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第14夜 建築・都市が老いることをどう調理するか?| TOPIC4 活用されていない既存の建物をどう受け入れられる器にするか(嶋田光太郎さん/スキーマ建築計画)

この記事は、よなよなzoom#14:建築・都市が老いることをどう調理するか?(2020年12月12日)でディスカッションされたものを編集しています。
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活用されていない既存の建物をどう受け入れられる器にするか(嶋田光太郎/スキーマ建築計画)

私は、1989年茨城県生まれで、廣岡さんのY-GSAの後輩にあたります。横浜国立大学から大学院Y-GSAに入り、四つのスタジオ制カリキュラムの内の一つをインターンシップにあて、チリの設計事務所に半年弱勤めていました。それから日本に帰ってきて、スキーマに入社し、5年くらい経ちます。

画像1@スキーマ建築計画

「老いる」というのは、既存の建物が、現代のニーズにあっていない状態や、うまく使われていなかったりそもそも使われていない状態の時に感じ、同時に、そこに非常に関心を持ちます。我々は、生活様式や時代の価値観が変わっていくんだから「老い」というものは当然だよね、と捉え、それらを受け入れられる器にどう変えていけるかということをやっています。

画像2@スキーマ建築計画
Photo(左): Kenta Hasegawa Photo(右): Yurika Kono


私が担当したリノベーションのプロジェクトから、今日は二つご紹介します。

三軒茶屋の家/House in Sangenjaya

 まずは、東京都世田谷区の住宅で、RC造の改修である三軒茶屋の家から紹介します。

画像3@スキーマ建築計画
Photo(左): Kenta Hasegawa

右の写真が既存です。三軒茶屋駅から3分くらいのところで、まわりを高い建物に囲まれた袋小路を入っていった場所にあります。元々、診療所兼住居として使われていた3階建・RC造の建物で、3世代にわたって大切に住まわれていました。
今回、そのご家族であるクライアントがお一人で住むことになってスペース的に過剰になり、また、診療所が閉業したあとのその場所を、別な形で地域と接続されたいと模索されていて、改修のご依頼をいただきました。
事業性優先で建て替えるという話もありましたが、地域に親しまれてきた建物を今後も別の形で愛してもらえる建物にしたい、というご家族一同の思いから、リノベーションの選択をとりました。

画像4@スキーマ建築計画

もともと診療所は1階の一部で、地域の人が入ってこられるゾーンは青いところ(上の写真参照)でした。一方で、独り住まいになると住宅に必要な面積は減るので、余った部分を、クライアントの要望であるギャラリーや、テナントとして外部と接続するスペースにし、建物の風通しを変えていこうと考えました。

画像5@スキーマ建築計画

 写真は既存の建物のプランです。15mくらいのアプローチを通ってすぐのところに診察室があって、それ以外のところは住居でした。

画像6@スキーマ建築計画

 これを、お施主さんがキュレーションするギャラリーと、テナント店舗として改修しました。

画像7@スキーマ建築計画

画像13@スキーマ建築計画
Photo: Kenta Hasegawa

 スケルトンにすると、非常にしっかり作られていて、これによって3世代のご家族が50年支えられてきたと思うと、非常に愛着が湧くものに見えてきました。そこで、これを建物の表情として残していこうと提案しました。

画像8@スキーマ建築計画

 2階がRCの9スクエアグリッド的なプランニングがベースで、加えて間仕切り壁がたくさんありました。それを、こんなに必要ないということで、一回、RCの躯体だけのスケルトン状態にしました。

画像11@スキーマ建築計画

 写真がプランです。RCの躯体が出てきたのが外周部で、ここは仕上げずに今後もRCの表情を見せていきたいと思いましたが、内周部はかなり厚くモルタルが塗られ、解体がしんどいので、各設備系を配する壁として仕上げました。

