見出し画像

“食”へのプライドは思わぬところに顔を出す。 元コックが出逢いと信念で育て上げる、いちじくの魅力

オンライン取材のURLを開くと、そこに写ったのは根本さんそして健やかに葉を伸ばす木々たち。そう、その植物こそが今回の主役“いちじく”です。ホテルの料理人というキャリアを持つ当人はさぞかし味や調理法へのこだわりを語ってくれるのだろうと思いきや、あっさり「パティシエじゃありませんから」と切り返す潔さ。ますます気になった私たちは、果物との出会いから今後の展望までをじっくり伺いました。

画像3

コック時代から毎年1本ずつ植え続けたいちじく

私は元々ホテル勤めの人間。コックとしてお客様に出す料理を担当していました。皆さんご存知の通り朝から晩まで立っている仕事ですから、仮にこれを辞めても立ったままやれる仕事でないとなと、少なからず農業という選択肢も頭に置いて働いていましたね。ただ農作物と言っても色々あるわけです、なので最初からいちじくをやると決めていたわけではなくて。直売所で買ったいちじくが美味しかったことから「いいな」と思った程度の、なんてことない接点だったんです。でもそれがきっかけで毎年1本ずつ植え始めて、今いまとなっては生業にして語っている…不思議なもんだなと自分でも思います。

画像3

栽培よりも早く加工の環境が整ってしまった、発想の所以とは

いちじくであれ何であれ“植えさえすれば上手に育つ”なんて単純なものではないことは明らかなんですが、当時植えたときにたまたま美味しくできまして。皆さんもそうかもしれませんが、いちじくってそこまで食べる機会が無いじゃないですか。それこそ私が勤めていたようなホテル然り、季節の果物を食材として取り入れる節はあっても、いちじくのように日持ちがしないものはなかなか扱いにくい。余談ですが、生ハムはメロンじゃなくていちじくの方が美味しい、これは個人的に絶対(笑)。でも、そんなことも自分で育てるようになって初めて気づくぐらいだったんですね。
つまりは、なのですが、ひとたび生産者の側に立てば「なかなか売れない」という壁にぶち当たるわけです。なおかつ2日程度で美味しさのピークを過ぎてしまう。そうしたことから結局、生産者になったはいいものの生果をダメにしてしまいそうになることが続きまして。ただそれを無駄にするというのは、やはり食へ長く携わってきた身からすると絶対にしたくないわけです。それならばと、わりに早い段階でこしらえたのが、今も使っている加工場です。普通は生果の販売がある程度軌道に乗ってから手をつけるものかも知れませんが、私の場合はこうして逆からの展開になったわけです。

ツーリング途中のドライいちじくが、その足を“師匠”のもとへと運んだ

今日に至るまでには本当に色々ありますけれど、ひとつターニングポイントになったとするならば、趣味のツーリング中、道の駅でドライいちじくを口にしたことかもしれません。たまたま立ち寄ったところで見つけて購入しただけなんですが、もう本当に美味しくて感動してしまって。思わず裏のラベルを見てその場で電話したんです。そうしたら幸いにも農園を見せてくださるとのことで、その日その足で向かうことにしました。今となっては私の師匠となってくれている方なのですが、当時からいちじくの育て方、肥料のこと、農園の作り方など本当に快くノウハウを教えてくださいまして。後からわかったことなのですが、同郷でもあったんですよ。だから余計親近感が湧きまして、私も何でも相談できますし、今こうして農園が大きくなりつつあるのはその方のおかげです。

画像3

何はなくとも“衛生面”。食へ関わる人間としてのプライドと未来

気が付けばコックを退いてから4,5年が経って、農園に育ついちじくの品種も8種類ほどまで増やすことができるようになりました。加工も含めてやっているのが当初からのスタイルですし、最小限のスペースで始めたもんですから、そろそろ大きくしたいなとかそういう思いもあります。ただ、この先も含めてどうしても大事にしたいことがあって、それは“衛生面”なんですよね。そんなことをわざわざ言及する人も少ないかもしれませんし、以前はコックだったと話すと美味しく作って美味しく食べるコツみたいなのを話すイメージかもしれませんけれど(笑)。どんなに美味しい料理だって、衛生面がしっかりしていなくてお客様がお腹を痛めたり具合を悪くしたりしたら、元も子もないわけです。どこまで徹底するかは各人によるかもしれませんが、私はそのスタンスで衛生検査も全加工品に対して実施しています。いかんせん時間がかかるのですが、それは私にとって「お客様に出すうえで必要な時間」。だからこそ、いざ召し上がる皆さんには安心して、心行くまで美味しさを味わってほしいですね。

この記事が参加している募集

振り返りnote

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?