初心者の私が最初の万年筆を手にするまでの道のり
この記事は、実は何度も書き始めては辞めている。書いてはやめ、消して、書き直している。そして思った。このままだと一生公開できない、と。
今、皆さんが読もうとしてくれているこの記事には、何らかのタイトルがそれらしくついていることだろう。だが、執筆最中の私の目の前にあるこの記事のタイトルは「今度こそ書き切る」となっている。何を書き上げることになるか分からないので、もう意気込みを書いてしまった。
下手にちゃんと書こうとして、この記事で伝えたいことって何だろう?何から書けばいいんだろう?書きたいことは何だろう?全部ひっくるめてどんな記事にする?なんて考えたら全然まとまらなくで、そのうち考えることに疲れてやめてしまうのだ。
とっても困ったことに、書きたいことが多すぎる。一体何から書けばいいのかなんて、考えてたって仕方がない。こりゃ読んでる人が分からないだろうと思った時に戻って説明すればいい。そんな形で腹をくくることにした。
ただただ一人で考えて悩んで、あーやっぱ思ったようにならない……と繰り返しているのは何の生産性もなさすぎる。完璧なものなんて書かなくていいじゃないか。書き洩らしたことがあったら懲りずにまた記事を書けばいいや!
本格的に話に入っていく前に、記事を最後まで書き終わった私からのご案内だ。
この記事は単純に万年筆の紹介をしているだけの記事ではないので前置きと言う名の特に必要ない話が長い。
現在万年筆をお探しの方は、以下に目次を置いておくので紹介らしくなってくるところから見ていただくのがよい。5からか、もしくは何を基準に選ぶかの話が始まる8から読み始めるのがおすすめだ。
暇だから最初からお前の無駄な話を聞いてあげよう、という心の広い方はこのまま1に進んで頂ければと思う。ちなみに約2万文字あるので覚悟してほしい。
1.そういうわけなので見切り発車で語り始める
事の始まり、つまり私が万年筆を初めて手に取ったのは去年の2023年……その年末のことである。きっかけは私に新しく手書きの習慣が芽生えたからだ。
手始めに、まずはこの新しい手書き習慣のことについて触れていこう。
もともと私は手書きで字を書くことが好きだった。文章を書くのも好きだし文字を書くことそのものも好きだったので、最初から万年筆とは非常に親和性が高かったと言える。
一般的に言われている「万年筆の長所」は以下の通りだ。
書き心地が最高
筆圧が必要ないので長文書いても疲れない
字が上手く見える(私はそう思ったことはない)
3つ目については、今でも「何いってんだ?」と思うのだが、どうやら、恐らく、太めで色付きのインクを使っている場合は万年筆特有のインクの濃淡が強く出るため、書いた文字に表情が現れるので「なんかカッコイイ」となるのだと思う。多分。
ともかく、前者2つだけ見ても、文字を書くこと自体が好きで沢山書きたいと思う人間にはぴったりだということが分かって頂けるのではないだろうか。
しかし、皆さんも思うのではないだろうか。
「でも書くことがないしな……」
書くのが好きで、何か書きたいと思っている私ですらそう思っていたのだから、きっと多くの人がそう感じていると思う。
2.モーニング・ページとの出会い
今思えば、何故突然youtubeのオススメ動画の中にモーニング・ページを紹介している動画が現れたのか謎だ。
私は一日の大半をPCの前で過ごしているし、その作業のお供には動画を開いていることがほとんど。興味の幅は広くあらゆるチャンネルを登録しまくり、チャンネルをジャンルごとに管理するための拡張ツールを入れているくらいだ。もう更新をしていないチャンネルもあるだろうが、登録チャンネル数は300を超えている。
鳥、水族館、動物園、牧場などの動物チャンネル、園芸店、文具店、書店、メーカーの公式チャンネルなど企業チャンネル、都市伝説、怪談の朗読、SCPやThe Backroomsの紹介などを行うゆっくりボイスのチャンネルや肝試し、心霊スポット巡り、事故物件、怪談などのホラージャンルを取り扱うチャンネル、企画ものを取り上げるマルチジャンルの所謂youtuberチャンネルなどに加え、作業用のBGMや一緒に勉強ができる環境音やポモドーロタイマー付きの動画をあげているチャンネルなど、上げれば本当にきりがない。音関連を全部Youtubeに任せようとしているのかと言われてしまいそうだが全くその通りなので、その言葉を甘んじて受け入れようと思う。
さて、では朝活の一種である「モーニング・ページ」は一体どこ出身なのだろうか。私にもわからない。
モーニング・ページと出会ったのは11月だったはずだ。今は手帳術なんかにも興味をもって手帳・文具チャンネルも色々と登録するようになったから、今なら出て来てもおかしくないのだが、当時は手帳のチャンネルを視聴していた覚えはない。ただ筆記具は好きだったので、シャーペンやボールペンを買ってはレビューしている筆記具のチャンネルは少しだけ登録していた。ただ、私がモーニング・ページを見たのは知らない手帳チャンネルの動画で、知らない動画主のものだったのは間違いない。女性の主だったということしか覚えていないくらいだ。
私にとっては人生を左右する動画との出会いだったと言っても過言ではない。その動画を出していたのが誰だったか分からないというのはちょっと残念だ。見つけることができたら感謝を伝えに行きたい。動画構成を覚えているので、また開くことができればきっとわかるはずだ。
ともかく!そうしてモーニング・ページを知った。少し書いたがこれは朝活のひとつだ。朝、起きてすぐにノートを開き、とにかく片っ端から字を書け。内容なんてくそみたいなものでいいんだ気にすんな!というもの。
思いっ切り朝型人間の私にとって、朝という縛り。とりあえず書きたいな、何か……という気持ちを持っている私にとって、とにかく何でもいいから書けと言ってくる。
内容なんてどうでもいい。考えている暇があったら書け。今考えてるということを書け。書くことがないなら、ないと思っていることを書け。そして絶対に誰にも見せないこと。自分も90日後まで絶対に見返さないように。
