投票率を(確実に)上げる方法
ここ数年のトレンドとして、「政治のこともつぶやいてみよう」と思う有名人が増えてきた。非常にポジティブなことである。
決まって言われるのが「若者の投票率を上げよう!」という美しいフレーズだ。
「若者の投票率を上げよう」というのは、「有権者は寝ててくれればいい」という偉大な言葉を発せられた森喜朗先生を除いては誰も否定できない金言だ。
今日も日夜政治業界のありとあらゆる人間が「投票率」を上げるために必死に何かをしている。
もちろん私も、投票率が上がってほしいという気持ちは100%同意である。
ということで、投票率が確実に上がる方法を伝えようと思う。
別にこれは冗談で言っているわけではない。
支持組織をきっちり固める某政党の得票率はそうやって維持されているし、実際に機能することは証明されている。
もちろんそんなことをすれば、あなたは「知人」の少なくない数を失うことになるだろう。なのでやめたほうがいい。投票率よりあなたの人生のほうが大事である。
上の案は流石にデメリットが多すぎるので、代案を提示しようと思う。(提案型ライター)
選挙事務所でのボランティアだ。
都市部の選挙では、基本的に人は足りていない。やることはいくらでもある。
道端でビラを配ったり、家にポスティングをしたり、証紙を貼ったり、有権者に電話したりすれば、確実に票につながる。
それは、単に候補者の得票が増えるだけではない。「誰かを当選させたい」と思う気持ちが投票率を引き上げるのだ。
「投票率を上げよう」という言葉は人の心に響かない。それは単なる数字の問題だ。
しかし「この人に投票してください」という言葉は、候補者の身近にいる人から言われると、響くものである。
若者の投票率が上がらないというが、投票率だけではなく、政治に参加する人が少ないのだ。
ビラを配っていたり、電話かけをしたり、証紙を貼ったり、事務所で留守番をするのは大抵おじいちゃんおばあちゃんである。
かくして、若者が「投票率を上げよう」とTwitterでつぶやくあいだ、高齢者は道端で人と会い、政治議論を繰り広げ、嫌われるリスクを犯して電話をかけていたりする。
こうした地道なコミュニケーションが、コミュニティを作り上げ、政治文化を作っていく。
「高齢者の投票率が高い」となぜか目の敵にされるが、民主主義のコストを払っているのは、実は若者ではなく高齢者である。
実際のところ、「軍師」は、政治の現場に現れないし、必要とされてもいない。必要なのは汗をかいてくれる人だ。
ウサギとカメの寓話はみんな知っているが、誰もカメになろうとしない。単純に大変だからである。
ただ、大変なだけではない。選挙ボランティアは思ったよりも楽しい。
他では味わえない独特の「お祭り」感がある。選挙というのは戦いであり、文化祭であり、パーティーだ。
東京だと機会がないかもしれないが、選挙カーに乗って演説したり、ウグイス(男はカラスという)になって道端の人に手を振ったりするのは、なかなか得難い経験である。
人がとにかく足りないので、色んな人に歓迎してもらえる。
この現代社会で、純粋な感謝を受けることなんて、献血するときかボランティアをするときくらいしかない。
当選した瞬間の盛り上がりは、ワールドカップの決勝並みである。要は、スポーツと同じような興奮が味わえるということだ。
参加したいと思ったら、政治家のTwitterアカウントに連絡してもいいし、電話をかけてもいい。事務所に直接押しかけてもいい。
各政党が窓口を用意しているケースもある。
別に、ボランティアでなくたっていい。立ち止まって演説を聞きに行くのだって立派な政治参加である。
持論をぶつけて、道端で自分の世代の苦労をぶつけてもいい。そうすると、自分の中で「こういう人だったのか」と議員の解像度があがる。
解像度が上がれば、周りと話す中で、「この人がいい」などの話になるかもしれない。
そうしてはじめて、「投票率が上がればいいよね」というような抽象的な議論ではなく、具体的で政治的な議論が出来る。
立候補するだけが政治参加ではない。投票するだけが政治参加ではない。
選挙カーは迷惑である。ポスティングは迷惑である。駅前の演説も、うるさくて迷惑だ。
政治に関わるというのは、多かれ少なかれ迷惑を掛ける側に回るということである。
本当に投票率を上げようと思ったら、一人ひとりが迷惑をかける側に回るしかない。
意見が違ったり、政治に興味を持たない人を動かすには、多かれ少なかれこちらからアクションしなければいけないからだ。
「投票率が上がればいいな」と思っているだけで、投票率は上がらない。
同じように思っている人たちの間でぐるぐるとリツイートされるだけである。
タコツボから出たければ、一度「現場」に行ってみてほしい。今まで見えなかったものが見えるかもしれない。
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