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2021.6.22 ブックオフと心中と世界中が夕焼けについて

 読書会で使う『草枕』が行方不明なので、仕方なく電子書籍をダウンロードしました。古典作品のほとんどはいわゆる「青空文庫」として無料ダウンロードできるのです。オットクー。やはり夏目漱石の文章は流麗で淀みないですね。しかし、なんだかしっくりこない。きっと漱石先生は自分の作品がデジタルデバイスで読まれることを想定していなかったのでしょう。Kindle上に配置された文章は、どこか居心地が悪そうです。ということで、ブックオフに行きました。ブックオフから出てきたぼくの手には乙一『花とアリス殺人事件』、星野源のエッセイ『よみがえる変態』、チャラい本のバランスを取るかのようにシェイクスピア『ヴェニスの商人』の三冊が握られていました。おかしな話ですね。

 おかしな話と言えば、爆弾ジョニーの「おかしな2人」という歌にハマりました。サビの

おかしな2人は旅に出た
おかしな2人のまま死んだ

 という部分が大好きで、何度も繰り返し聞いてしまいます。とくに「死んだ」がいいです。「幸せになった」とか「楽しく暮らした」とかだったら、けして記憶に残らなかったでしょう。良い言葉です、「死んだ」って。

 安心してください、別に死にたいわけではありません。病んでいるだけです。ぼくはいつの日から、幸せの最終目的地は「死」だと思うようになりました。二葉亭四迷が「I love you」を「死んでも可いわ」と訳したことは有名ですが、死によって幸せの絶頂を氷漬けにするという考え方が好きです。心中はその良い例ですね。死こそ、いずれやってくる別れの悲しみを回避する最善策だと思います。
 ぼくの大好きな歌人穂村弘の短歌にこんなものがあります。

校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け

 学校の校庭に転がっているでかいローラーに腰掛けて夕日を見る、という歌です。四十のおじさんが二度と戻ってこない青春を想って歌ったのでしょう。ぼくは初めてこの歌を読んだとき、心中に近い陶酔を感じました。たぶん、歌の主はひとりではないと思います。推測でしかありませんが、友人あるいは恋人と一緒にいる気がします。より正確には「誰かと一緒にいたい願望」と「そんなはずない」という諦念が介在している気がしますが、だったら願望の中だけでも二人にしてあげるべきでしょう。穂村弘にこんな美しく輝く過去はなかったと思っています(ごめんね、ほむほむ)。作者は青春時代の憧れや後悔を歌に託したのでしょう。そもそも、「世界中が夕焼け」になることはありえないので、自分(あるいは自分たち)だけの閉じた世界を表しているでしょう。夕焼けは美しいと同時に、後にやってくる「夜」を予見させます。最も美しい瞬間を閉じ込めてしまいたい、という願望が隠れている歌だとぼくは思っています。美しきかな、閉じた最期。

 ……なんて、感傷に浸っている場合じゃないですよ。そもそもぼくにはまだ絶頂が来てません。夜どころか、昼飯すらまだです。コロナで仕事激減中だし、YouTubeチャンネルの登録者は伸びてないし(登録お願いします!)、愛用しているMacBookのトラックパッドがぶっ壊れるしで、明日も絶賛低空飛行でみなさまを待ちかまえております。それではまた。


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