの人形たちに包囲・攻撃されて。
散々な目に遭って、夜警を辞めることをセシルに伝えます。
◇第1ターニングポイント
セシルに辞職を伝えた後、博物館を出たところでニックと遭遇。
「ここで働けるなんてすごいね」なんて言われて。
見栄を張って博物館を案内する約束をしてしまったことで、夜警を続けようと考え直しました。
◇サブプロット
博物館でガイドを務めるレベッカとの友好を深めつつ。
動く展示物への対処方法を見つけるため、歴史の勉強を始めます。
ネアンデルタール人にはライターを。
開拓時代組とローマ組には、ジオラマの外に出る自由を。
イタズラ好きなデクスターには、おもちゃの鍵を。
ルーズベルトには、サカジャウィアに話しかける勇気を。
◇ミッドポイント
第一幕で散々な思いをさせられた展示物たちを、順調に対処していくラリー。
これから順調に夜警の仕事をこなしていく雰囲気が高まっていきました。
まさに絶好調↑↑。
◇迫り来る悪い奴ら
順調そうに見えていたものの、フン族にマジックを見せたところから状況が一変。
アフリカ哺乳類のホールから動物たちが脱走して。
デクスターに鍵を盗られて。
ネアンデルタール人が火事を起こして。
ネアンデルタール人の1人が博物館の外に脱走して、夜明けと共に灰になってしまって。
騒動の後の朝、ラリーは館長にクビを言い渡されてしまいます。
その様子をニックに見られてしまったことで、親子の関係に亀裂が。
ニックに動く展示物を見せようと、夜の博物館に招待するラリー。
でも、時間になっても展示物たちは動き出しません。
展示物に命を宿していたアクメンラーの石板が盗まれていることが発覚。
石板を見つけるものの、それを含めた金品を運び出そうとしているセシルたちと遭遇します。
ニックが石板を起動させて、動き出す展示物たち。
石板を起動させたのが、ラリーではなくニックだったことには、意味があると思っています。
子どもに非日常を直に体験させる親、といった親子関係のメタファーだと。
ここから2人が非日常体験を共有する、という展開を示唆するフラグになっているんじゃないかと。
◇すべてを失って
◇心の暗闇
石板を持つニックを逃がすものの。
ラリーはセシルたちにボコボコに叩きのめされて。
また石板が奪われて。
鍵も取られてアクメンラーの部屋に閉じ込められて。
その間に多くの展示物が博物館の外に逃げ出して。
……と、事態はどんどん悪い方向に。
まさに絶不調↓↓。
◇第2ターニングポイント
石棺に閉じ込められているアクメンラーを解放して、部屋から脱出。
争ったり、自由奔放に騒ぎ立てる展示物たちを取りまとめて、石板を取り戻すために協力を促すラリー。
チームワークを発揮して、ガスとレジナルドを捕まえる展示物たち。
石板を持つセシルは、1人で博物館から逃走。
◇フィナーレ
ラリーは展示物たちと協力しつつ、歴史を学んで得た知識を使って、セシルを捕まえることに成功。
騒動の最中、博物館から脱走した展示物たちを戻らせて、事件は無事に解決。
かと思いきや、博物館の騒動がニュースになり、ラリーは今度こそクビになってしまう様子がえがかれます。
しかし博物館の知名度が上がり、来場者が増えたことで、クビが撤回、再び夜警を任されることに。
◇ファイナル・イメージ
博物館の夜警として、館長にも展示物たちにも認められたラリー。
ナイトパーティのように賑わう博物館で、レクシーの背に乗って帰りたがらないニック。
冒頭であった、
・人生の立て直し
・親子関係の修復
というテーマへの答えが提示されました。
■最後に
『ナイトミュージアム』を『SAVE THE CATの法則』の10のジャンルに当てはめると、「難題に直面した平凡な奴」あるいは「人生の節目」になるんじゃないかと。
どうして1つじゃないのか?
「元社長でバツイチの失業男ラリーが、夜になると展示物が動き出す博物館の夜警になる」
という観点でみれば、「難題に直面した平凡な奴」として捉えることができて。
・「この仕事が偉大になるチャンス」というルーズベルト(蝋人形)のセリフ
・夜警として展示物の歴史と向き合い、結果的に博物館の来場者増加に貢献した
ということを踏まえれば、「人生の節目」として捉えることもできるからです。
「博物館の展示物が生き返ったら?」というロマンあふれるコンセプト。
展示物たちと協力して石板を取り戻すストーリー。
愉快でコミカルなキャラクターたち。
シリアスな場面でも軽快さを損なわないコミックリリーフ。
コメディあふれる中、テーマに沿ったメッセージが織り込まれていることで、ただ面白い、ただ楽しいだけではない作品になっています。
しばらくぶりに、こうして脚本術ベースの視点も加えて改めて観てみたら、初めて観た時にはなかった新しい発見があって面白かったです。
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