アウトプットのためのインプット

 マジシャンをしていると、誰かが作ったトリックを見て、「なんでそれに気がつかなかったんだろう」と悔しく思う時がある。たったひとつのワード、たったひとつの動作でマジックは劇的に変化するのである。

 マジックにかぎらず辺りを見渡すと、「自分でも思いつけたのに!」となるアイディアが溢れている。では実際、これらのアイディアをぼくに思いつけたかといえば、間違いなくNOである。

 それはインプットの仕方にトリックがある。

 たとえば、2018年9月にサービスを開始したスマホアプリ「ONE」。考えたのは17歳の起業家だ。内容は不要なレシートを10円で買い取るというだけのシンプルなものだが、これがどんな意味を持つのか、想像しただけで鳥肌が立つ。「どんな人がどんなタイミングで何を買うか」という購買データを買い取りたい企業はごまんといるだろう。素晴らしい発想力だ。ONEの考案者はただの高校生ではない。12歳の頃には天才プログラマーとしてメディアを賑わせ、「日常を非日常に変えるプロダクト」のことばかり考えながら、「価値のないものに価値を与える」の着眼点からアプリを開発した。

 たとえば、YouTube講演家として有名な鴨頭嘉人さんは「7回泣こう」と決めて映画を観に行くという。感受性を養うためのトレーニングらしい。想像力を逞しくし、感度を高めれば、日常から受け取れる情報量も格段にアップのだ。

 ぼくは学生の頃、東急ハンズに行くのが好きだった。ハンズでは「新しいマジックを作れないか?」を意識して、用事のないキッチン用品コーナーやアウトドアコーナーをうろうろし、再現するかは別として、必ずなにかを思いついてメモしていた。当時は自分を閃きの天才だと天狗になっていた。それがサラリーマンになったときからなにも閃かなくなった。アウトプットを必要としないインプットは何も生み出さない。

 洋楽を漫然と聞いていても英語が話せるようにはならないし、毎日美味しいものを食べていてもシェフにはなれない。アンテナを張り巡らせ、能動的に物事を見る目を養うことがアウトプットの根源にあるといえる。

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