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「虹がでてますよ」 はらまさかず

 最近、誰とも話していない。大学も、親に学費を払ってもらうのがもうしわけなくてやめた。といって、何かをしたいという強い気持ちもなく、今日も早朝のコンビニでバイトをしている。
 店に客が走って入ってきた。女子高生。
 すぐに商品を選び、レジに来ると、
 「虹がでてますよ」
といった。
 気づかなかったけど、雨がふったようだ。レジから見える空には、ちょっとだけ虹が出ていた。女子高生はそのまま、また走って行ってしまった。
 
 「虹がでてますよ」
と、ぼくも誰かに教えてあげたいけど、誰にも教える相手がいない。

 コロナだっていうのに、みんないつも通りいそがしそう。たいていの人は虹なんかに気づかず一日を終えるんだろう。虹はすぐに消えるけど、一日中出ていたとしたって、みんな気づかないんじゃないか。こんなちょっとした虹には。
 ちょっとした虹のように、ぼくは、この世界に必要なのだろうか。と、ふと思う。コロナでも、毎日電車にのって、虹にも気づかずに働いている人が、ずっと偉いのだ。きっと。でも、さっきの女子高生は偉いな。
 
 レジにお客さんが来た。
 おじさん。マスクをしているのでわからないが、不機嫌そう。虹が出てても、一生気づかないタイプだ。
 最近は、レジも自動なので、たいして仕事もない。ぼくは思わず、その人に、
 「虹がでてますよ」
と、いってしまった。
 でも、大丈夫。小さな声だったし、マスクをしているし、ビニールカーテンまであるから、聞こえない。なのに…
 その人は、外を見た。
 そして、
 「ありがとう」
って、小さな声でいって出ていった。
 
 おじさんに、一つあげたつもりが、一つもらってしまった。
 ぼくもあの女子高生に、「ありがとう」っていわなくちゃ。

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