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国会における「女性議員」の課題とは?

私に向つて、廊下に出ることを、彼は暴力をもつて強要いたしました。私も相当な力は持つておりますけれども、泥酔せる男子にはかないません。そこで、彼は暴力をもつて私を参議院食堂の外の廊下に引出しました。そうして、彼の行いました行動は‥‥

(「恥を知れ」と呼ぶ者あり)

私が恥を知らなければならないことを、私はここに断言いたします。私に向つて恥を知れと言う民主自由党に、私はあえて申します。大藏大臣に向つて私は申します。今晩あなたは泥酔して許される立場の人でない、そのあなたが何をなさんとするか。そんなことが何で今晩必要なんだと彼は申しました。私に恥を知れと言う前に、綱紀粛正を呼ぶ吉田内閣の恥を知らしめんと、私は立つたのであります。

山下春江衆院議員
昭和23年12月13日 衆議院本会議

これまで、国会において女性はどう扱われてきたのでしょうか。国会における女性の扱いは、日本の女性の扱われ方を表す鏡です。

国会キス事件

冒頭紹介したのは、「国会キス事件」と言われる性的暴行事件の被害者である山下春江衆院議員の本会議での発言です。

おそらく、多くの皆さんはこの事件についてご存じないのではないでしょうか?

これは、当時の大蔵大臣(今の財務大臣にあたる)である泉山三六氏が、国会内で飲酒をして、参議院議員である山下春江氏に対してキスしようと暴行を働き、挙句に噛み付いて怪我をさせたというとんでもない事件です。

今考えれば、国会内で飲酒が出来るというのも隔世の感がありますが。ともあれ、下記の山下議員による供述を見ると、これは単なるセクハラを粋を超え、性的暴行と呼べるものであることがわかります。

しばらくして泉山大藏大臣は來られたのでありますが、何でも二、三ばいお酒を飲まれたと思うころ、そこに給仕に参りました食堂の女中を、首の所を何か抱きかかえたようなかつこうをして、これは私のたいへん好き――と言いましたか、愛しておると言つたか、何でもそういう婦人だから御紹介いたしますということを申しておりました。

泉山さんはもうこんな所はつまらないからほかへ行こう、こういつて私の右腕をつかんで立たせようとしました。私が立たなかつたために、いすが横になりまして倒れそうになつたので、私は立ちました。立つたとたんに彼は非常な力を出して私を廊下の方へ連れ出したのであります。

それに反抗したのですが、かなり力のある人で廊下のまがつたところの階段におりるまん中辺まで來て、何をするんですかと言つたところが、やかましいことを言わないでも、ここにはだれもいないよ、こういうことでした。

泉山さんの力はかなり強いのと、その言動、行動が非常に狂暴なものがありまして、しかも私は日本の大臣がこういう行いをなすであろうかということを想像されないような、まことにここで発表することは泉山さんの人格の上からも、私自身も口にいたしたくないような行動を彼はとりました。

そこで私はやむを得ず、彼の力まかせに抱きしめておる中ですから、あちらこちら頭を振りまわしておる間に、私の左あごのところに今傷がついておりますが、彼が多分私の皮膚が切れたのではないかと思うほど非常にひどくかみつきましたので、思わず私は右の手で彼をなぐりつけました。それでやや手がゆるみましたので、私は抱きかかえておる手の下をもぐつて、私はもとの参議院へ帰つて行きました。

昭和23年12月14日懲罰委員会

しかし、この事件に際して、結果的に責められたのは山下春江議員の方でした。懲罰委員会においても、今で言えば、セカンドレイプと言われても仕方のないやり取りが繰り広げられます。

鈴木(仙)委員
山下さんの平素の行為、そのときほんとうにやさしい婦人代議士として典型的な態度をとつておられたかどうか。
明禮委員長
それからもう一つお尋ねいたしますが、あなたはどのくらい酒を召上りますか。〔「いらぬことを聞くな」と呼び、その他発言する者あり〕
明禮委員長
参考に聞いておるのです。どのくらい召上りますか。
高橋(英)委員
小さいコップですか。
山下春江君
そうです。ウイスキー・グラスのちよつと形のかわつた小さなグラスです。
高橋(英)委員
あなたがおさしになつたのではないのですか、立て続けに……。
山下春江君
断じてありません。
高橋(英)委員
この泉山さんと山下さんは、非常にお心やすいじやないかと聞いたのですが、先ほどの話ではそうじやなかつたのですか。泉山さんに対するあなたの呼びかけは「三六さん」というようにお言いにならなかつたですか。
山下春江君
断じて私は大臣に向つて、さような無礼な言葉を使つた覚えはありません。

最終的に、このあと野党は全面的に審議を拒否、泉山三六大蔵大臣は引責辞任と議員辞職に追い込まれました。

さて、結局、彼は、このあと失意の晩年を過ごしたのでしょうか?