といった、見たことないワードを畳みかけてくる。その言葉の羅列とルールの超簡単っぷりが気に入った。
まさに私がやりたかったことをやったうえに、モーニング・ページのもつ、いい効果を得られるというなら、これをやらない手はなかった。覚えることも準備することも何もない。朝起きてノートになんか書けばいいだけなのだ。これはいい。
そうして私はモーニング・ページを始めることにした。
3.まだ出会わず
今思えば、意外にも。
「よし、万年筆デビューできるじゃん!」
とはすぐに思わなかった。
文具店の最奥でショーケースの中に鎮座する高級万年筆は、モニター越しに見る俳優のような存在だったのだと思う。基本的に会えると思っていない、みたいなやつだ。
知識としては、1000円もしないような安価な万年筆がすぐに手に入れられる場所でよく売っているのは知っていたし、仕事でそういうものを紹介する記事も書いたことがある。
でも、それを自分事として結びつけることができていなかったのだ。なので当然、私はモーニング・ページをボールペンで書き始めた。
突然だが私は筆圧が強い。
書くことは好きだが、書いていると割とすぐ手が痛くなる。
それは別にボールペンが悪いわけではない。
無駄な筆圧をかけて自分で自分の手を痛めつけている私が悪いのだ。
シャーペンを使っていた学生時代は頻繁に芯を折っていたのを思い出す。芯は勿体ないしカチカチやるのはめんどくさかったものだ。
いや、そんなことはどうでもいい。
書くことはまだまだあるし書けるのにとにかく手が痛いのだ。
筆圧を掛け過ぎていることが原因なのは分かっているが、癖というのは直すのが難しい。如何せん文章を書いている時は、文章の内容の方に意識を半分くらいもっていかれているので、筆圧を弱くしよう、と思っていてもついついすぐ癖が出てしまう。
そこでふと、文章の量を書くなら万年筆、という知識が脳裏を過った。
同時に筆圧をかけてはいけない、という知識も過った。
モーニング・ページは、何か大切なことを書いているわけではない。とにかく書いているだけだ。これはチャンスなのではないか?
というのも勉強をするために文字を書く場合、手元の筆記具に不慣れというのは困ったものだ。文字を書くこと自体に意識を持っていかれると勉強に支障が出る。
何となく書いているだけの文章であれば、万年筆に親しんでみるという目的も合体させてしまったほうが、私の中でより「楽しみ」に近づくのでは……?
そう気づいたときに、一気に私の中で万年筆が手の届くところに来た感じがした。
4.道具は使うためにある
これはとても個人的な話だ。
何を、どんな風に使うか。
それは、相手が生き物である場合を除いて、お金を出して手に入れたものの自由だと思っている。
つまり、デザインが可愛いから買ったけど勿体ないから飾っておく、といったようなことも自由だと思っている。それを見てほっこりと心が温かくなったり嬉しくなったりするのであれば十分入手した価値があると思うからだ。
しかし私自身はというと道具は使いたくなる方だ。
良いものを使うと作業が捗るし、使うことが楽しくなるし、モチベーション自体もあがっていいこと尽くしである。
そしてそれと同じくらい見た目にも拘る方だ。長く愛用するなら、性能も見た目も良い方がいいに決まっている。
だから、だろうか。
必ず使うものしか買わないと決めている。
例えば、すごく素敵なデザインだけど使い道や使いどころが思い浮かばないもの。私にとってはガラスペンがそれに相当する。そもそも管理に困るし、いざ書こうという時に準備の手間が必要になるのは私にとってはニーズに合っていない。
例えば、ちょっとした文具店でも売っているPilotのカクノという万年筆がある。代表的な大手メーカーが初心者向けに考えて作ってくれている、いわゆるエントリーモデルだ。目にする機会が多い分、初心者が手に取る万年筆として最も意識されるものではないだろうか。
だが私は気が進まなかった。
ペン先にニッコリと笑った顔がついていて可愛く、持ち方にも悩まないよう軸自体にも工夫がされていてユーザーフレンドリーな雰囲気なのはよく分かっているのだが、やっぱりどうしても見た目が安っぽすぎる。つまり全く使いたいというテンションが伴ってくれないのだ。
かといって、例えばものすごくデザイン的にかっこよくて性能も良いとされているが、高すぎて普段使いすることを躊躇うものも意味がない。万年筆は高級価格帯のものになると余裕で10万を突破していく。どれくらいの価格のものなら普段使いできるかは人によって違うとは思うが、とにかく「大事だから飾っておく」ということになる道具は手にしない。
そう。何故突然こんな話になったかというと、万年筆は数百円のものから数十万のものまで存在する。メーカーも多岐にわたる。そうか、万年筆という手があるな、と思ったところで、初心者が自力でどんなものがあるのか、自分が使うにはどれがいいのかを調べるのは、めちゃくちゃ骨が折れる作業だったのだ。
5.万年筆探しの旅へ……
まず、日本メーカーが出している万年筆がどれなのかが分からなかった。辛うじてカクノを出しているのがPilotなのは分かったが、他にあるんだろうか?という程度の知識だ。
調べたところ日本メーカーで万年筆を出しているのは前述のPilotとPLATINUM、SAILORの3社だった。ぱっと見全部横文字だ。そして申し訳ないが後者の2社については存在を知らなかったので、そういう万年筆の会社……か?という感じだった。
そして正直、知識ゼロの状態だとPilotは知っているといってもカクノを出しているのが辛うじて分かっただけで、他の万年筆の名前が挙げられるかといえば否だ。とりあえずラインナップを確認するため、公式サイトに様子を見に行くことにした。
ここから、日本のメーカー3社のサイトを順番に見ていくのだがその前に一つ。
今回は飽くまでも私がほとんど何の知識もない状態で万年筆のことを調べ始めたときのことを中心に書くので、これから紹介する万年筆の情報はあえて「価格」と「見た目」に限定した内容にする。
何故なら、何も分からない状態だとそれくらいしか判断基準がなかったからだ。
