「お母さん、大好き」 はらまさかず

 「お母さんにプレゼント買えなかったの」
 もっちゃんが泣いています。
 「今、お店やってないもの」
 お母さんがなぐさめました。
 「お母さん、なんにもいらないよ。もっちゃんがいてくれるだけでいいんだよ」
 「やだやだ、お母さんに何か買ってあげたい」
 「じゃあ、お母さんのことぎゅっとして、お母さん大好きって言ってくれる?」
 「もっともっと」
 「じゃあ、この先ずーっと、もっちゃんが大人になっても、母の日にはお母さんのことぎゅっとして、大好きって言ってくれる?」
 「そんなの簡単だよ」
 「簡単じゃないよ」
 もっちゃんはお母さんをぎゅっとして、
 「お母さん大好き」
と言いました。
 「お母さんだって約束したでしょ、子どもの時」
 もっちゃんがいいます。
 「してないよ」
 「覚えてないだけだよ」
 「そうかなぁ」
 お母さんは思い出してみました。
 そんな約束してない。ずっと仲悪かったし。今もそう。きらいなの。
 でも・・・。
 約束したかな・・・。
 「お母さん、おばあちゃんに、大好きっていいなよ」
もっちゃんがいいます。
 「いやだよ。お母さんのいえ、新幹線に乗らないと行けないし」
 「じゃあ電話で言いなよ」
 「やだやだ」
 もっちゃんは電話を取ってきました。ボタンを一つ押せば、おばあちゃんのところににつながるのです。
 「もしもし、おばあちゃん。お母さんにかわるね」
 もっちゃんが、お母さんに電話を渡します。
 「ほら、お母さん、約束守らなきゃ」
 約束したかなあ。
 お母さんのなかから、小さな頃の思い出があふれてきます。
 約束、してた。
 「もしもし」
 「もしもし」
 「お母さん・・・、お母さん、大好き」

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