「この夏、決まること」 はらまさかず

 「この夏で決まるからな」
 夏休みに入る前、先生がいった。
 中三の夏。
 一体、何が決まるのだろう。まあ、高校のことなんだろうけど。先生は、それ以上いわなかった。
 コロナの夏休み。もう二度目。
 ずっと家のなか。ほとんど誰とも話さない。塾のオンラインの夏期講習を、エアコンのきいた部屋で一日中聞いてる。
 お父さんは、結局、ほとんど毎日会社に行ってる。お母さんはパート。
 コロナだから心配だけど、口に出していったことはない。
 それほど仲がいいわけでもない友達から意味不明のLINEが来た。
 あたしだってわかってるかな。それとも、間違い? 
 とりあえず、どちらともとれる無難なメッセージを返す。
 そして、ふと、
『この夏で何が決まるんだよ』
と、その友達にLINEを送ってみた。
 何も返事はこなかった。

 今日も、一歩も外にでなかった。
 お母さんと二人で、夜ごはんを食べる。
 友達からLINEが返ってきた。
『それはあなた次第です!』

 この夏で、一体、あたしの何が決まるというのだろう。
 でも、もしかしたら、コロナの夏、何かが決まるのかもしれない。
 やさしさ…とか。
 
 朝、早くおきてみた。
 「おはよう」
 「お、おはよう。めずらしいな」
 お父さんがいった。
 「うん」
 「今日は夏期講習早いのか?」
 「ううん」
 「なら、ゆっくり寝てればいいのに」

 「じゃあ、いってくるわ」
 「あ、あたし、ゴミ捨ててくるよ」
 あたしは、お母さんからゴミ袋を受け取った。
 
 「じゃあな。あんまり無理すんなよ」
 「うん。 
     あ、お父さん」
 「ん?」
 「いってらっしゃい」
 「ん、うん、いってきます」

 あたしは、お父さんに手をふった。小6の時以来かな。
 向かいのおばあさんがお父さんに「あら、今日はお見送り? いいわねえ」といった。

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