万年筆の重要な要素……というか、万年筆ユーザーが最もアツくその良さを語るのは「書き味」についてだ。そしてたった半年しかその沼につかっていない私ですら、その通りだと大きく頷いている。
ではなぜ、今回はその要素を省くのか。
いや、もう言うまでもないのではないだろうか。
そこに触れてしまうとめちゃくちゃ長くなるからだ。
もしチラっとそういう話題を見聞きした人ならお分かりなんじゃないだろうか。
この万年筆はPilotっぽい書き味で~とかの基準で言われると、いや知らん……となるし、かといって、これはシャリシャリって感じでこれはぬらぬらで~、なんて言われた日にはお前は一体何を言ってるんだ、となるのではないだろうか。
この部分については、いずれもう少し分かりやすい表現ができないか挑戦してみたいが、それはまたの機会とする。
それでは順番に見ていこう。
Pilot
まぁまずは有名どころだ。Pilotは有名な文具メーカーだ。
公式サイトを見る限り、そんなにめちゃくちゃ敷居が高い感じはしない。カテゴリに「万年筆」が存在したので早速見に行ってみた。
ああ……。
なんかいきなり凄いのが出てきてしまった。
何の知識もないし、そんなに高額なものを買うつもりもない。しかし、考えてみれば当たり前だ。トップページに置くのはそのメーカーが一番見せたいフラッグシップモデルで、ブランドの力をアピールしてきて当然ではないか。
とはいえ、当時は高くても5000円以上のものを買う気はなかった私にはちょっと腰が引けてしまうサイト構成になっていた。
商品一覧を見てもらうと分かるのだが、詳細を開くまでもなく見た目からして何か高そうなやつから順に並んでいる。
こちらは初心者なもので、それはもう素早く挙動不審になることができた。
しかし、これは今だから言えることだが、Pilotは一番初心者に優しい。低価格帯で手に取りやすい万年筆の種類が多いと感じた。ただリストの一番下に並んでいるのだ。
特に私が最初に本格的に使っていく万年筆を選ぼうと思っていた時に、最終候補まで残っていたのがこの「コクーン」だ。
なかなか高級そうな見た目をしているがスタンダードなモデルなら現在Amazonで2500円くらいで購入することができる比較的手にしやすい万年筆である。
「コクーン」はボールペンなども同じフォルムで出ているので、万年筆は敷居が高いけど形は気に入ったという場合も購入を検討できる。
「ライティブ」はもう一段階安いモデルの万年筆だ。2200円だがネットで探すと2000円を切っていることも多い。文具店で試筆できることが圧倒的に多い万年筆でもあるので一度試しに書いてみるのがいいだろう。
癖が無くて書きやすく、見た目もスタイリッシュになっている。カクノはちょっと安っぽすぎる……と手を出せなかった私のような人間に「これならどうだ!」とダイレクトにアプローチしてきているし、白状するなら結果的に現在所有している。Pilotの作戦は成功しているのだ。
エントリーモデルとされるカクノは1000円なので、約2本分ということにはなってしまうが2000円なら万年筆の中ではかなりお安い部類だ。
……というのは、万年筆を色々触ってみて半年が経過した今だから言える話で、当時チラっと様子を見に行ってみた私の感想は、雰囲気に圧倒されてしまった結果「すごい高いのばっかり並んでるんだな……」というものだった。
SAILOR
とりあえず3社とも見てみよう。お次はSAILORだ。碇のロゴマークがスタイリッシュでカッコイイ。とりあえずそれだけで一旦好印象だ。
私が半年前にSAILORのホームページを見た時の感想はたしか「うーーーん、なんかよくわからん」だった。
今確認してみたところ、SAILORの万年筆の商品一覧は新商品が上に表示されているようだ。半年前のラインナップは分からないが、たぶん目が滑ったのではないかと思う。数千円のものもあれば、すぐ横に突然10万を超えるようなものが同じように横並びで表示されているのだ。頭がバグる。
確か辛うじて私の目に入っていたのが、この四季織シリーズの「月夜の水面」だ。
四季織シリーズには後ろにつく名称によってカラーバリエーションや価格帯が違うものが複数あるが、どれも女性受けしそうな品のある外見をしていて目を惹く。
ただ6600円は、扱いに慣れないうちに壊してしまうのが怖く、最初に持つには少々高く感じられてしまった。
まぁ結果的に言えば、そうそう壊れることはないしある程度のものを買っても大丈夫だったなぁとは思うが、それは後になってから言えることである。
完全に見落としていた、SAILORの低価格帯万年筆はこちらだ。1000円のカクノを「ちょっとなぁ……」と思うのなら、値段的には次点でこの商品だったはずだが全然見つけられなかった。存在に気付いたのは本格的に万年筆をある程度使い始めた後だった。
が、その段階になると「SAILORの万年筆はどんな感じなんだろうか……?」と気になっていたので、1200円ならいいか……と思い買ってしまったのである。とりあえず何でもいいから気軽に買えるやつがあるというのは危険だ。興味さえ湧けば手を出してしまう、ということが分かる。
せっかくなのでその魅力を語っておこう。ハイエースネオクリアはカラーバリエーションは無いに等しく、透明の軸で、キャップをシルバーにするかブラックにするかの二択しかない。
なぜなら、ハイエースネオという軸にカラーがあるモデルはまた別だからだ。ちなみに値段は同じである。
ただ初心者にとっては、インク残量が見える透明軸はぴったりだ。そんな馬鹿なと思うかもしれないが、ただインクが切れただけなのになんで出ないんだ?!となったりする。実際、初心者向けのモデルは透明なものが多くなっている。
それに、今は素敵な色のインクが山ほど出回っている。軸に色なんかなくても、好きなインクを入れてしまえばお気に入りのインク色に染まった軸の万年筆を使うことができるのだ。透明軸の万年筆はそういう意味でもとても人気が高い。
しかもこのハイエースネオクリアは透明であることを最大限武器にしている。なんとこんなところまで透明なのだ。
