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大学生のラーメン屋店長「俺の食べたいものを出す」。きっかけはアメリカ留学だった【大井太暉さん】

/知りたいあの人/
経営のことより「自分が美味しいと思う一杯」へのこだわりが大切。福岡県飯塚市で、大学生がラーメン好きをうならせている。

「汁なし坦々麺」の仕込み日の大井さん、福岡県飯塚市の店舗前にて撮影=三井滉大

各地のラーメンを食べ歩き、研究したラーメンは、数千杯を数える。西南学院大学4年の大井太暉さんは、2021年10月、福岡県飯塚市にラーメン屋「武志(たけし)」を開店した。店名は父の名前からとり、大工の祖父と一緒に、空家を改装してオープンした。

週2日、1日30杯程度で提供する「中華そば」は、その日によって味が変わる。それも含め「自分の全過程を説明できるのが、プロなのではないかと私は考えてます」と大井さん。行列ができる人気店となったが、大学卒業のため、2022年末でお店を閉めると決めている。閉店の年末まで全力投球だ。

「武志」の中華そば 提供=大井太暉さん

アメリカの学生から刺激

ラーメン屋を始めたきっかけは、2020年春、短期の語学留学で、渡米していた頃にさかのぼる。当時、大井さんは大学2年。新型コロナウイルスが、猛威をふるう直前だった。「主体的に動くのが好きだった」という大井さんだが、留学先で出会った、積極的で何事も楽しむ学生たちに、衝撃を受けた。

帰国した20年3月下旬は、福岡市内の「二郎系」ラーメン屋の開店日だった。200人以上の客が並ぶ中、明るく楽しそうに接客していた店員の姿は、アメリカで出会った学生と重なった。早速アルバイトとして、その店で働き始めた。

転機となったのは、その店を間借りして、自分のラーメンを提供するようになってからだ。店は7月になると、1ヶ月ほど夏休みで休業となる。店長がその内、1週間の間借りを許可してくれた。間借りは21年に自分の店を開店するまで、5回ほど行った。間借りでラーメンを提供したときも、すぐ完売していたので、味に自信はあった。

「武志」の外観、平屋のテナントの並びに店を構える。 撮影=三井滉大

授業との両立、ラーメンと学業、手を抜かない

ラーメン屋をしているが、大井さんは大学生だ。法学部の授業に加え、教職課程を履修している。そのため、授業数は多くなる。どう両立しているのか尋ねたところ「マルチタスクとは逆のやり方のマルチタスク」と答えた。ラーメンと学業を、50%、50%の力でバランスするのではなく、どちらも100%を目指して取り組むという。大井さんの真っすぐさが分かる言葉だ。どちらか手を抜くということはしない。昼休みに家に戻って、仕込みをする日もあった。

プロとは「全て説明ができること」 一杯へのこだわりと将来

店は経営のことより「俺が食べたいものを出す」というのが、基本方針。そのために、味にはとことんこだわる。「自分がやっていることをすべて説明できること」がプロだと思っている。

同じ「中華そば」でも、味が変わるようにしているため、その説明までも「値段に含まれている」と考えている。「昨日は鶏の濃厚な味がしたが、今日は麺が香る」という味の違いは、数千杯で試してきた「経験」が教えてくれる。

日本中の生産者を訪ね、自分が気に入ったものしか使っていないため、食材への自信はバッチリだ。出汁は、黒さつま鶏・みやざき地頭鶏・秋田の比内地鶏など、お気に入りの食材を使ってきた。麺は自家製麺で、30杯のために5時間ほど手打ちしている。しんどいし、大変だが「今しかできないから」と手を抜かない。

現段階では、ラーメン屋、教職、一般企業など、将来の選択を狭めていない。「武志」を22年の12月末まで続けて、閉店した後に考える。閉店や卒業の期限が決まっているから、そこに向かって頑張るだけで迷いはない。


執筆者:三井滉大/Kodai Mitsui
編集者:原野百々恵/Momoe Harano 清水和華子/Wakako Shimizu

インタビューを受けてくれた人:大井太暉さん。西南学院高校卒、西南学院大学法学部4年。高校時代の部活はラグビー部で、大学2年までは現役。高校時代の恩師に憧れて、教職課程履修中。好きなアーティストは「King Gnu」


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