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ヱリ
2024年9月16日 23:46
「懐かしいな、バネバカリだよ。灰じゃなく骨を大事にしてた時代の。子どものころ理科の実験で使ったよね?」そう言って目盛りの書かれた筒状の計量器具を見せられたけれど、僕はもう館長のように昔のことを思い出せない。天気が良かったので廃村を訪ねて遊山に行き、乱立する杉林の中で朽ちた集落を散策していたのだった。崩れ落ちたトタン屋根のかげから拾い上げられたアルミ製の筒の、下部についた鉤を眺めながら「わすれて
2024年9月8日 12:20
「レモン、空にしたら勿体ないよ」席をひとつあけた右隣から話かけられて、串切りの冷凍レモンを食んだまま顔を向けた。二十四時を回った居酒屋のカウンター席で、男はわたしと同じように、飲み干したレモンサワーのジョッキグラスだけを卓上に置いている。「ナカだけおかわりできるから、レモンはとっときなよ」くつろいだ様子で片肘をついて微笑む男の頬が、酔いをまといながら緩んでいる。歳はわたしより、一回りほ