ペン先ギリギリのところまでインクの青が綺麗に透けて見えているのが分かるだろうか。実は「透明軸」といっても、なかなかここまで綺麗に透けることは少ない。
先に紹介したPilotの「LIGHTIVE」は透明軸を所有しているのだが、こんな感じだ。ペン先の部分はグレーだし、指を添えるところは黒いスモークがかかっているような感じである。これはこれでカッコイイが、透け感で言えば「ハイエースネオクリア」の勝利だろう。
また、万年筆にしては軸がとても細いのが特徴だ。ボールペンに比べると、万年筆はだいたい軸が太くてかさばるのだが、ハイエースネオクリアはボールペンやマーカ―ペンと変わらない太さなのでペンケースに入れても邪魔にならないサイズ感と言える。見た目もほっそりとしていてスマートなのでデザイン的にも全体的にスッキリしている。
他の筆記具と一緒にペンケースに入れて持ち歩き、畏まらずに普段使いしていくという使い方にぴったりだと感じる。私は完全に見落としてしまっていたが、最初の1本として有力候補の品ではないかと思う。
では、3社目のPLATINUMのサイトを見てみよう。
PLATINUM
サイトを開けば全面真っ黒の画面にぴとーん、と水滴が落ち波紋と共に現れる「PLATINUM」のロゴ。
ムードの演出がばっちりだ。早くもハードルを感じる。
そして画面が出たと思ったらこうだ。
もうだめだ。威嚇でもされているのだろうか。
こんなトップページを見せられてしまっては「すみません、安い万年筆探してます~」とアホみたいな顔で入って行ってはいけないような気がしてしまう。よかった、ネットで見ている分にはどんなにアホな顔をしていてもバレてはいまい。
そして諦めてはいけない。
実は、このどこよりも高額な万年筆を並べていそうな「PLATINUM」こそ、最も安価な万年筆を販売しているのだ。
それがこちら。プレピーという万年筆でなんと440円。
初心者用万年筆としての知名度を獲得しているカクノの半額以下だ。
それこそ大昔に発売されており、当初はコンビニでぽいっと売られていたりしたらしい。なんか変わったペン売ってるな……え、万年筆なんだ~という感じで、特に万年筆を探していない人を獲得するような感じだったようだ。確かに400円くらいなら、めずらしいもの好きな私みたいな人間であれば「なんだろ~」と思って買いそうだ。
あまりにも見た目が地味なので文具店に並んでいても気が付かないかもしれない。
他の万年筆と違ってハッキリと何ミリの字幅なのか明記されているのも特徴的だ。これはコンビニでボールペンと並んで売られていた時の名残なのかもしれない。
他のメーカーと価格帯を揃えて1000~2000円台のものを紹介するならこちら。「プレジール」というモデルだ。
ぽってりとしたフォルム。渋めの色味から華やかな明るい色味まで軸のカラー展開も幅広い。金属軸で高級そうな見た目をしているが、これで1650円なのでかなりお手頃なお値段だ。
予め宣言しておくのだが、私は日本のメーカー三社のうち最たる推しはこのPLATINUMだ。その愛について語るのは、書き味についての話を語るときに是非させて頂きたいのだが、そんな私から、このメーカーの難を今の段階で語っておきたい。
ひとつは、どのモデルも全体的に厳つめであることだ。カラー展開的には女性でも持ちたくなるものがたくさんあるのだが、如何せん若干大ぶりで男性的な雰囲気が出がちなので、どれなら自分に合いそうか、女性であるなら少々考えなくてはいけなくなる。
もうひとつは、PLATINUMというメーカーの万年筆の書き味は、明らかに好みが分かれている節があるということだ。
私は片っ端から万年筆愛好家の話をかき集めたところ、多分私が好きなのはPLATINUMだと判断出来たので、最初の相棒に選んだしその判断は大正解だった。
しかし、残念ながら愛好家の中には私が相棒として選んだモデルを最悪の書き味だと酷評する動画をあげている人もいるのが実際のところだ(お互いのために二度と表示しないチャンネルに設定させていただいた)
ともあれ「好みが分かれる」という事実は間違いないと認めざるを得ないだろう。
今回は触れないでおこうと思っている話題に、あえて少し触れさせてもらった。現段階で、自分に書き味へのこだわりがある、と自覚している場合は逆サイドの可能性を考えて一旦避けたほうがいいかもしれない。ボールペンの試筆をしたときに書き味にこだわったことは無いという感じであればあまり心配しなくていいと思う。
せっかくなので私の相棒を紹介しておこう。プレジールよりももう1ランク上のモデルとなる「プロシオン」だ。
正確には公式で数量限定という表記のある「プロシオン ラスター」のローズゴールドを使用している。8800円となっているが、ネットでは通常のプロシオンと同じ6600円で購入できる。
また、これはプロシオンに限った話ではないのだが、PLATINUMの万年筆には「スリップシール機構」というものが搭載されている。
万年筆は「毎日使うこと」が何よりのメンテナンスと言われており、書かずに日数が経つとペン先が乾いて書けなくなってしまう。
大抵の場合はちょっと水に濡らしたり、インクを繰り出したりすればいいだけではあるのだが、そのちょっとの手間がかかるようになってしまうのが万年筆の面倒なところだ。
スリップシール機構は、そんな万年筆のお悩みを解決する仕組みである。1年に1回しか書かないような状態でもペン先が乾かないというのだ。
それだけ聞くと本当か??と思ってしまうが、実際に2年使っていないプロシオンで書けることを確認している動画を見てからは、本当にすごい機能だなと感心するようになった。
万年筆は持ってみたいけど、ちょっとしか使う予定がない……ということが分かっているのであればスリップシール機構目当てでPLATINUMから選んでみるのは全然アリだ。
6.調べまくった結果
もうなんか全然分からん。
いっぱい調べて色んな万年筆のページを見て、色んな愛好家たちの話を聞いてみて。
結果、何も分からん。
