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死にたい夜に効く話【20冊目】『古代ギリシャのリアル』藤村シシン著

テレビを捨てた生活を始めて早数年。わたしの日々の娯楽の中心はYouTubeになったわけで、日々刻々とすり減っていくバッテリーの消耗にヒヤヒヤしながら過ごしているのではありますが、

ある日突然、この動画が上がって来た。

なんかすごい人おる!


そして、これまた偶然めぐり会えた「ゲームさんぽ」の藤村先生回を見て、すっかり先生のファンになってしまったのです。

こりゃあ、先生の書いた本も読むしかない!


『古代ギリシャのリアル』

藤村シシン先生は、古代ギリシャ・ギリシャ神話研究家。NHK講座で講師をされたり、東京オリンピックでは古代ギリシャ語の同時通訳もされた。
いつも古代ギリシャ人の衣装(超可愛い)で、古代ギリシャ人目線の解説をしてくださる。

『古代ギリシャのリアル』によって、それまでわたしの中にあった「キラキラロマンチック♡」な古代ギリシャやギリシャ神話のイメージはガラリと覆されてしまった。わたしがこれまでの人生で知っていると思っていたギリシャってなんだったんだろう。世界ふしぎ発見を毎週見ていたキッズの自分に教えてあげたら、そりゃあ楽しんで聞いてくれたろうに。

「神々の履歴書」のところでは、その神の特徴から他の神との関係性まで、この数ページによくこれだけの情報量が!!ってぐらいに密に書かれている。
「なんだろうこの気持ち…なんだか懐かしいぞ」と思ったら、あれだ。学生の時に漫画の公式ファンブックを読んでウキウキしてた頃のあの気持ちに似ている。ノスタルジー。
注釈もこれまたいいんだよな。「アリストテレスvsファーブルのセミは美味しいか論争」とか好き。

古代ギリシャも、ギリシャ神話にもこれまで本当に馴染みがなかったのに、なぜか親しみ?が湧いてしまうのは、ひとえに先生の日本語訳が、ある意味本当に現代人向けの現代語訳になっているからなんだと思う。
何言ってんだって感じだろうけど、とりあえず先生の文章を読んでほしい。
例えば、アレスの解説。

無益な殺生に飢えていて血を見ないと気がすまない軍神アレスそんな彼の神話によくある展開が、「軍神なのにボッコボコにされる」パターンです。ある時、地上の戦争に参加していると、軍神でありながら人間に脇腹をザックリ刺され、兵士1万人分の悲鳴を上げつつ敗走。父ゼウスに泣きついて曰く、
 アレス「おやじ!見てくれよこの血!あの人間マジありえねぇ、逃げるのがもう少し遅かったらメッタ刺しにされて生きる屍になってたかもしんねぇ!」
 ゼウス「私の前でベソベソ泣くな、この無節操の軟弱者が。すべてのオリンポスの神々のうちで、私はお前が一番大嫌いだ。お前が好きなことと言ったら争い、戦争、ケンカばかり。お前は……(以下延々ゼウスの説教)」

藤村シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社、2015年、p.122

なんてわかりやすい…!
思えば世界史の勉強は苦手だった…。だって人名も地名も似たようなカタカナの羅列で全然頭に入ってこないから。
それが、先生の解説だとすんなり頭に入ってくる。忘れたくても忘れられない。
まさか自分がギリシャ神話の知識を吸収できる日が来るなんて。これなら「ギリシャ神話だったら?んーアルテミスが好きかな?」とドヤ顔できるに違いない。(いつか来るのかそのシチュエーション)


ここまできたら、シシン先生の講義を受けてみたい!
てなわけで、オンライン講座をレッツ受講。


この中で文学史のホメロス回を受講した。

そう、突然だが、
わたしはホメロスを読むのが夢だった!

世界的な作品だからっていうのもあるけど、一番の理由は、ジョイスの『ユリシーズ』が読みたいから。

『ユリシーズ』はホメロスの『オデュッセイア』が深く関わっているらしい。

じゃあ、ホメロス読まなきゃいけないじゃん!

いや、別に気にせず『ユリシーズ』読み出しちゃったっていいんだけど?ただでさえ海外文学は、宗教とか歴史とかに対する知識としての部分だけじゃなくて、感覚として理解するのが難しいというのに?なんの下準備もなくストーリーを辿ったところで、その面白さをわたしが理解できるのか?いやできない!

じゃあさっさとホメロス読みゃいいじゃんっていうと、それも違うんだ。

だってホメロス読むってことは、
ギリシャ神話知ってないといけないじゃん!

ギリシャ神話全然わからんし…。読んでもちんぷんかんぷんで、挫折する未来しか見えんし…。それで、じゃあギリシャ神話勉強するかっていうと、そこまでの気力も興味もなかった。

そんなわけで、わたしの『ユリシーズ』文庫本第一巻は、長年虚しく本棚に鎮座(放置)していたのです。

それが講座のおかげで、『イリアス』も『オデュッセイア』もそういう話だったのね!と知ることができて、ホメロスへ挑戦するハードルが下がった。先生ありがとうございます!

そんな、ホメロス読めないんだけど問題を通して気づいたのが、古代ギリシャやギリシャ神話の知識って、生きていく上ですごい為になるじゃん?ってこと。

先生の本を読んでも、ゲームさんぽの動画を見ていても思ったことだけど、「え、これ古代ギリシャからきてたの!?」っていうことがたくさんある。
ゲームや小説のようなフィクションに使われていたり、企業や組織が商品やプロジェクトにつけた名前がギリシャ神話からとられていたり。

実は古代ギリシャもギリシャ神話も気づいてないだけで、意外と身近に存在していた。

好きな小説の設定が、作者オリジナルじゃなくて、「これギリシャ神話の設定から持ってきてたのか!?」と気づいた時の衝撃よ。
前提となる知識があるのとないのとでは、同じ世界を見ていても、まるでその理解や想像、解釈の幅は全然違ってくるのだ。


本の中で、この一文がすごく印象に残っている。

しかし、神話が変化し続けるというのは、まだ神話が生きている証拠でもあります。

同書、p.67

古代ギリシャは、とびきりのロマンに溢れていた。

とりあえず、4月からのオンライン講座、申し込んできます。



〈参考文献〉
藤村シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社、2015年