『STEINS;GATE』~SFとファンタジーの世界

想定科学アドベンチャーとは

この「想定科学アドベンチャー」とは、『STEINS;GATE』のゲームとしてのジャンルになります。

5pb.様から発売されている科学アドベンチャーシリーズの第2作目にあたる作品で、1作目の『CHAOS;HEAD』「妄想科学ノベル(アドベンチャー)」、3作目の『ROBOTICS;NOTES』「拡張科学アドベンチャー」というように、それぞれのゲームの特徴を捉えた独自のジャンルになっています。

『STEINS;GATE』、ある程度現実に存在する理論や現象などをベースにして、そこにフィクションを織り込み、また一部でファンタジー要素を盛り込むこと、袋小路のストーリーの中でもがく主人公・岡部倫太郎のキャラクター性などの要素が、濃厚な科学的な話も作中に含まれているにも関わらず、しっかりと物語にのめり込めるように作られています。

今作はタイムトラベルパラレルワールドを扱った作品になります。

SFというジャンルで散々使い古されてきたこのふたつのテーマですが、このふたつは、ファンタジーではありながら、現実味のあるテーマでもあります。

今回は、『STEINS;GATE』のゲーム中で語られるSF要素とファンタジー要素に言及していくので、ネタバレが含まれますので、これ以降を読み進める際はご注意くださいませ。

タイムトラベルとパラレルワールド

この作品で扱われている「タイムトラベル」「パラレルワールド」

このふたつは、それぞれのテーマで多くの作品が作られてきていますし、タイムトラベルにおける問題をパラレルワールドの理論を使って回避するといった形で、もともと関係性の深いテーマ同士ではあります。

『STEINS;GATE』においては、どちらかといえばパラレルワールドの方が主軸になっています。

とはいえ、次の項目で説明していますが、厳密にはパラレルワールドではありません。

タイムトラベルも物語を構成する重要な要素ではあるのですが、あくまで問題を解決する手段として登場しています。

世界線という言葉と独自の理論

「世界線」という言葉を聞けば、サブカルチャー界隈では、ほぼ迷わず「Ifの可能性」を見たときに「こんな世界線が……」という発言をするように、パラレルワールドに関連した用語として定着しているように思いますが、これに近い意味で「世界線」という言葉を初めて使ったのが、この『STEINS;GATE』です。

本来は相対性理論で使われる用語なのですが、これについてはわたしが詳しいわけではないのでここでは触れません。

『STEINS;GATE』における「世界線」とは、正確にはパラレルワールドを指す言葉ではありません。

このゲームの世界には、世界は間違いなくひとつしか存在せず、「過去から未来まで続く一本線の世界の歴史の流れ」を指す言葉として「世界線」という言葉が使われています。

これは、作中にも同名で登場し、現実世界の2000年にアメリカのネット掲示板に現れたジョン・タイターという自称未来人の発言から来るものです。

ちなみに、タイターは「時間線」という言葉なども残していますが、本作で言及されるのは「世界線」のみとなります。

この作品には、実はパラレルワールドは存在していないのです。

作中では、何らかの出来事が原因でその世界線のその後の未来が書き換わってしまうと、元々の世界の未来は消え去り、新たな世界線へと書き換わっていきます。

この変動がある程度の間に収まるようであれば、その世界線においては起こるべきことは必ず起こることになっています。

これは「世界線収束範囲(アトラクタフィールド)」という言葉で説明されますが、作中では、ヒロインのひとり・椎名まゆりの死を回避するために、まゆりの死が確定してしまう「世界線収束範囲」を超える世界線の変動を目指して岡部は奔走することになります。

タイムトラベルの要素

作中の主軸になってくるのは、先ほど書いたとおりまゆりの死を回避するために奔走する岡部

この問題を解決するために使われるのが、岡部と友人のダルが作った未来ガジェットのうちのひとつ「電話レンジ(仮)」を改良したタイムリープマシン

未来ガジェットの多くは他人から見ればただのガラクタですが、この「電話レンジ(仮)」偶然にもタイムマシンとしての機能を持ってしまいました

これがCERNという組織に察知されてしまうことをきっかけに、物語が悲劇へと向かうわけですが、それを解決するためにも使われるのがこのタイムリープマシンという、なんとも皮肉が効いた展開ですね。

