記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

クレジットカードとアメリカと、松下幸之助

現金主義とカード主義。
この二つにはそれぞれ利点も欠点もあるが、私は満を持してカード主義である。いつ、どこで使ったのかが利用明細で一括ダウンロードできるし、何より利用金額に応じたポイントも付与される。気付かないうちに貯まっていたポイントで送料が無料になったりするので、もう現金払いには戻れない。
 
この間、会社でお世話になっている先輩と高級ラウンジでアフタヌーンティーを楽しんだ。高級ホテルさながらの豊かな空間で存分にお喋りを楽しんだのだが、お会計の時、クレジットカード主義からすると、あれ?ということが起きた。

事前に予約してくれたお礼を込めて、綺麗な封筒にお金を入れ、コースが始まる前に先輩に手渡ししていたので、その先輩がまとめてお支払いしてくれることは暗黙の了解だった。

ウエイターがテーブルに伝票を持ってきて、
「お会計をお願いできますでしょうか。」
と先輩に手渡すと、先輩は私が手渡した封筒から1万円を抜き、そして自身の三つ折り財布から1万円を取り出した。
お会計の金額はサービス料含め1人1万500円だったので、それだけでは足りず、あと1,000円を同じく三つ折り財布からトレイに置き、ウエイターに手渡した。
三つ折り財布から出されたお札は、端に折れ目がついていて、トレイの上で鯛のお刺身の造りのように、頭とお尻が跳ね上がっていた。
 
びっくりした。
クレジットカードで支払えば、200ポイントは貯まるのに、なんで現金!?
私の脳を震撼させ、そして、もたつく先輩の隣で何もできず、ウエイターを待たせていることの恥ずかしさに襲われた。
先輩に対する好感度が10くらい下がった。
斉木楠雄を知っている人ならわかるだろう。あの好感度メーターが10下がるということだ。なお、好感度は簡単に上がったり下がったりするものなので、もう既に回復している。
 
そう、これは完全に私の偏見である。
私ももちろん、近所のコンビニかお肉屋さんか会社でのランチでは折り目の付いてしまう、がま口財布を愛用している。その方がさっとお会計もしやすいし、持ち歩きやすいからだ。
でも、普段は長財布を愛用している。そもそもクレジットカードで支払うが、やっぱりお札に折り目をつけたくない。スキミング対策もばっちりでスリムなので、どんな小さい鞄にも入るのがお気に入りだ。
 

私を震撼させた出来事がなんとなく頭の片隅にあったとき、
2050年を生きる僕らのマニュフェスト」という本で、クレジットカード主義を、満を持して語れないかも、という事実を発見した。
それは1970年代、アメリカでの出来事だ。

最初のクレジットカードが登場したのは1950年代だ。けれども普及率は低かった。1966年、アメリカでのクレジットカードによる負債額は実質ゼロだった。負債を介した経済生活はまだ一般的な概念ではなかった。

けれども、1970年代に収入の増加が止まってから、家族はクレジットカードに手を伸ばすようになった。すべての人の賃金が上がらなくなったわけではない。役職のある人びとは依然として賃金の上昇が続いている。けれども、ほかのかなりの多くの人びとの給料は、上がらなくなった。トップの稼ぎ手は1979年から2016年のあいだに、時給が27%上がった。けれども、ミドルクラスでは、同じ時期にたった3%しか上がっていない。

1980年代になるころには、アメリカ人のクレジットカードによる負債総額はほぼ550億ドルになっていた。2018年には、1兆ドルになっていた。給料が上昇しなくなった分、借金をしはじめたのだ。

利益最大化層の視点では、これは理にかなっている。彼らのゴールは経済的な成長だ。利子付きでお金を貸すという新たな収入の道ができたのに、給料を上げたりするだろうか。そうやって賃金の上昇が止まった。そのかわりに僕らは、クレジットカードを使うようになった。

2050年を生きる僕らのマニュフェスト

クレジットカードを使うことによって、誰が得をするのか、誰が損をするのか。考えてみたことはなかったけれど、ハッとさせられた。

ちなみに、この本の核の考え方である利益最大化(financial maximization)主義を、筆者は以下のように語っている。

利益最大化主義。
とにかく正しい選択はもっともお金が稼げる選択肢。その向こうにある「良い」とか「悪い」という概念は置き去りにされた。
利益最大化をめざすターミネーター的な考えで行くと、物事の善悪はあまりにも不合理に思える。

利益は、節税、政治的なロビー活動、サービスの質の低下を通じて増大した。コストは、賃金の凍結、経費予算の大幅削減、大規模な解雇によって低下した。以前は重視されていたコミュニティのリーダーシップへの関与や公共サービスへの貢献よりも、政治家への政治献金が優先された。
政治家は税金削減や、規制などの制限の撤廃、そしてもちろん、さらなる税金削減を約束した。