画像10@スキーマ建築計画
Photo: Kenta Hasegawa

 そうすることで、外周部(写真左側)は55年前の躯体が出てくるけど、内周部(写真右側)は新しく作られ、スケルトンの躯体の中に生活の基盤をどう作っていくのかが、構成として見えてくるような設計となりました。

 さらに、クライアントはよく友達を呼ばれるということと、非常に大きな外部空間があるということから、お客さんが下足のまま土間とバルコニーを介してダイニングキッチンに集えるプランニングにしました。このゾーンと床を仕上げたところで、なんとなくパブリックとプライベートが分けられるようになっています。(写真手前がプライベート、奥がパブリック)

画像12@スキーマ建築計画
Photo: Kenta Hasegawa

画像13@スキーマ建築計画

 テナントには「ブルーボトルコーヒー」が入ることになりました。町から外の人が入ってこれるゾーンを建物の1階部分に持って、さらにお友達であれば、2階のパブリックのゾーンで集えるという、都市に建つ家のあり方としての性質の更新をしたプロジェクトでした。

画像14@スキーマ建築計画
Photo(右): Kenta Hasegawa

建物南側は、左の既存のように閉じた庭の状態だったところから、今回の改修を経て、外部の人にも開かれるようになりました。

画像16@スキーマ建築計画
Photo(右): Kenta Hasegawa

現在、クライアントはギャラリーを運営されており、不定期で様々な展示会やポップアップショップを開催されています。

画像17@clinic
Photo: Michiko Ishikawa

1階をテナントスペースにするべく解体が行われましたが、スケルトン状態になった段階で、エキシビションをやった風景の写真が上です。その時のタイトルが「新たな価値を与える行為展」で、この建物のコンセプトに触れるようなタイトルでした。あるものの、見方を変えたり、取扱方を変えることで、新しい価値を持たせられたり、別の使い方ができたり、ということをみんなで考えた展示です。それも「老いる」ことに対しての1つの回答が集積した展示だったように思います。


黄金湯/Koganeyu

 次は、今年の夏に竣工しました、「黄金湯」という銭湯の改修です。

画像18@黄金湯

 上は既存の写真です。錦糸町駅が最寄りの下町と呼ばれるエリアで、80年以上の歴史をもつ銭湯です。このお話を頂いた時の黄金湯は、風情はあるのですが、お客さんのほとんどが常連さんという銭湯で客足も減ってきていました。クライアントは、銭湯を後世にも残したいというお考えをもたれており、今回ただ老朽化を直すだけではなく、次の時代に残していける様な新しい価値観の銭湯にされたいということで改修のご相談を頂きました。

画像19@スキーマ建築計画

 これは昔の写真です。洗い場と浴槽のみから成るシンプルな銭湯でした。当時は薪がエネルギーで、薪を溜めておくスペース(下1枚目の写真)と、釜場(下2枚目の写真)という薪を燃やす釜がありました。

画像20@スキーマ建築計画

画像21@スキーマ建築計画

文化としての銭湯を良く思っている人は多いと思いますが、家庭にお風呂がある現代、実際に通ってその文化を支えている人口はあまり多くないとも感じます。そういう時代でも銭湯文化を残していくには、お風呂に入る以上の体験ができる場所にした方がよいと考えました。また、銭湯ならではの、裸の付き合い的なものは良いなと思っている反面、実体験としてそういったものはあまり実感がないと思ったので、それに似た様な感覚を感じる場面として、お酒を飲んでいる時とかが近いと思うのですが、そういう、人間同士の関係性が作られる場にしたいと思っていました。

画像22@スキーマ建築計画

 改修でおこなった事は、健康法としての価値が高まってきているサウナスペースを風呂の奥に作った事と、風呂上がりにみんなで語りながらビールを飲める番台バーを作った事です。
釜場をガス化した事でボイラーが小さくなり、余ったスペースにサウナや水風呂、外気浴スペースが設置されました。

