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「予算」はどうやって国会で決まるの? #25歳からの国会

國民に強く耐乏生活を要求し、インフレの防止を説くも、政府みずからが苦難の先頭に立たないで、政府予算の大削減を断行する勇断を欠き、むしろ反対に物價引上の先鞭は、タバコ、鉄道等、官業事業によつて常に行われ、
敗戰の今日、國土は日清戰爭以前の状態になつておるにもかかわらず、官廳機構はますます厖大しておる。この矛盾せる事実を体験しては、國民のほとんどが釈然とせず、よつて当局の明快なる答弁を求めるのである。

大神善吉 衆議院議員
昭和22年7月4日 第一回国会 本会議

冒頭、第一回国会の本会議における政府予算の考えについて書きました。

戦後の日本においてはインフレが課題であり、かつ物資も慢性的に不足しており、国民の窮乏の中での予算組であったがゆえに、今よりもさらに切実な議論が国会で行われていたことがわかります。


それからおよそ70年、日本は豊かになり、予算は当時より遥かに膨れ上がりました。

日本の国家予算をご存知でしょうか。一般会計だけでも、2020年度予算は、一般会計だけで100兆円を超える規模、特別会計を含めればおおよそ300兆円です。

そもそも一般会計と特別会計とは?

財政法13条には「国の会計を分つて一般会計及び特別会計とする。」とあります。
国の事業は多岐にわたるため、それぞれの事業ごとに会計が変わっては煩雑になりますし、透明性も低下します。

そのため、国の会計は単一のものを利用することが推奨されています(「予算単一の原則」)。
単一の会計で処理するものを一般会計と呼び、特別の事業のために特別の予算を設けるものを特別会計と呼び、一般会計と区別して考えます。
なお、特別会計には地方の予算である地方交付税なども含まれるため、厳密には「国の予算」と呼べないものも入っています。

国のすべての予算は、国会で承認されなくては承認されません。

日本国憲法第八十六条
内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。

この予算は、一体どのように決まっているのでしょうか?予算の決まる流れをご紹介しましょう。


政府がいかに予算を作るか

予算が決まるまでのスケジュール
8月下旬 省庁がそれぞれ予算を作成し、財務省に提出(概算要求)
9月-12月 財務省が各省庁へヒアリングを行い、予算を精査
12月下旬 政府予算案を作成し、閣議決定
1月-3月 通常国会で予算案の審議

国の予算の会計年度は、4月1日から翌年3月31日までです。通常、来年度予算の審議は国会で1−3月の通常国会で行われるため、財務省主計局はそれまでに政府案を固めます。

まず流れとして、通常8月に各省庁が財務省に宛てて省ごとの予算案を提出します。これを「概算要求」と呼びます。

そこから財務省が各省庁へのヒアリングを行い、与党内でのヒアリング、承認などを経て12月に政府案を固め、閣議決定。そして、1月から3月の通常国会で審議されます。

通常国会における予算審議

予算委員会は予算を審議する委員会であり「花形」委員会ですが、とりわけ1月から3月は最も注目を受け、国会も省庁もてんやわんやします。

そのてんやわんやの頂点が「予算委員会分科会」です。各委員が8つの分科会に分かれ、朝8時から11時間コースの審議に望みます。

予算委員会分科会
第一分科会:皇室費、国会、裁判所、会計検査院、内閣、内閣府、復興庁及び防衛省
第二分科会:総務省
第三分科会:財務省
第四分科会:文部科学省
第五分科会:厚生労働省
第六分科会:農林水産省及び環境省
第七分科会:経済産業省
第八分科会:国土交通省

Wikipedia「予算委員会」より引用

すべての省庁に対して、細目まで議論され、またこの分科会は地元へのアピール的側面も持っているため、通常の予算委員会と違って、内閣の資質などではなく陳情的な質疑も多くなります(個人的には、このように一日に詰め込んで分科会を行う必要性が薄いのではないか、と思っていますが)。

この分科会が開かれるまでの時期の官僚の負担は想像を絶するものが有り、最も霞が関が忙しくなる時期の一つと言われています。

そして、分科会が終われば最後に全閣僚出席の締めくくり総括質疑が行われ、討論が行われて採決が行われる、という順番です。


予算案が決まらないということはめったにありませんが、解散や政治的混乱など何らかの理由で承認されなかった場合は最低限必要なものだけを計上して「暫定予算」が組まれます。

各国の予算の決まり方

国によっては、行政府に予算編成権がないケースもあります。

例えば、アメリカの大統領は法案提出権がなく、議会が予算編成権を持っているため、通常議会が予算の法案を作成し、審議します。他方、行政府として必要な予算に関しては、予算教書と言われる提案だけをだすことだけが出来ます(*4)。

日本の地方議会では、公選の首長(知事・市区町村長)が予算編成権を持っているため、より首長に権限が集中する傾向にあります。


同じ議院内閣制でも、イギリス・カナダなどでは、予算の支出に関しては議会の承認を必要としません(*5)。そのため、プレバジェット演説と呼ばれる演説が11月頃に組まれ、広く国民に予算案を説明することが決められています。

予算審議はどうあるべきか

予算の決まり方はそれぞれですが、国民に広く予算支出の意義を伝え、かつ不要であったり恣意的な予算が組まれないためにも透明性が常に求められていることは言うまでも有りません。

他方、政府は予算案を審議した後には「いっちょ上がり」で、近年は総理が予算委員会に出ないことも多くなります。

しかし、予算に関しては、案だけではなく適切に執行が行われているかも重要であり、国民に広く予算の執行が適切に行われていることを知らしめる必要があります。

通常国会の冒頭3月だけで予算が決まってしまい、後はとにかく知らぬ存ぜぬ、であってはいけない、ということは改めて考える必要があるのではないでしょうか。

参考文献

Wikipedia「予算委員会」
財務省「令和2年度予算」
財務省Webサイト「一般会計に対して、特別会計とは何ですか」
財務省「財務省のしごと パンフレット」
外務省「2021年度予算教書」
内閣府「IT革命の中での諸外国の中長期財政計画に関する調査作業報告書」平成14年

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