第12夜 建築家と構造家の間の議論|TOPIC3 円酒昂(円酒構造設計)さんと佐々木翔さん(INTERMEDIA)のコラボレーション作品

この記事は、よなよなzoom#12:構造家と建築家の間の議論(2020年11月13日)で、ディスカッションされたものを編集しています。

円酒昂(円酒構造設計)さんと佐々木翔さん(INTERMEDIA)のコラボレーション作品

飛子保育園|建築家(佐々木翔さん/INTERMEDIA)からの作品説明

佐々木:簡単に自己紹介しますね。長崎県生まれで、福岡の九州大学を出た後にSUEP.で5年間お世話になりました。廣岡さんはSUEP.時代の後輩で、一緒に現場常駐した仲でもあります。2015年に地元の島原に戻り5年が経ちました。

実は、円酒さんとはほぼ全てのプロジェクトを協同しています。今回はその中から2つ紹介します。

スクリーンショット 2021-05-07 23.53.53©︎INTERMEDIA

1つ目は飛子保育園という、現在現場監理中の木造400㎡くらいの保育園です。
僕がいる島原半島の中にある小浜町が敷地です。ここはもともと漁村集落でした。ここにはこの土地ならではの印象的な風景が今でも残っています。

スクリーンショット 2021-05-07 23.54.46©︎INTERMEDIA

設計では、漁村集落が地形に沿ってバラバラと馴染むように建っているということをヒントに、分棟にも一体にも見えるというような建ち方をさせています。
円酒さんに相談する前から建ち方の検討はしていて、CGを起こしながらどのくらいの傾き具合がいいかなとかをスケッチしていました。梁の方向や架け方をどっちで架けるといいかなと考え出したあたりで円酒さんに相談しています。隣りあう分棟の屋根の傾きのギャップが生まれる、という検討段階で、印象的なやりとりがありました。
トラス的に考えることで小さい材で大きく飛ばし、青い方向には大梁を、緑の方向に母屋を架けることがあり得るのではないかというアドバイスがあり、ここで案が進んだ訳です。   
試行錯誤を繰り返し、この方向に梁を置いていきました。

スクリーンショット 2021-05-07 23.59.00©︎INTERMEDIA

ざっと概要を話すと、基本的にこの遊戯室以外の梁は標準的なスパンなので、105×270という長崎で全て手に入る材料なのですが、遊戯室だけ5m以上になっていきます。長崎には集成材を作る工場がないという事情があります。円酒さんとずっと話していた課題なのですが、長崎で取れる材だけでなにかできないかと。
その解決策として、スパンごとに105×105の材を付け足していき、段階的に梁せいを大きくする重ね梁という手法でいけるのではないかという提案がありました。こちらはそれを3Dで整理していったものになります。

この遊戯室の扇型の梁は105×270という標準的な梁にだんだん105角の材を継ぎ足していった結果、こういうモーメントみたいな形が出来上がっていきました。

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©︎INTERMEDIA


飛子保育園|構造家(円酒さん)からの作品説明

円酒:ここからは僕の方で。

最初の相談の際に課題として内装制限がありました。簡単には木を現しとすることができないのと、保育園なので、壁は子供たちの安全上、凸凹させることはできないという条件がありました。でも、遊戯室というアクティブな場所では、動きがある表現や仕上げがしたいという願望がありました。そこで、天井に着目しました。子供の手が届かない天井であれば、ザラザラとした質感のある表現を、梁の組み方などで面白くできるのではないかと。

スクリーンショット 2021-05-08 0.07.16©︎円酒構造設計

これは最初にもらった図面です。僕が「耐力壁足りているよね」や「ここの棟のラインは柱が落ちていないと大変だよね」などの資料を投げています。
翔さんの資料でもあったように遊戯室は図面の上の方の長いスパンのところだけ10m飛び、図面の下の方になるとだんだん狭くなって5m以下になるので、ここをどうやって解いていくかというのが課題でした。
あとは、地域性というか、そこで手に入る材料や大工さんの力量を踏まえて設計しないと、設計者の「こうしたい」という意見もなかなか通らないという、地方の現実も考慮する必要がありました。

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©︎円酒構造設計

色々と検討しているうちに、スパンが大きい部分で最大の断面が決まってしまうので、重ね梁で足りないところを足していけばという話になり、最終案が導き出されました。

実際に、重ね梁自体は昔からある古典的な方法で、木造設計指針などの色々な書籍にも計算方法が書かれています。ですが、記載されているものは基本的には端部も含めて同断面の重ね梁なのですが、ざらざらとした質感を出したかったので、モーメント図のような形状の変断面の重ね梁ができないかと思いつきました。モーメント図のような形状にすれば、最大の梁成は大きくなってしまいますが、曲げに関しては合理的です。端部も梁成が小さくなることで天高は高くなり、空間の動きとして面白いかなということで検討を進めました。形状としてはモーメント図の2次曲線を描くような形状になっていくような感じですね。

