【逗子葉山よむ料理店】#7 比古ノ家の、和食を極める出汁たっぷりのだし巻き卵
誰しも、いつか行ってみたいと思っているお店があると思う。
ちょっと敷居が高いなと感じていたり、タイミングを逃してしまったり。
この海街に住む人にとって、このお店はそんな存在かもしれない。
今だからこそ言える。
いつもの日常が続くとは限らないから、チャンスがある時に行こうと。
緩やかな空気が流れる海街をキリっと締める端正な佇まい。
少し背筋を伸ばしてまたぐ敷居。
店内にお邪魔すると、店主の菊池基彦さんの表情は穏やかだった。
「昔、親方が言ってたんです。大変な時こそ、人間にとって食は大切なものになるって」
店は閉めているが、併設する惣菜店は開けている。
季節の食材を丁寧に下ごしらえした品々は食卓を華やかにすると街の人たちから重宝されている。営業自粛を機に始めた牛しぐれ弁当や揚げたての天重はすぐに売り切れる人気ぶり。
「これで利益を出そうとは思っていない。お客さんの笑顔が見れたら」
ここが正統派和食と海街らしさが見事に融合した稀有な店。
そして、マッチポイントの田村さんが「同級生なんだ」と紹介してくれた日本料理店、比古ノ家。
比古ノ家
〒249-0006 逗子市逗子7-1-54
電話:046-874-6611
道を極めてたどり着いた、海街だからできること
逗子で生まれ育った菊池さん。
高校生の時に居酒屋でアルバイトを始めたのが料理の世界へ入るきっかけだった。専門学校を経て、本格的に和食の道へ。
そこは親方を頂点とする完全な縦社会。
「昔ながらの怖い世界なんですよ」
しかし、全員が本気だった。負けたくないと強く思った。
頼りになるのは自分の腕前だけ。
やればやるほど技術がついてくるのが楽しくて、無我夢中で努力した。
いつしか、都内の高級料亭で料理長を任されるように。顧客には政財界の大物たちも多い。一夜で大金が行きかう世界だった。
「相当なプレッシャーでした。満足してもらえたか毎回ビクビクして、いつしか料理が楽しくなくなっていた」
若くして大役を担うことに充実感はあったものの、生活のすべてを仕事に捧げる日々。
ふと立ち止まった時、地元にたまたま良い物件を見つけた。「いつかは独立したいと思っていた。まずは地元やろうと決めました」
2011年6月、37歳の時だった。
大都会からサンダルが似合う海街へ。
最初は戸惑いもあったが、この街の空気は次第に菊池さんの気持ちや思考をほぐしていった。かつてはプレッシャーだったお客さんとのやり取りも、今では楽しみだ。
「ここに来てから料理するのが面白くて。逗子がそうさせてくれたんです」
食の持つ可能性を教えてくれたのはこの街に住む人たちだった。
「元気のなかった人が笑顔で帰っていったり、ケンカしていたというご夫婦が仲直りしてくれたり」
菊池さんの作る料理と空間が、誰かの背中をそっと押している。
「和食は本当に奥が深い。同じ材料で同じ手順を踏んでも、作る人によって味に違いが出る」
通り抜ける潮風やゆったりとした空気、気さくな人々。
菊池さんの料理にはそんな海街の要素が反映されているのかもしれない。
これからも菊池さんの探求は続く。
ここでしか食べられない味わいを求めて。
出汁をたっぷり使っただし巻き卵をご家庭で。アツアツを食べれば誰もが笑顔になります。
菊池さんが教えてくれたのは、お客さんの多くが頼む「だし巻き卵」。
板前の修業でまず最初に取り組むのがこの一品だそう。
「シンプルだけど奥深い。和食の特徴をよく表している料理なんです」
そんな風に聞くと身構えてしまうけれど、ご心配なく。
今回は菊池さんに出汁の引き方から優しく教えていただいたので、ぜひ夕食のメインにもなる立派なだし巻きをつくってほしい。
出来たてを食べれば、じゅわっと出汁が溢れ出す、至高の一品。
自宅で本格的なだし巻き卵をつくることが出来たら、どんなに夜ご飯の幸せ度が上がるだろうか。
和食の真髄とも言える、だし巻き卵。逗子の名店の料理人が教えてくれるその味を、ぜひ味わってほしい。
このレシピの購読料824円(「ハ」ヤマと「ズ」シを「ヨ」ム)は、全額を比古ノ家さんにお渡しします。応援の気持ちを込めて、ぜひ読んで、つくってもらえたら嬉しいです。
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