万年筆は道具としてはかなり趣味に近いものになっており、人にオススメしたり説明したりするときに、どうしても主観が多めに入ってしまいがちだ。好きなものを良く表現したくなるからそれも仕方のないことである。
だが、客観的な意見を聞きたい立場からすれば、感情の部分はノイズになってしまう。記事の書き手や動画主と趣味が合うと最初から分かっている場合はそれでもいいが、初めましての人間が発信する情報に感情が多分に含まれているのはさすがに都合が悪い。
初心者におすすめの万年筆、というテーマに絞ったところで
安いものを使った方がいい VS 安いものでは良さが分からない
最初は壊すかも VS そうそう壊れない
見た目 VS 性能
みたいなところで、まぁこれはある程度自分で触ってみなければわからんのだな……と思った。そしてその時に、今書いているような記事を書こうと決心したのだ。
初心者による、初心者のための万年筆導入記事だ。
とある一個人の実体験に過ぎないが、もしも同じようにどこの何を調べればいいのか分からないし、情報も偏っててわけわからんよ!と思っている人の目に留まれば幸いだ。
7.最初の万年筆をご紹介
では、そろそろ私が購入した最初の万年筆をご覧に入れよう。
現在最も愛用している相棒はプロシオンなのだが、これは6600円の万年筆だ。私は一番最初にこの金額の万年筆に手を出すことはできなかった。
ではどうしたか。
10分の1のお値段660円のこちらを買ったのである。
ちなみにこれは「komamono lab」という日本出版販売株式会社が取り扱っているブランドのひとつ「FONTE」というモデルで、万年筆自体は中国製である。
全く。今までの振りは一体何だったのかと。
結局日本製のものですらないのかよ、と。
本当に全くその通りなのだが、まぁ聞いて欲しい。
私はやっぱり見た目に拘りたかった。気に入った見た目の子であれば、多少性能に難があっても可愛がれる自信があったというのもある。
しかし高い物もいきなり手にするのは気が引けた。私は万年筆に対しては厳禁の強い筆圧を持っている人間だ。分かっているのであれば大丈夫だろうとは思いつつもやっぱり自分の手が筆圧をかけない筆記に慣れてくるまでは最悪壊しても良い値段のものにしたかった。
そうすると、条件は1000円台までで雰囲気だけでも高級感のあるオシャレなものがいい、という結論に至った。
660円という低価格であのオシャレ感を出してくれているFONTEは私の希望にぴったりだったのだ。
結果的には、やはり多少の問題は起きた。だが660円で勉強ができたと思えば安いものだし、見た目も書き味も好きだったのでトータルで考えれば正解だったと言える買い物だった。
良かった点をまとめると、価格と見た目、書き味だ。それに対して、起きた問題というのは、インクとの相性が結構シビアだったことだ。
というのも、たまたま使ったインクとの相性が悪かったようで、全くインクが出てこなくなることが度々あった。しかし、生憎初心者なものでインクが出てこない理由が分からない。使い慣れていないのもあり、基本的には何か私が悪いのだろうと思いがちだった。
しばらく経って別のメーカーのインクに入れ替えてみたところ急に全く問題なく使えるようになったのだ。万年筆は、そういうことが起こる筆記具だ。
問題が起きた時の原因究明や対処が難しい、というのは初心者あるあるだ。私の場合は分からないなりに色々試してみたりと諦めなかったのだが、問題が起きてしまった場合に「私には万年筆は向いてないみたい」と扱うこと自体を辞めてしまう可能性がある。
そう考えると、結果的に私にとってFONTEは正解だったが、人にオススメできる最初の万年筆ではないなと思う。
ただ、FONTEは今、いろんな文具店に並ぶようになっているし、パーツカラーの組み合わせを自分で選んだりするカスタマイズが楽しい万年筆だ。少し慣れてきたころに思い出して欲しい存在として覚えておいてもらえればと思う。
8.何を重視するのかをハッキリさせる
「分からないから、色々しらべて……」と、私のようなやり方で調べ始めると果てしなく時間がかかった揚げ句に「わからん!」となる未来が待っている。
あえてそうしてみるというのであれば止めはしないので、存分に旅をしてもらって良いのだが、早めに決めたいと思うのであれば、自分が万年筆を探すにあたって、まず何を重視するのかをハッキリさせた方がいいだろう。
すぐには決められなくても、いくつか万年筆を見ていく時に自分が何を重視しているのかに注目するのがいい。
価格
よほどの金持ちでない限り、予算は設定することだろう。万年筆は数百円のものから何十万円のものまで揃っているので、いくらまで使えるのかをハッキリさせよう。それだけで随分ターゲットが絞れてくる。
できるだけ安いものが買いたい
最初は分からないし心配だから一旦は触ってみることを目標にしよう、というのももちろんひとつの選択だ。
この場合の難点は、どうしても見た目がチープになってしまいがちなのと外れ個体問題、それから前述したトラブルが起きた際の問題だ。
安いものなのだから安っぽくなって当たり前だ。どれくらいのものから許容できるか自分の中で相談してほしい。
高価な万年筆を所有している人でも、逆に安っぽいくらいの方が雑な扱いが出来て日常使いしているという人もいるので、安いものを使うこと恥じることはない。
外れ個体についてなのだが、万年筆は高級モデルになっても「外れ」と呼ばれる個体が出てくる。完全に万年筆本体の問題でインクの掠れが酷くまともに書けなかったり、異様に早くペン先が乾いてしまったりする。ほんのちょっとのことでこういう問題が起きてしまう物なので、これは仕方がないことなのだ。
そういったものはメーカーや購入元に連絡すれば交換などで対応してもらうことができるのだが、これが数百円で買った物だとこんな手続きをするのは面倒で買い替えることになるだろう。
また、初めて買った個体で運悪く外れを引いてしまった場合、それが外れだと理解できないだろう。前例がないのだから「これはおかしい」と気づくことができないのだ。全体の何パーセントが外れなのか分からないが、万が一そういったことになった場合、万年筆って何か書きにくいな……と思って終わることになる。
