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小さな灯りで世界を照らす人の話 ~金井真紀『世界はフムフムで満ちている』

やすこさんへ

あっという間にもう師走だね。
今年は藤井竜王・名人の活躍、本当に凄かった。自分の好きなことに才能があってそれを仕事にできて、思いっきり打ち込めて、さらに観ている人たちにも喜んでもらえるって、なんて幸せなことなんだろうと思うよ。

藤井さんのようなスーパースターはまさに綺羅星で、将棋なんて全然詳しくない私の所にまでその活躍の光が届いてくるけれど、世の中のほとんどの人は誰に注目されるでもなく地味に仕事をしていて、でもその地味な仕事それぞれが、世の中をたくさんの小さい光で照らしているんだよなと、ふと思うことがあります。それは、たとえばこんな本を読んだとき。

著者の金井さんはテレビの構成作家やリサーチャーなどをされていたそうで、その当時のインタビューも含め、100人のいろんな職業の人に聴いた仕事の話を集めたのがこの本。・・・と言うと、『プロフェッショナル』や『情熱大陸』みたいな濃密なインタビュー集かと思われそうだけど、実は全然違うの。
1人につき見開き2ページ、エピソードごとにほのぼのしたイラストも入ってて、「詩集か?」って思うほど文章は少ないし、ゆるい。どこから読んでも、どこでやめても大丈夫。寝る前にベッドで読むのにも最適。

じゃああんまり読みごたえがないのか?って言うと、またちょっと違うんだな。この本は例えるならするめ、あるいは白ご飯。読み飽きないし、読めば読むほどじわじわといい味が出てくるんだよねえ。

海女さんはみんな海の中に秘密のたんすを持っているとか、ドライブインの経営者は地球の機嫌がわかるとか、ちょっとどんな話か気にならない?

他にも、かつら師、緊縛師など馴染みの薄い職業の人たちや、百貨店販売員、コンビニの店長など身近な職種の人たち、工事現場監督、マジシャン、漫画編集者、などなど。多種多様な職業人たちが、普段は人に話さないような仕事の矜持やちょっとしたヒミツを、ついぽろっと喋っちゃった。そんな感じの小さなエピソードが100。
100種類の味のチョコレートみたいな楽しさがある本だよ。

自分の持ち場を丁寧に照らしている達人に会うと、うっとりする。腹立たしいこと、嘆かわしいことの多いこの世界だけど、捨てたもんじゃないぜという気持ちになる。

あとがき

あとがきのこの文章、この本をそのまま表していると思う。読んでいるとどこかホッとするし、自分も自分のできることを丁寧にやっていこうとか、殊勝なこと思ったりしちゃう。

愚痴は言っても結局は自分の仕事が大好きな(だよね?)やすこさんに、忙しい年末におすすめしたい本です。ふー疲れた!とひと息ついたら、ベッドに寝転がりながら読んでみて。

2023年12月8日
かおりより


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