これは小西事務所時代からよく小西に言われていることなのですが、新しい構造にチャレンジするとき、「攻めるのであれば必ず安全にやらないといけない」と教えられました。木の場合は不確定要素が大きいので、乾燥収縮の割れやめり込みやクリープ現象を考慮しながら安全に設計する必要があります。そういった点に配慮しながら検討を重ねていきました。

スクリーンショット 2021-05-08 0.14.54©︎円酒構造設計

これはスパンごとの長さを出した実際の構造の見積図の資料です。図面を書いた後は今度は施工の問題が出てきます。この図面は最初は施工者の力量や好みが分からないので、4つの重ね梁の組立案を提案していて、施工者が選べるようにしています。僕は意匠に対してだけでなく施工に対しても、なるべくいくつもの施工案を提案しながらやるようにしています。

郷土資料だけを保存する図書館|建築家(佐々木翔さん)からの作品説明

佐々木:続いて、別構造のプロジェクトとして、今月から現場が始まっているRC造の紹介をします。長崎県内の郷土資料だけを保存する図書館であり、専門性が高い研究者などが来たり、周りの方が自習で使うことが多い施設です。
これはプロポーザルの時の提案資料です。

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©︎INTERMEDIA

多少の閲覧スペースはありますが、どちらかというと長崎にまつわる全ての郷土資料を保存することが主題のプログラムです。災害、水害が多い現代の情勢の中、湿式で完全に倉庫をくるむことで保存性能を確保するという意図でRC造を選択しました。更にその上に屋根を板金でもう一度葺き、二重防水を施して強固にしています。
一方で、郷土資料だけとはいえ公共性が必要とされる場所だったので、周りの県民と利用するスペースも求められていました。なので、出来る限り開くようなことができないかなということを同時に挑戦しています。

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左上のプランが現在もほぼ踏襲しているものです。青い点線が、公共の敷地内ということもあってか、現場のときも遊歩道の仮囲いを内側に入れて犬の散歩をするなど人が行き交うような場所です。その紫色のところに対して集会研修機能、イベントスペースを地域に活用できるように開き、もう少し奥にいくと、専門性の高い開架スペース、2階に資料保存スペースがあるというものです。
構造で悩んでいたのは、郷土資料保存の観点からRC造で強固に閉じるべきだけれど開きたいとこは開きたいということです。

スクリーンショット 2021-05-08 0.20.05©︎INTERMEDIA

先ほどの説明であったように、この手前側で集会研修やパーティションを使って細かく区切ったり、それ自体をギャラリー利用することを意図して開放的に回遊できるようにしています。奥の本棚があるところは開架室で、鬱蒼とした森に囲まれて直射光もしっかり切れるだろうということで、閲覧スペースを2箇所取って、そこは開くということをしています。
ずっと通り抜けが昼夜問わずされているので、中に回遊できる動線をRC造でどううまく作るのかということを円酒さんと検討しました。


郷土資料だけを保存する図書館|構造家(円酒さん)からの作品説明

円酒:翔さんも仰っていましたが、2階が閉架書庫で開口が基本的に無く、積載荷重が1.0tf/m2と重いのに1階は開架書庫なので空間として開かなきゃいけないというのが難しかったです。今回はどうしたかというと、壁を分厚く作り壁量を集約させることで耐震要素を確保し、開放的にしたいところはポスト柱をポツポツと入れていこうという方針です。

スクリーンショット 2021-05-08 0.22.24©︎円酒構造設計

実際に、閉架書庫はスパンがある程度飛ぶ上に、建物荷重が重くなると基礎にコストがかかってしまいます。そこで僕は、建物荷重を軽くするためにボイドスラブと偏平梁用いた無梁版構造を提案しました。ボイドスラブを使うとイニシャルコストがかかってしまいますが、その代わりに建物荷重が軽くなって基礎がコスト減になったり、無梁版なので型枠が簡易だったり、梁貫通スリーブが無かったりとメリットがいくつかあります。 もし将来的に設備が増えたとしても梁貫通しなくていいですよと役所を説得して採用してもらいました。

これが解析モデルです。解析モデルで見るように、ほぼ開口の部分はほぼポスト柱で解いてしまい、耐震要素は分厚い壁で処理するという感じです。実際に、ここが8mの片持ちですかね。

