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都市と星 アーサー・C・クラーク ハヤカワ文庫 SF【読書感想文】

遙か未来、銀河帝国の崩壊によって地球に帰還することを余儀なくされた人類は、誕生・死さえも完全管理する驚異の都市ダイアスパーを建造、安住の地と定めた。住民は都市の外に出ることを極度に恐れていたが、ただひとりアルヴィンだけは、未知の世界への憧れを抱きつづけていた。そして、ついに彼が都市の外へ、真実を求める扉を開いたとき、世界は……。20世紀SF界の巨匠が遺した、『幼年期の終り』と並ぶ思弁系SFの傑作。

クラークの三法則

1)高名で年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。
2)可能性の限界を測る唯一の方法は、その限界を少しだけ超越するまで挑戦することである。
3)十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。

 かつてSF界の大御所❝ビッグ・スリー❞と呼ばれた、ロバート・A・ハインライン、アイザック・アシモフの本は結構沢山読みましたが、その1人クラークの作品は地味に見えて精々2~3冊しか読んでいません。クラークの有名な作品である本書は60歳を間近に控えて初めて手に取りました。もちろんいつものブックオフ、110円コーナーの掘り出し物です。

 前置きが長くなりましたが、「都市と星」は前述のクラークの言葉❝十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。❞を表現した作品だと思います。小説としては古さを感じさせますが、とても戦前から戦後にかけて書かれた内容とは思えないSF設定が多く、当時の人にとっては正しく魔法のような未来。でも今なら空想可能な未来の技術。
 現在でもSFが苦手な人にはファンタジーの魔法みたいに思われそうですが、SF好きな人が読めば納得の未来像です。
 まず仮想現実の遊びが登場します。ネットどころかパソコンすら無かった時代に『マトリックス』や『攻殻機動隊』のようなバーチャルリアリティを描いています。出版は1950年代ですから、これは驚くべきことです。
 数億?数十億年?先の未来の話なので、ほとんど何でもアリの世界ですが、人間や家・家具、都市の全てがコンピューターによって記憶され、簡単に実体化したり、記憶バンクに保存できます。まるで今のデジタルデータが物として再生可能であるかのような未来。
 さらには実体のない精神だけの生命体の創造。まるで神の領域ですが、その失敗によって失われた未来、新たな希望を見出す人類の未来が描かれます。ストーリーとしては陳腐に感じますが、クラークは100年近く前の20代の頃にこれを空想し、40代で書き上げた。
 最近はこういう天才が目立たなくなりましたが、今の暗い時世に明るい未来像を見せてくれる人が現れて欲しいなと願います。

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<(ↀωↀ)> May the Force be with you.