万年筆本体の問題とは別なところで起こるトラブルと合わせると、なんだかうまくいかない場合の原因が「自分」「本体」「環境」に分かれ「何にせよ分からん」となるオチ付きだ。
というわけで、一旦、とりあえず安い物を買おうと思う場合は2本目を買う参考のために買うということを念頭においてもらった方がいいと私は考える。
改めて紹介しておくと各メーカーの安価なモデルは以下の通りだ。
Pilot:カクノ 1000円
SAILOR:ハイエースネオクリア 1200円
PLATINUM:プレピー 660円
最初からある程度の値段のものを買いたい
ここはもう予算次第にとなると思われるが選択肢としては、2000~3000円台のものか、5000~6000円台まで手を伸ばしていくか、それとも1万円程度出してちゃんと使っていきたいと考えているのか。
まず1万円出す覚悟があるのであれば、文具店の万年筆販売員さんがいるところにいって相談するのがいいだろう。1万円あれば随分選択肢の幅が広がるので専門家に直接自分の希望を聞いてもらって選んでもらい買う前に色々と試筆させてもらうのが一番いい。
その際には、販売員さんに初めての万年筆であることを伝えた上で、予算、用途、見た目の希望、考えていることなんかを共有して専門家に一緒に考えてもらおう。
ちなみに私は「それが一番いいのは分かってるに決まってるけどできないですわ!」となる人間だ。
試筆って店員さんの目の前でやるわけでしょ緊張するし、まじでなんも分からん人間がいきなり行っていいものなの?そもそも何でもそこにいる人にきいてみよーみたいなのは、もちろんやろうと思えばできるけどめっちゃ心に負担が来てエネルギーごっそり持っていかれるんだよ、出来る限りやりたくないよ。
そうそう。そういうことだ()
ちょっとでも自分の拘りとかが見えてくれば、専門家と話す自信が少しついてきたりするので、いきなりそういうところに突撃するのはしんどいな、と思う人は、2000~6000円くらいの間の金額からチョイスするのがいいだろう。
念のためにもう一度出しておこう。
Pilot:コクーン 2500円
PLATINUM:プレジール 1650円
同価格帯をSAILORから選ぶならこちらになる。
見る限り、1200円のハイエースネオの後はお値段的にはここまで飛ぶものと思われる。プロフィットというSAILORのシリーズもので、一番低価格のものがこの「プロフィットJr.」だ。
2000円台ではあるが、ほぼ3000円になっている上に私自身はプロフィットシリーズに触れていないので何ともコメントはしにくいところである。
が、デザイン的にはシンプルでありつつ可愛らしい色味で選ぶ楽しさもファッションとして持つ楽しみもあると言える。「それっぽい」万年筆をSAILORから選びたい場合はこういう選択肢もある。
5000~6000円出せるという場合は以下の通りだ。
SAILOR:四季織 月夜の水面 6600円
PLATINUM:プロシオン 6600円
この価格帯でPilotのモデルを紹介するならこちらだろうか。
メーカーが紹介している通り細身で女性の手にフィットするイメージの、ジュエリー感マシマシなモデルだ。お値段は5500円。また明らかに見栄えの違う万年筆なので、これに一目ぼれする人もいるのではないだろうか。ぶっちゃけ、最初の万年筆なんて「惚れた」でいいと思っている。
ちなみに、コクーンのときに少し紹介したが万年筆のモデルと同じモデル名で……シリーズ、という感じなのだろうか。同じ見た目のボールペンやシャーペンがある場合が結構ある。このカヴァリエもボールペンがあるし、四季織もそうだ。万年筆よりも安価なことがあるので、姿に惚れた場合はボールペンやシャーペンで探してみることも一度試してみて欲しい。
『万年筆らしい』見た目
形から入るというのもいい。比較的安価なものから紹介しているのもあって、全体的に親しみやすいポップなデザインのものが多くなっている。万年筆って堅苦しくてなんかこわいイメージがあったな、という人達にとっては可愛いデザインいっぱいある!と思ってもらえるラインナップになっているのではないだろうか。
一方で、万年筆らしい重厚な雰囲気がいいんじゃないか……やっぱりそういうのは高いものになってしまうんだろうか、と思っている人もいるかもしれない。
お気に入りの万年筆を色々と紹介します!といって10本近く出してきた万年筆の全てが黒に金のいわゆる「仏壇色」だった時には、知識のない私は「ええ!?どれが何?!」と思ってしまった。それくらい、黒に金のカラーリングが好きな方もいらっしゃる。
実際、素材の都合もあるのだろうが、そのカラーだと高額なものが多くなる。私が探した限りでは、一番手を出しやすそうなのはSAILORのプロフィットカジュアルのゴールドトリムというモデルだった。
どうしても、この雰囲気がいいんだ!という思いがあって1万以上のものは買えないという場合は、こちらで決定だろう。
ブランド
贔屓のメーカーがある、という場合もあるかもしれない。私も2本目を買う時には「PLATINUMから選ぼう」というのを決めていたのである程度選びやすくなった。
それとは別に、ブランドの一覧を見ていた時に「ペリカン」という名称が見えて鳥好きの私は一気に興味を持っていかれた。
ロゴはペリカンの親子でクリップのところがペリカンのくちばしの形になっているのだ。めちゃくちゃ可愛い。どんなメーカーなのかは知らないけどちょっと欲しい、とか思った。
後からちゃんと調べてみたら、海外のPilotみたいな有名メーカーだったことが分かった。ちょっと極端なことを言う愛好家であれば「万年筆好きならペリカンのスーベレーンくらいは一本や二本、全員持ってるでしょw」とか言っちゃうような、それくらいの有名どころだったのだ。
最初からどこの万年筆を買うかを決めていることはあまりないかもしれないが、私のように色々見ているうちに特定のブランドのことが気になり始めるということはありそうな気がするので少し触れておこうと思う。
9.まずはぜひ日本製のものを