画像23@スキーマ建築計画

 こんな銭湯あったらいいよねという発想から始まり、ここでの体験が1日を少し贅沢なものにする、そんな銭湯ができたらいいなと、じっくり考えさせていただきました。

画像24@スキーマ建築計画


 プランです。

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 設計では、銭湯は必ず男女が仕切られて、向こう側が気になり、どこかもどかしさを感じる、という点に着目しました。向こう側には行けないけれど、向こう側の声が聞こえたり、そのもどかしさに想いを寄せられたらと思いました。

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 そこで、間仕切り壁の高さを2250ミリにして、これを仕上げの到達点に設定し、新しく作る内装はこの高さで完結させる、という設計にしました。この高さで境界を強調するような見えがかりを作り、その上に、富山絵図、大暖簾、ラブバー(手すり)など、向こう側の世界を感じさせる要素を散りばめました。

画像31

@スキーマ建築計画

 手すりはユニバーサルデザインの意図で全ての鏡につけていますが、一本だけはみ出ちゃって、ラブバーと呼んでいます。また、改修前は、入り口上部がガラスブロックだったのですが、エントランスの間柱を一本取って広げたことにより重量的に厳しくなり、板ガラスに替えました。それによって、黄金湯の象徴となる番台の照明(大提灯)が外から見えたりとファサードが生まれ変わりましたが、向かいの建物から脱衣場が見えてしまうことになったので、その視線を遮る目的で暖簾をかけたのですが、これが結果的に意匠的にも重要なものになりました。境界とその向こう側というテーマで、ユーモラスな暖簾をデザインしてくださったのは美術家の田中偉一郎さんです。

画像28@スキーマ建築計画
Photo: Yurika Kono

 躯体のコンクリートに対して、2250ミリまで仕上げて、それより下は温もりを感じられるようベージュ色でコントラストを出しています。

画像29@スキーマ建築計画
Photo: Yurika Kono

 撮影当日は、みんな本当に気持ちよくお風呂に入っていてくださって、お風呂の力を感じた1日でした。

画像30@スキーマ建築計画
Photo: Yurika Kono

 富士山を描いてくださったのは、ほしよりこさんです。右から左にストーリーになっているんですけど、実は、男女それぞれの場所から見ると、半分から先のストーリーが読めず、もどかしいようになっています。

画像31@スキーマ建築計画
Photo: Yurika Kono

 ベージュで2250ミリまで仕上げるという高さが、脱衣場を出るとカウンターの高さまで下がって、さっきまで2250ミリで分けられていた男女が、ついにこのカウンター越しに出会うというシナリオになっています。ビールはここのオリジナルビールで、非常に美味しいので、ぜひ一緒にいかがでしょうか。

(以下、ディスカッション)
廣岡:リノベーションをどう考えればいいのかなという時に、真っ当に向き合ってらっしゃいますよね。一番最初に言われていた、今のニーズに合っていないことに対して、言葉的な編集と、文章的な編集を、同時に行うことを着実にやってらっしゃるなと思いました。特に、三軒茶屋の家の方では、ブルーボトルになった時にアプローチが変わったところが素晴らしく良くなったなと思っています。また黄金湯も、ガラスに切り替えた事と建具が変わった事で、ここまで都市空間は影響を受けるのかと思いました。あと、建具のところの横のベンチが、この建築の場所が持っている面白さと、街の持っている文脈を同時に伝えているなと、最高にいいなと思いました。

画像32@スキーマ建築計画
Photo: Yurika Kono

 そこでビールを飲むということが、街にとってちょっと贅沢だけど、当たり前の様に設計されていて、元はそうではなかったのに、日常になっているということに面白さを感じました。これと同様に、三軒茶屋のアプローチのところも、昔からずっとあった様に見えて、そこで使われている人たちがすごく自然に見える。本来街区の中に入っていくことは少し勇気がいることだけど、そのまま入れちゃうみたいな良さを同時に感じています。そこが、「老いる」ということではなくて、都市自体の生態系を微妙に変質させていくような感じが面白かったです。

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編集:林稜梧、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)

校正:嶋田光太郎



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