そうではありませんでした。泉山氏はかえって人気を博し、参議院議員で全国三位の得票数で当選し、十二年もの長きに渡り参議院議員を務めました。なんと晩年には「トラ(泥酔する)大臣」を自称して、本まで出しています。

一方、山下議員は「隙があった」と批判を浴び、更に、大臣を誘ったのではないかというデマも流布されたようで、落選の憂き目に合います。

下記のごとく、宮本百合子氏のようが反応が世間の大半の反応(いや、女性がこう書いているということは、おそらくそれ以上)であったことが推測されます。

山下春江代議士の日ごろの態度にもすきがあったことはたしかでしょう。婦人代議士があれほど、「婦人の問題は婦人の手で」といって立候補しながら議会開会の全期間をつうじてその議場の演壇からもっとも雄弁にうったえることができたのが今日の醜態事件についてであるということは、またブルジョア婦人代議士の悲惨なる境遇をものがたっています。

宮本百合子「泉山問題について」

残念ながら、性的暴行の加害者が免責され、被害者の態度などに矛先が向く、という風潮は、この七十年の間変わっていません。

「妾」と「二号」

国会議員に「妾」や「二号」がいることは、かつてそれほど珍しいことでは有りませんでした。かつて政界の寝業師として恐れられ、自由民主党結成にも大きく関与した政治家、三木武吉がいました。

彼は討論会で「三木には妾が4人もいる」と問われ、「私には、妾が4人あると申されたが、事実は5人であります」と答えて喝采を浴びました。

そもそも、今では考えられませんが、日本において地位の高い男性が妾を持つことは許容されていた節があります。

人殺しとか、窃盗のように、社会の通念が罪悪と感じている場合と違つて、妾をおくなど世間あたりまえのこととみている。そこに刑罰としての姦通罪をおいても意味をなさないというのであります。しかしこれに対しては、私はむしろ姦通両罰制度を規定することによつて人世観をかえていくものと確信します。なるほど家族制度に妾をおくことはつきものであつた。その結果妾をおくことは男の腕と考えられたような世界観のもとに、姦通が罪悪視されなかつたのは当然であります。

榊原千代衆院議員
昭和22年10月3日 衆議院司法委員会 

戦後になり家督制度・家制度が廃止され、また国会議員においても男子のみが被選挙権を持つという状態は解消されてなお、国会の家族観というのはゆっくりとしか変わっていかなかったことがわかるでしょう。

戦後、日本の家庭は核家族化していきましたが、男性有力政治家は例外的に戦前の香りを残し、愛人や妾を持つことが珍しいことでは有りませんでした。そのような「男社会」が、結果的に男女差別撤廃政策の歩みを止めた側面は、否めないのではないでしょうか。

「姓」と「性」

政治家にとって「姓」は極めて重要です。

ところが、このように姓を変えることにデメリットが多い世界であるにも関わらず、国会内での選択的夫婦別姓の議論はなかなか進んでいません。

昭和30年代より法制審議会などで度々議題に上がりながら、未だに実現していないのが現状です。

このような問題は結局その国の文化的な伝統と申しますか、そういうものに非常に左右されることでございますので、そういったものを踏まえまして、国民の意識が一体どういうふうにあるかという把握を前提にしまして、それを踏まえて議論しよう、こういうふうなことのようでございます。直ちにいま夫婦別姓を採用するというのは、ちょっと時期尚早ではなかろうかというふうなのが大方の御感触のようでございます。

香川保一政府委員
昭和50年11月18日 参議院法務委員会

政治家の世界でも、女性が姓を変えるという構造は変わりません。大政治家の娘であれば、男性側が姓を変えて婿入りするケースもありますが、殆どは女性が姓を変え、そして旧姓を利用して活動します。

保守政治家と知られ、選択的夫婦別姓に反対している女性政治家の中にも、政治家として活動を始めた後、結婚や離婚などを行った場合、旧姓を利用して活動している方は少なくありません。名前を変えてしまうことのデメリットがこれほど大きな世界はないからです。

強制的な夫婦同姓が、結果的に女性政治家の活動の障害の一つになっていることは事実ではないでしょうか。

「セクハラとは縁遠い方々」「女性はいくらでも嘘を付く」

冒頭、戦後すぐの議会の有り様について述べましたが、この状況はどの程度変わっているのでしょうか?

例えば、財務省事務次官のセクハラ問題が問題になったとき、保守政党の議員が、セクハラ問題に批判の声を上げている女性議員の写真(男性議員も含まれている)を添付し、このようにつぶやきました。

セクハラはあってはなりません。こちらの方々は、少なくとも私にとって、セクハラとは縁遠い方々です。私は皆さんに、絶対セクハラは致しませんことを、宣言致します!

このような「揶揄」を行う間隔の持ち主が平然と議会活動を行っていることが、日本の議会の現状を表しているのではないでしょうか。

また、この事件では現職の大臣が「セクハラ罪という罪はない」などと発言するなど人権意識の低さを露呈しました。

また、政府与党の部会で「女性はいくらでも嘘をつける」などと発言した保守系の女性議員がいたこともよく知られています。このように、女性が女性差別の構造に対してまっすぐと声を上げられないばかりか、むしろ保守的、差別的な政策や言動を取ってしまうことが、今の国会の現状ではないでしょうか。

保守政党であれ、リベラル政党であれ、女性議員が自分たちの問題にしっかりと声を上げられるようにすることが重要ではないでしょうか。

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