自分は中国製のものから入っておいて何を言ってるんだと言われてしまうかもしれないが、そういう選択をしたからこそお伝えしておきたい。
私が最初の万年筆に日本製のものをおすすめするのには2つ理由がある。
実は身近なところにある海外製の万年筆
ぶっちゃけ、文具店に行けば気軽に手に取れる場所に置かれている海外メーカーの万年筆は結構ある。
今やラミーの万年筆はどんな文具店に行っても必ず置いてあるといっても過言ではない。毎年限定色を出すことで有名で、特に最近は複数の限定カラーを出して来るらしく、コレクターは嬉しい悲鳴を上げているとかなんとか。私もこのメーカーについては、あまりにも大人気なのが気になってネットで買える値下がりしているものを1本購入したくらいには気になる存在だ。ちなみに限定品かどうかによって値段は左右されるが私が購入したものは3000円だった。
ペリカンのエントリーモデルは意外とカクノなどが置いてあるとなりに一緒に並んでいたりする。ジュニア、とついていることからも分かる通り子供向けで指の置き場所が分かりやすくなっていたり、ポップなカラーリングになっていたりと他のモデルとはかなり雰囲気が違う。お値段は1400円だ。
雑誌に掲載されたことから、実は本屋の一角に並んでいることがあるのがシュナイダーの万年筆。こちらもうっかり手を出してしまう2000円というお値段だ。
どの海外メーカーのモデルも、名のある有名なメーカーのもので確かな人気のあるものだから、安価だからといって大きく失敗することはないだろう。デザイン的に気になったりで欲しいと思ったら将来的には手にしてみるのもいいと思う。金額的にも手に入れやすい品物たちだから気軽に触れてみることができるだろう。
だからこそ目移りしてしまう。海外製の万年筆を持っているとなんかカッコイイ気がして憧れる気持ちも生まれる。外車に憧れるような感じだろうか。中には先ほど紹介した大人気のラミーのサファリを初心者にオススメ!と言っている動画なんかも見たことがある。でも、私としては、いやその意見はちょっと待ってくれ!という感じなのだ。
日本製の万年筆をおすすめする理由 その1
個人的には!見た目がめちゃくちゃそっちのが好み!ということでなければ3000円も出せるならPilotのコクーン買った方がいいと思うなぁ……2500円だよ?という印象。
理由は、実際にサファリを使ってみた結果「おぉ……普通。」と思ったからだ。普通なので全然いいのだが、どれでもいいというモチベーションで海外製、しかも普通……での3000円は高いのかなぁと思った。
これは当たり前のことなのだが、日本製のものは日本で作って日本で売っているので、海外のものに比べて安くて良いものが手に入る。
何事もファーストコンタクトはその後に大きく影響を与えるので、最初は出せる金額内のもので、できるだけ良質なものに触れてもらいたいという思いがある。
ということで、私が日本製の万年筆をおすすめする理由の1つ目は「値段の割に良いものが手に入るから」
日本製の万年筆をおすすめする理由 その2
では2つ目の話しをしよう。
日本製の万年筆は日本語を書くのに適しているからだ。
いやいや、ペンの形をしていてインクが出るなら一緒でしょ。と思われるかもしれないが、アルファベットを一通りかければOKの海外製と、ぎゅっと詰まった形をしている漢字を書くことを意識して作られている日本製とではペン先が明確に違うのだ。
万年筆のペン先の太さは「中字」「細字」「極細字」などで表記される。もっと色々あるが基本的に最初はこれを覚えておけばいいだろう。ちなみに英字の表記だと「M(中字)」「F(細字)」「EF(極細字)」となる。併せて覚えておくと良い。
で、ここからが重要だ。
中字だ細字だと書いてはあるが、じゃぁこれが果たして何ミリの字幅なのかというと、そこはまちまちだ。何なら個体差もある。メーカーごとにも違う。
すごく雑な言い方をしてしまうと「私たちはこれを細いと思って作ってます!」という感じなのだ。「これよりちょっと太めのやつは中です!」ということになる。
これが海外製になった場合どうなるかはもう想像がつくのではないだろうか。小を注文したはずが、えらい特盛が来て、いやどこが小!?となるあの現象が万年筆でも発生するのだ。
アルファベットを書くなら、よっぽど小さく書きたいという事情がない限りある程度の太さがあった方が書きやすいのだろう。しっかりと太い字を書きたいから構わないという場合はいいのだが、基本的にはちょっと(?)字幅が太いのだ。
一般的に海外の万年筆の字幅の表記は、一段階太いものとして読み替えた方がいいと言われている。でも海外のEFを使ってみた結果「日本の細字より太いけどな……」と思ったので、まぁそのくらい違うということなのだ。
で、だ。
ここまで聞いたあなたはどうだろうか。この話を聞いてもあまりピンと来ていないのではないだろうか。
私はこの話を、万年筆について調べている時に聞いて、理屈的には理解できたので「ふぅん、そういうことがあるのかぁ」と思った。
そう、思ったには思ったのだが、如何せん日本製の万年筆の中だが細だかも感覚として備わっていないのでそう言われても「じゃぁ読み替えて、まぁ思ったより太いんだろうなーと思っておけばいいんじゃないの?」くらいにしか考えなかった。
よく分かってない基準の上に想像を上乗せしているものだからふわっふわして仕方がない。この状態だと買った万年筆を想定しているシーンで使いにくいかもしれない。実際に使って日本の基準が分かってから、改めて触ってみた方が「うわっ、こういうことか」と自分事としてしっくり来る。
この話をしているのは、初めて買うものに対して少しでも不安要素を減らしておきたいという理由からだ。絶対に海外のはやめておけという話ではない。
結局のところは自分の心にはまったものを買うのがいい。初めての恋人が外国人で海外に移り住むことにしたって言われたら、そりゃ第三者としては「いやちょっとまてーぃ!」ってなる。とはいえじゃぁ日本人なら誰でいいというわけではない。それくらいのものだ。理屈じゃないことだってある。
