見出し画像

ヨコからヨコにつながるヨコヨコインターン③報告会

 5日間に渡り、運営法人の垣根を超えていろいろな人と出会い、現場を知るヨコヨコインターンの最終日は、学生さんによる報告会でした。
 
 報告会のテーマは、“友だちから「インターンに行ったんだよね?どうだった?」と聞かれて説明する”に設定させてもらいました。
 
 このテーマにした理由は、少しでも学生さんの本音を聞きたかったから。
「きちんと報告しなければならない」と思うと、とたんに言語化がむつかしくなり、自分の思いとかけ離れたものになってしまうのではないかと考え、「友達に話すつもりで」というテーマ設定にさせてもらったわけです。

今村さん
「異なる生き方をしている人と関わることで、
自分の中になかった価値観や考え方を知る。
自分の人生のアップデートをできる。」
「今回のインターンを通して、教科書のことばを越えた経験ができた。」

  今村さんは、就労支援事業所の職員から聞いた「新しい“もの”をつくるのが福祉」という言葉が印象に残ったと話してくれました。

その言葉を聞いて、私は、糸賀一雄先生の言葉を思い出しました。

 この子らはどんなに重い障害をもっていても,だれととりかえることもできない個性的な自己実現をしているものなのである。人間とうまれて,その人なりの人間となっていくのである。その自己実現こそが創造であり,生産である。私たちのねがいは,重症な障害をもったこの子たちも,立派な生産者であるということを,認めあえる社会をつくろうということである。
『この子らに世の光を』あててやろうというあわれみの政策を求めているのではなく,この子らが自ら輝く素材そのものであるから,いよいよみがきをかけて輝かそうというのである。『この子らを世の光に』である。この子らが,生まれながらにしてもっている人格発達の権利を徹底的に保障せねばならぬということなのである。

出典:1968糸賀一雄「福祉の思想」NHK出版

  このあまりにも有名な糸賀先生の言葉は、「その自己実現こそが創造であり、生産である。」という”新しい価値”を認めあえる社会をつくろうということです。 「あたらしい“もの”をつくるのが福祉」「あたらしい“価値”をつくるのが福祉」 そのことが、ヨコヨコインターンを通して、学生さんに伝わっていて、とても嬉しく思いました。

小橋さん
「生活介護施設に見学に行ったときに、職員の方が
利用者の方の行動を否定と捉えるのではなく
個性として捉えていることが印象的だった。
色んな人と関わりを持って助けてもらうということは大切なことだと思う。」

 障害のある人は、怖いと思い込んでいたという小橋さん。インターンへの参加でそのイメージはすっかり変わったそうです。放課後デイサービスで出会ったけん玉がとても上手な女の子。言葉でのコミュニケーションは得意ではない女の子は、一生懸命、動作を使ってけん玉を教えてくれたそうです。
その経験を目をキラキラさせながら言ってくれました。 

 福祉を勉強する人の中でも、なかなか障害福祉は実習先や就職先に選ばれない現実があります。

 「障害のある人は怖いと思い込んでいた」けど、インターンに飛び込んできてくれた小橋さん。小橋さんのように飛び込んできてくれる人は珍しいです。私たち職員は、「障害福祉の世界に来てくれる人が少ない」と嘆くだけではなく、この世界の楽しさ、面白さ、充実感をもっともっと発信していく必要があるのではないでしょうか? 

 そのことを考えるとき、ひとつ思い当たることがあります。「本人が主人公」ということは基本なのですが、その考え方が、働く私たちが「私たちは黒子ですので…」と、「楽しく働いている私たち」を表現してはいけないような感覚にさせている部分があるのではないでしょうか。 今回、初日にソーシャルワーカーのみなさんに10分~15分の「ちょっと長めの自己紹介」をしていただきました。それは、「この仕事が大好きで、楽しく働いている大人がいるよ!」と言うことを伝えたかったからです。「私たちがここにいる理由」をもっともっと発信していきたいと、小橋さんの話を聞いて思いました。

宇野さん
「就労継続B型支援の見学時に、
利用者の方のタイプに合った仕事を割り振ったり、作業しやすいように
職員の方が方法を工夫したりする様子を見て、
「創作」という行為に近いなあと思った。」

  医療ケアのある娘さんの話をしてくださった織田徳子さんのお話。娘のひなさんが生きてきた道のり、お母さんの悩みや喜び、炎天下の夏の暑さにも負けず大好きな「推し」のFESに出かけていくひなさん、大きな手術をするかどうかお母さんは悩んでいたけど、ひなさんは「手術を受ける」と揺るがなかった、というお話を聞いた宇野さんは、「ひなさんは生きる力に満たされている。私も感化された。」と話されていました。

  障害がある人は、障害のない人に比べて「弱者」だと位置づけられることが多いです。それは、例えば「災害弱者」などのように「弱者」と位置付けることでより手厚い支援をしなければならないという根拠になります。でも、その「弱者」という位置づけが「弱者の位置」に障害のある人をくぎ付けにしてしまうような面もあります。 

 宇野さんが感じた「ひなさんは生きる力に満たされている」。そのことが、ひなさんより体がたくさん動く、手も足も動く宇野さんに生きる力を与えることがあります。障害福祉の現場で働く私たちは「私たちの方が障害のある人からいろいろもらっているんだ」というような趣旨のことをよく口にします。でも、これが言葉や文章で表すと、なんだかとっても陳腐な感じになるのです。これはなかなか言葉では伝えられない。やっぱり現場に来てほしい。「私も感化された」という宇野さんの言葉は、ヨコヨコインターンを企画してもらってよかったとしみじみ思う瞬間でした。 

