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「キンモクセイ」 はらまさかず

 「あっ」
 キンモクセイの香りがしました。
 道に花びらが落ちています。
 「お星さまみたい」
 ももちゃんが、ひろいます。
 お父さんが、すーっと、花のかおりをすいこんで、
 「いいかおりだなあ」
と、いいました。
 
 「お父さんが子どものころね、おばあちゃんが、
 『まあくん、おなじ夢を見られるかどうか、ためしてみようよ』
そういってね、小さな包みを出したんだ。
それはね、夕方、二人で集めたキンモクセイの花びら。
二人で、そのにおいをすーっと胸いっぱいにすいこんでね、それから寝たんだよ」
 「それで、いっしょの夢、見られたの?」
 ももちゃんが、ききました。
 「ううん、だめだった」
 「そっかあ」
 ももちゃんは、残念そうです。

 「ねえ、お父さん、もう一度やってみようよ」
 ももちゃんが、いいました。
 「うん、やってみよう」
 二人は、キンモクセイの花びらをひろいます。
 たくさん集めて、うすい紙で包みました。
 二人は鼻を近づけ、甘いかおりをすいこみます。
ねる前に、二人で、ふふふと笑いました。

 よく朝、
 ももちゃんは、キンモクセイのかおりに包まれて目覚めました。でも、夢は見ませんでした。
 「お父さん、夢みた?」
 「見た!」
 お父さんが楽しそうにしているのが、ももちゃんにはわかりました。
 「もも、いた?」
 「いない。おばあちゃんがいた」
と、お父さん。
 「あっ、やっと、おばあちゃんと同じ夢を見られたのねえ」
 ももちゃんが、いいました。
 お父さんも、そう思いました。

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