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れいぞうこのまりちゃん

「防風林の向こうのお屋敷に、お化けが出るよ」

ミカちゃんちでスマブラした帰り道でユウリちゃんがそう呟いた。隆明(たかあき)は『おやつにしなさい』とお母さんから持たされた茹でトウキビを齧る手を止めた。

「それって、あれ?」トウキビの穂先でユウリちゃんちの畑の先に聳えるカラマツの植え込みを指す。植え込みよりもっと手前、たわわに実るトウキビ畑の途中から陽炎が昇り、黒い松葉もその奥に建つ赤いサイロめいた尖塔もしっとり揺れている。

「ばっかでー、ユウリ。そんなの居るわけないじゃん」ケンタが栄商店で買ったガリガリ君を振り回して後ろ歩きする(カネモチ!)。

「本当だもん、ミカちゃん見たって言ってたもん」ユウリちゃんのひと言ひと言に、札幌で買ったのだという物凄くひらひらしたスカートがふわふわ翻る。

「じゃあ、サイトーだって嘘つきじゃん。俺ら、二年の時にあの家行ったもの。なあ、タッちゃん」 

「うん。探検した。あのサイロっぽいやつの下はサンルームになってた。ガラスは割れてたけど、誰もいなかった」

「あれはサイロじゃなくてオベリスクって言うの」

サンルームに見えたガラスとタイルで囲まれた部分はコンバサトリーというのだそうだ。ユウリちゃん曰く、大正時代に建てられたのに、取り壊されもせずあんなに放っておかれるのはおかしい、あの家にはきっと謎がある。

ユウリちゃんちの畑は切れ目がなく、周りをヒグマ除けの電線で囲ってある。延々と真っ直ぐ続く道すがらに講釈をたっぷり聞かされるには充分すぎた。その間に、バイクや自転車の旅人が勝手に泊まっているのでは、という隆明の現実的な問いはあっさりと却下された。

その日、陽もとっぷり暮れてからケンタから電話がかかってきた。隆明はスマホなんて持たせてもらえないから、家電だった。ユウリちゃんとミカちゃんと一緒にあの屋敷に行こう、と彼は言うのだった。

【続く】