模範囚にフォカッチャ
土曜日。死んで天国に行くつもりが思いのほか地獄に落ちてしまい、ゆで卵ひしめくベルトコンベアの前に突っ立って、永遠に殻を剥いている。
地獄に落ちたら真面目に処されるタイプなので一心不乱に剥きまくっていると「きょうの夜ごはんフォカッチャサンドだって」向かいから馴れ馴れしく声を掛けてきた女が卵の薄皮を丁寧に剥がしては顔面に貼り付けているので、ちゃんと地獄に落ちてほしい。
ベルトコンベアに沿って千体地蔵みたいに並ぶ寸胴鍋が、卵を茹でてもうもうと湯気を上げている。フォカッチャの中身が気になったけれど女に聞くのは癪なので「ゾーン入ったので話しかけないでください」淡々と言い放ち、荒々しく卵の殻を剥く。
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