その理論としては、自分の記憶を圧縮して過去の自分の脳へと送信するというもの。

脳の構造上の問題で遡ることができるのは48時間前まで。

ただし、作中ではタイムリープマシン完成後への跳躍に限定していたために、まゆりの死の5時間ほど前までしか戻りませんでした。

そのため、とても短い時間を岡部は何度も何度も繰り返してまゆりを助けるために戦い続けるのです。

これは本編の話に直接関係ない考察になるのですが、このシステムでのタイムリープ過去の自分への記憶の上書きです。

それはつまり、過去の自分を消し去って未来の自分を強制的に定着させるということ。

作中で詳しく触れられたことはなかったと記憶していますが、実際には本人の精神に多大な負担がかかることでしょう。

シナリオ中でも、タイムリープを繰り返した結果精神が摩耗してしまった岡部の描写がされる場面もありました。

それを乗り越えて、岡部は自分が望む未来へとたどり着くために奔走するのでした。

孤独の観測者・岡部倫太郎

最後に、この作品における最もファンタジーな要素に触れておきましょう。

それは、主人公・岡部が持つ「リーディングシュタイナー」という能力です。

「リーディングシュタイナー」とは、世界線の変動を観測する能力です。

岡部倫太郎は、何故か世界線が変動したことを知覚できるのです。

それはタイムトラベルを経由することなく、岡部が近くしている時間軸の中で何らかの理由で世界線の変動が起こったときにもそれを近くできるという描写があります。

しかし、タイムトラベルで過去に戻れば、そこから先、未来のことを知る人間がいるわけもありません。

仮に岡部と同じくタイムリープマシンを使って転移してきたのであれば、互いに認知することも可能でしょうが、岡部が転移するタイミングではほぼそれも不可能な状況が多く、岡部自身も自分ひとりで抱え込んでしまっています。

また、世界線が変動すると、それ以前の記憶も含めて書き換えられた世界のものへと変わってしまいます。

「リーディングシュタイナー」を持つ岡部だけが、以前の記憶を保持しながら世界線を移動していきます。

先ほども書きましたが、『STEINS;GATE』の世界にはパラレルワールドは存在しません。

しかし、岡部倫太郎の視点に立って考えてみましょう。

消え去ってしまった世界線の記憶を持った彼にとってみれば、他人が当たり前に持っている、その世界線での過去の記憶を持っていないのです。

そういった意味で、視点主人公である岡部倫太郎は、たったひとりで無数の並行世界を旅して観測し続ける「孤独の観測者」なのです。

『STEINS;GATE』は、現実に存在する多くの用語や組織、理論を展開しつつ、ほんの少しのファンタジーを混ぜることで、面白さを際立たせています。

そして、「リーディングシュタイナー」という能力の存在は、そこにもう一味付け加えるための最高のエッセンスになっていると思います。

最初のお前を騙せ、世界を騙せ

岡部は、永い旅路の果てにまゆりを救うことに成功します。

まゆりの死が確定する世界線から脱却し、元々自分たちが居た世界線へと帰還することができたのです。

しかし、そこで新たな問題が発生します。

それは、物語の冒頭で辿った道筋。

「最初のお前を騙せ、世界を騙せ」

このフレーズは、この作品を知っている人にはとても刺さるフレーズではないでしょうか。

『STEINS;GATE』のシナリオは、とても緻密に作られています。

だからこそ、アニメならば二度目の視聴を、ゲームであればぜひもう一度、最初からやり直してほしい。

一度すべてを見たあなたの眼には、そこにいる岡部倫太郎は、間違いなく騙されているのですから。

そして、騙されているギミックというものに気付くことができると思います。

今回はこのあたりで。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。

それでは、また来週。

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