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菊池寛ってどんな人?な話~柚木麻子『ついでにジェントルメン』~

やすこさんへ

やすこさんは菊池寛の小説を読んだことある?私は実は一冊も読んでないし、今まで全然興味もなかったのに、最近読んだ3冊の本に立て続けに菊池寛が出てきてなんだかびっくり。これはもう菊池寛が書かれたがっている!と思ったので(不遜)、今日は柚木麻子の短編集『ついでにジェントルメン』の巻頭に収録されている『Come Come Kan‼』について話したいと思います。

担当編集者にダメ出しされてばかりの新人作家、覚子が文藝春秋社のラウンジで意気消沈していると、菊池寛の銅像が話しかけてきて……という始まりで、「ベタなファンタジー設定か〜」と一瞬気持ちが萎えたんだけど、読み進めるうちにどんどん面白くなって、気づけば前のめりで読んでました。

ここで描かれる菊池寛が、とにかく茶目っ気があって魅力的なの。
新しいものに興味津々で、覚子が落としたスマホを使ってSNSでバズったり、人が好きで「(僕を)構ってよ」「僕のことは寛って呼んでいいからさ!」と覚子に話しかけ、近くで打ち合わせしている新人作家と友達になりなよとけしかける。
ルールなんて気にしなくていいよ。考えたこっちだってノリなんだから」
と、文壇のルールについてもばっさり。全然文豪っぽくない、気さくでちょっとチャラいおじさん。
だけど、覚子が友達の新人作家をサポートするべきか、自分はそんなことをしている場合か?と悩んでいると
誰かを助けたからって君の財産が減るわけじゃないんだよ。むしろ君自身にとっても、いい経験になるんじゃないの?」
と懐の深さを覗かせる発言も。

実際、菊池寛は面倒見がよくて、才能のある人をみつけるとお金もチャンスも惜しみなく与えて、後は口を出さないし見返りも求めないという人だったらしいの。カッコいい!ま、一方で愛人を秘書にしてたとか、大のギャンブル好きだったとかゲスなエピソードも多いんだけど、作中の菊池寛がチャーミングなので、実物もきっとどこか憎めない、人に好かれるタイプだったんだろうなって気がするんだよね。

物語の終盤、覚子と寛がダンスを踊るシーンがあるんだけど、実際の菊池寛もダンスが好きで、59歳のある日、お寿司を食べてダンスを踊っていたら原稿を取りに人が来て、それを取りに部屋に入ったところで狭心症で倒れて亡くなったらしい。なんだかちょっと滑稽で、でも最後まで人生を楽しんでたって感じで少し羨ましい終わり方じゃない?

物語を通してすっかり菊池寛に興味津々の私。そのうち作品も読んでみようと思います。

この本には全部で7つの短編が収録されていて、他もどれも面白いです。中でも『エルゴと不倫鮨』は特に痛快だし、美味しいもの好きなやすこさんは絶対好きだと思うよ。おすすめ。


そうそう、ちなみに最初に言った”3冊”のうち他2冊はー

でした。

それでは、また。

2024年7月6日
かおり


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