スクリーンショット 2021-05-08 0.25.47©︎円酒構造設計

佐々木:8mで片持ちですね。

円酒:この時に思ったのは、計画案の形に対して、無理せず自然にその形を活かしながら解きたいなと思い、設計要件として2階の閉架書庫の壁があったので、それをどう面白く活かすかみたいなところを考えながら設計しました。翔さんとはプロジェクトが多いのもありますが、その都度、まだ形が決まっていない段階から相談してくれるので最初から一緒に形を考えていくイメージがあります。雑談レベルで最初に「あれしたらこれしたら面白いんじゃないですか。」と。その中であるプロジェクトで使わなかった案が、別プロジェクトで使うようなこともありましたね。

今回、僕の中で設計の進め方が違う浜田さんと佐々木翔さんにお願いをしました。その違いがわかってもらえたら面白いかなと思い、話しました。

(以下、ディスカッション)

廣岡:いやー、凄い。円酒さんの仕事の幅広さが見えますし、浜田さんと翔さんのやっていることに何か通ずるものもあるというのも興味深かったです。今日印象に残っているのは、円酒さん口癖で「これじゃあつまんないよね」っていうなと思って。笑 

佐々木:いいますね。笑

廣岡:これ面白いなと思っているのに、これつまんないよねって言われた時(笑)、浜田さんはどう感じられていますか。

浜田:ミーティングで最低一回は言いますよ。「いやー、でも、これつまんなくないっすか」って。笑

円酒:意匠がつまんないってより、構造的につまんなくなっちゃうなと思って。
せっかく僕に頼んでくれているのにやりきれないなと。笑

浜田:多分、円酒さんにはまた違う美学があるんでしょうね。意匠的にこれは美しいと思うんだけど、構造的にはつまんない、て言われるんですよね。合理性だけではないものとかもありますよね。

円酒:多義的な合理性ですね。構造合理性もありますし、場所性とか意匠性も含めて、さっき言っていたザラザラしていた方が面白いとか、なんとなく第三者目線で意匠性のことを言ってみたりとか、あとは施工性をかなり気にしますね。結局施工者に「めんどうくさいよ」と言われるのが嫌だからというのはあります。笑

廣岡:なるほど。浜田さんの家具はかなり特殊なことだったと思います。なぜこの構造が出てくるのかという驚きがありました。
そもそもなぜあの材料を使いチェーンソーで切ろうと思ったのか。家具だと建築家が家具屋さんか施工者に聞いて、これだったら持つよねということをヒアリングして進むことが多いと思います。それを構造家に相談する浜田さんも、それを成立させるための最低限の押さえと組み方をコントロールしたお二人の挑戦も、面白いなと思いました。あの助長的なあり方が翔さんの飛子保育園の重ね梁とも何か通ずることがありました。工藤くんはどうですか。

工藤:円酒さんありがとうございました。唐突な質問ですが、円酒さんは建築家に対して怒ることありますか?建築家がわがままだったりすると、構造の方が整理してくれている面もあると思います。これ無理じゃないですかという進め方に対して、怒る面はあるのかなと聞きたくて。

円酒:あー。基本的に設計の話で怒ることはないかと。締切などの約束を破られたら怒りますけど。つまらないのは嫌なのでどうにかこれを面白くしたいんですよねっていう話はします。あとは僕が入るからには何かしてあげたいというのはありますが、建築家の表現もありますので、僕の価値観とは違うところでやっていたとしても、それはそれでありかなと思っています。コラボしているからこそ、自分の価値観だけで左右されたくないなというのもあります。

工藤:浜田さんは構造家に近く、円酒さんは建築家に近い印象を持ちました。同時に、浜田さんも佐々木さんも最初にイメージを決めるというのがびっくりしました。僕は構造をそこまで詰めない状態で構造家の人に相談することも多いです。造家の方から指摘を受け、それに引っ張られちゃう部分もあるんです。

円酒:僕の師匠の小西はすごくニュートラルな人なんですよ。常に固定観念に縛られずに、建築家のしたいことをしようみたいな。それはスタッフに対してもそうで、こういう風にしたら面白いんじゃないですかっていうことに対しても話を取り入れてくれたりしました。僕自身、そういうニュートラルな存在であるべきだなと思っています。僕も独立したてなので、ニュートラルにならないと多様性にも耐えられないですし、自分のここからの将来的な意味でも視野を広げたいなとも思っています。

廣岡:ありがとうございました。金田さんのプレゼンの方に移らせていただきます。

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編集:中井勇気、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)

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