田窪さん
「インターンを経験して、福祉の仕事は日々成長できる職種、
人間味がある仕事だなあと思った。
相談支援の話では、人の話を聞く姿勢の大切さや
合意形成の重要性について学んだ。
たくさんの人と出会い、自分の成長に繋げていきたい。」

 普段も放課後デイサービスでアルバイトをしている田窪さん。今回のインターンで、「同じ放課後デイサービスでも全然雰囲気が違う!いろいろあるんだ!」と感じたそうです。

 インターンの途中で学生さんとも話したのですが、「私が実習に行った生活介護施設は、寝たきりの人が多くて、介護中心でした。同じ生活介護でも全然違うんですね」と言われていて、私たちは、そのことも上手に伝えきれていないなと感じました。

 障害者施設は「生活介護」とか「就労継続B型」とか種類は同じでも中身がぜんぜんちがう。設立している法人の理念もさまざま。実践もさまざま。なぜなら、通う人ひとりひとりに合わせて実践を作り出していくからです。だから、いろんなところを見に行って、自分に合うところを探してほしいなと思います。

喜田さん
「車いすの子と同じ学校で、その子の入学を機に学校にエレベーターがついた。
その子だけでなく周りも生きやすくなった。」という話を聞いた。
「インターンを通して思ったのは、ただ生きていくだけの支援ではなく
+αの支援が大切ということ!」

 「支援者同士もヒトとヒト」と報告資料に書いてくれた喜田さん。お母さんも障害福祉の仕事をしているという喜田さんは、支援者同士のコミュニケーションについて考えたことを報告してくれました。 

「うまくいったこと」「ダメだったこと」を職員同士が共有し、より良い支援につなげていくことは大切なことです。しかし、それがうまくいかないこともあります。他機関との連携はなおのこと。多職種連携なんて、教科書には5文字で書いてあるけれどそれがどれほど難しいことか。ふだん一緒に働いているわけでもない人同士が、「はじめまして、こんにちは」と名刺交換をして、いきなり会議で自由闊達な議論や、同じ方向を向いて支援するための合意などできるわけもありません。
 その難しさと、どうやって実践現場でそこを越えていこうとしているのかを学んでくれました。 また、喜田さんは印象に残った言葉として、相談支援について話した「聴く耳を持った人の前でしか言葉は紡がれない」という文章を上げてくださいました。大学のゼミの先生からは「聴くが効く」という言葉を学んだそうです。たぶん、そのゼミの先生は、もとは大津市で私たちと一緒に社会福祉実践に取り組んでいた方だろうと思います。(Y氏と思われる)

 そうやって、地域の中で、本気の多職種連携に取り組んだ者同士は、別の場所に行っても、時が過ぎても、同じことを言っていたりするのです。私たちは「顔の見える関係」ではなく、「腹の見える関係」を作って実践をします。そのことは、働く私たちにとって、決して孤独ではない、私には一緒に実践をしている仲間がいるという心強さにつながります。

正さん
「インターン初日に実施された、ソーシャルワーカーたちの話を聞いて
今を大切にする、人とのつながりは糧になる、ということを学んだ。
また同世代の障害を持つ織田さんの話では、
同世代のだからこそできる支援があるんじゃないかなと思った。」

  正さんは、大学の実習では障害福祉の分野に行っておらず、障害分野に携わる方や実習した友人の話を聞く中で興味をもち、ヨコヨコインターンに応募してくださいました。
 そもそも、申し込みがあったタイミングが、「3回生ということは、まだ実習中じゃないのだろうか?」と不思議に思っていたので、実習中にさらに学びたいと思ったということに素直に「すごい!」と思いました。
 そして、私たち実践現場にいるものも「実習という体験が、本人のみならず障害福祉現場の実習に行けなかった人の心まで動かす」という事を肝に銘じてより良い実習になるよう心掛けねば、と思いました。

 インターンの考察をしっかりしていた正さん。個別の相談(ミクロ)と社会づくり(マクロ)のつながりを理解し、図解して報告してくださいました。教科書では「ミクロ・メゾ・マクロ」という言葉をたくさん聞くと思いますが、実際の生活の場では、この食事介助(ミクロ)が、どう社会づくり(マクロ)と繋がっているのかということは捕まえにくいものがあります。そこをインターンでの体験とつなげて理解してくれたことがうれしかったです。

 atelier ikkai-sankaiを「利用者の魅力が詰まった場」と表現してくれた正さん。障害者施設は、どこであっても、障害のある人たちの魅力が詰まった場であってほしいと思います。
 芸術活動が魅力を表す場合もありますが、お仕事に取り組む姿勢が魅力である場もあるし、ちょっと日頃の喧騒から逃げ出してだらだらしていることが魅力であることもあると思います。私たちは「魅力が詰まった場」を作れているだろうか。そんなことを考えました。

最後に学生さんと記念撮影、みなさんお疲れ様でした!

ヨコヨコインターンは、さらにブラッシュアップして、2024年度も続けていきたいと思います。
興味のある学生さん、受け入れたい大津市内の障害福祉事業所のみなさんは、ぜひ一度、大津市障害者自立支援協議会にお問い合わせください。


<インターン学生受け入れにご協力いただいた施設>
(福)美輪湖の家大津  瑞穂
Y&C株式会社 ゆにこ
(福)湘南学園 れもん会社
(一社) 慶和会  あすなろMAX
(株)創美 ぽっとらっく
(株)グッドライフ 放課後等デイサービスぐっどらいふ
(NPO)Brah=art. atelier ikkai-sankai

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?