まぁ、広々としたところに大きく字を書くつもりなのであれば字幅なんて太くてもどうとでもなるのだから用途によっては全然気にしなくていい。
10.どう使う予定か
では改めて用途についてだ。
今の段階で、どこにどんな感じで使うか決めているだろうか。これは結構大事な要素だ。それによって、適切な字幅が変わってくるのである。念のために、ここで話題に出す字幅は日本基準のものとすることを明言しておく。
手帳や日記など、決められた枠の中に小さく書きたい
もしも文字自体を小さく書きたい、細かい書き込みを行いたいという場合は細いものを使った方が書きやすい。
しかし極細字はペン先を精密に調整しなければならないからか、ちょっとお高いものからしか用意されていない。最も価格的に手を出しやすい極細はSAILORの「プロフィット カジュアル」ではないだろうか。6600円でゴールドトリムは黒と赤の軸が用意されている。シルバートリムは黒のみ。デザインの幅はないが、手に入れやすい極細字が欲しい場合は検討してみると良い。
ただ、細字でもペン先を立て気味にしてそっと筆記すれば十分細く書けるのでだいたい細字を買っておけば万能に使える。一度細字で試してみて、もっと細くしてみるか太くしてみたいかというのがあるか検討してみるのがおすすめだ。
綺麗なインクを楽しみたい
魅力的なインクがたくさん並んでいるのもあって、そういうものを使ってみたいという思いがある場合は、太めのものがおすすめだ。
特に、薄めの色を使う時に細いペン先だと文字がすごく見にくくなったりするのでどんな色でも快適に使うためには中字を使った方がいい。狭いところには少々書きにくくなってしまうが、乗せたインクの濃淡がはっきり出るので眺めているのが楽しい見映えになる。
また、色々遊んでみたいという気持ちがあるのであれば、安価で面白い商品があるので紹介しておこう。
突然ネーミングセンスがお亡くなりになっているが、要するに1本で筆文字のように細く書いたり太く書いたり変化をつけることができる特殊なペン先になっている。
実はSAILORというメーカーはペン先に色々と細工を施すのが得意だ。変わったものが他にもあるので、めずらしいものが好きな人にもおすすめだ。「ふでDEまんねん」は1650円なので特殊なものの中でも気軽に手にしてもらうことができる。万年筆で絵を描いたりする人もいるので、そういう人にもいいかもしれない。
限定販売品らしいので、後にまで残る記事で紹介するのは少し気が引けるのだが、案外限定と言いつつずっとあったりすることもあるので紹介しておこうと思う。
こちら、筆文字仕様になっているプロフィットジュニアで、軸色とおそろいのインクがセットになっている商品だ。もしも「筆文字」というワードにピンとくるものがあるならチェックしてみてほしい。
ささっと走り書きしたい
素早く筆記したいのであれば、気持ちよく書けるのは太めでインクの出が良いものだ。
今のところ、細い字幅のものを使っているからといって素早く走り書きして掠れたことはないのだが、体感的にばばーっと書いてなんか気持ちいい!という感覚になるのは太めのものだ。速く書く時に多少圧がかかったり紙面に当たってる感じがあっても細くて繊細なペン先と違いある程度の安心感をもって筆記することができるだろう。
中字、またはMとなっている万年筆は多いし、この用途で使うのであれば先の発言を覆すようだが海外製のものを使っても問題ないと思う。
11.推し色を使いたい
2500円くらいで、見た目のカスタマイズが可能な万年筆がある、といったらどうだろうか。
私が最初に購入した「FONTE」の上位互換「FONTE biiro」が登場している。画像に記載されている通りなのだが、本体の軸色が画像にある7色とおそろいのパーツ、具体的にはてっぺんとお尻のキャップのところの色を選べる。この小さいパーツの色は10色で本体とお揃いの7色とオレンジ、イエロー、パープルを追加した10色から選べるようになっている。
好きなパーツを選んで万年筆を作る、ということができるモデルはそうそうない。このカラーリングで刺さる色の組み合わせがあればこちらも是非検討してもらいたい。
私はFONTE自体がお気に入りだったこともあり早速購入して実際に使っているのだが、初代で問題を起こしていたインクを入れても今度は全く問題なく筆記することができている。つまり間違いなく性能もグレードアップしているというわけだ。
字幅はEFとのことだが、こちらは日本製ではないので一段階太いと換算していただきたい。実際、私の相棒であるプロシオン(F)と全く同じ字幅で区別がつかない程だった。
ちなみにコンバーター付属だがインクはついていないので、推し色に合わせてボトルインクも購入されるのがいいだろう。
購入先についてだが、この記事を執筆している現段階(2024/05/08)ではインターネット上にはほとんど出回っていない。確実なのは文具女子博に出向いて購入することだ。毎回参加されておりそこで販売されることは間違いない。
また、販売元が出版関連なのでまずは書店に並んでいるらしい。探してみる場合はkomamono labのサイトにSHOPLISTが掲載されているので、そこから「FONTE」のタグが付けられている店舗を探すのがいいだろう。
私はTAMURABOOKの通販サイトで購入させて頂いた。よければ参考にしてほしい。
12.感謝
さて、私としては日本の万年筆と価格に焦点を絞って初心者向けの万年筆を紹介したつもりではあるが、気になる子は見つかっただろうか。
万年筆の良さを語れる相手なんて身近にはいないので、もしもあなたが万年筆の世界の人であったり、これから入ろうとする人であるなら、ここで縁があったことをとても嬉しく思う。
また、そんな世界とはこれからも縁がないにも関わらず私の記事をここまで読んでくれたというのであれば感謝しかない。少しでも何か面白いと思ってもらえたのなら書いてよかった。
最後の1行までしっかりと読んでくれた全ての読者に心からありがとう!
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