利益最大化によって支配された世界では、企業はコストを最小限に抑えて財政的なリターンを最大限にすることが期待されている。けれども、この期待がオートメーション化による人員整理と組み合わさったとき、そしてグローバル経済の利得が世界最大級の企業とその企業の小部隊であるひじょうに裕福な株主によってのみ刈り取られ、種をまかれるとき、いったい何が起こるのだろうか。
こうして導かれる世界は、僕らが想像しているよりもっと収益が高く、さらに労働者が少ない世の中ではないだろうか。

2050年を生きる僕らのマニュフェスト

読み進めていくうちに、ひやひやした。
ちょっと待って。身に覚えがありすぎる。

この間早期退職者の募集があって大量の社員が辞めていったし、いままさに新システムのプロジェクトにも関わっている。

え、わたし、仕事減らすために働かされて、用無しになったら解雇?
そのために一生懸命頑張っているの・・・?

「君には何が見える、敵はなんだと思う?」
エルヴィン団長の声が、耳元で聞こえた気がした。
 
またこの本では既存の労働者だけではなく、大学生も犠牲者だと語っている。

賃金上昇が停滞しているのとおなじ時期に、高等教育の費用は天井を突きぬけて上がっていった。2018年の大学の授業料は、1971年の授業料より平均額で19倍高い。この差額を埋め合わせるために学生は、別の種類のクレジットカードに助けを求めた。それが学生ローンだ。2018年現在、米国の学生の負債総額は一兆4000億ドルと突出していて、過去10年間で150%上昇した。借金をして企業したスタートアップ起業や不動産ディベロッパー、その他の事業者とはちがって、学生は負債から逃れるための破産申告が法的に禁じられている。利益最大化層は、借金まみれの学生を手に入れて、働きバチになる可能性が高い。

2050年を生きる僕らのマニュフェスト

大学の授業料が高いのって、アメリカも同じなのか…
大学授業料の上昇はよくわからないけれど、私立に行くと年間100万円はかかる。え、もしかしてこれって、アメリカの真似してるの?
えええ??っと頭はパニック状態。
日本の実情についても詳しく調べてみないと判断できないけれど、きっと、これだけは確実。
 
一部のひじょうに裕福な人たちだけが、得をする仕組みが出来上がった。
そしてそれは、グローバル化と政治の腐敗によって、もう止めようがない。

じゃあどうすれば良いのか…
そして読み進めていくと、なんと、松下幸之助が登場するのである!
筆者はこの主義の対比として、松下幸之助の”わが実践的経営理念”を取り上げている。

松下幸之助は企業の250年さきのゴールを宣言した。それは「この世から貧困をなくす」ことだった。
1936年、従業員に週一回の休日を与えると決めた。当時の日本の労働者は一か月に二日しか休みがなかった。1960年、さらに一歩進んで、日本で初めて週五日制の労働を提案すると発表した。大半の日本企業がそれに続いたのは1980年になってからだし、日本政府の職員が週休二日制で働きはじめたのは1992年のことだった。

「高すぎもせず低すぎもしない、ほどよい利益をあげることによってのみ、企業は成長できるし、より多くの人びとに、よりすぐれたサービスを提供できる。さらに、企業はその利益の大きな割合を税という形で支払うことによって社会に貢献する。そういう意味でも、市民としてほどよい利益を上げるというのはビジネスマンの義務なのです」

2050年を生きる僕らのマニュフェスト

ここで松下幸之助が表現した「ほどよい利益」という言葉が、「利益最大化」と上手に対比されている。
コストカット、リストラ、節税によって利益を最大化することではなく、社会全体を潤すために、ほどよい利益を上げ、従業員にも国にも貢献する。

まさか、アメリカ人に松下幸之助について教えてもらうとは思わなかった。
この本に比べたら、冒頭のアフタヌーンディーでの衝撃なんて全然大したことじゃなかった。

そして、私がクレジットカードを使うたびに、カード会社が儲けた手数料が消費者金融に流れ、アコムやプロミスが日常生活に溶け込んでしまっている現実を、直視せざるを得ない。

私は松下幸之助にはなれないけれど、社会全体が潤う構造に、腐敗しない構造になってほしいと思う。どうすればいいのかな、とも思う。
 
2050年まであと25年。じっくり考えていこう。
この本は、「2050年を生きる僕らのマニュフェスト」で、私たちミレニアル世代・Z世代は、やっと、時代の主役になれるのだから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?