郁達夫 『楊梅酒』 (1)
楊梅酒
病床に伏すこと半年、この足は病室から一歩も出ておらず、近ごろは起きるなり、自ずとどこかへ出かけたくなる。今時の言い方では、“空気を入れ替えてくる”だが、古い言い回しでは、“邪気祓いに出かけてくる”である。つまり、長いこと横になっていると嫌でも活動したくなるのが人情の常であり、ましてやこの気候、灼熱の土用の気候とくれば、これはもう広びろと開けた場所に避難せざるを得ない。まず思い浮かぶのは、日本の温泉地、北戴河、威海衛、青島、牯嶺などの避暑地である。しかし、服もぼろぼろで、お粥さえままならぬこの半年あまりの経済状況では、ある種のプロレタリアの豪奢に倣うかのごとき行為は自分にできない。いろいろ考えた末、やはり杭州に行くのがよかろうと思った。杭州なら旅費をいくらか節約できるだけでなく、そこには旧友が住んでいるから、彼に会いに行って、仄暗い街角の酒場で、七、八年ぶりの思い出話に花を咲かせるのもいい。
このように決めた翌日の午後、私はもう湖上の小さな店で久方ぶりの旧友と向き合い、今が旬の楊梅酒を飲んでいた。
屋外は赤道直下かと疑うほどの夏本番の日差しで、湖面は生温かい泥水とこれら泥水の蒸発した生臭い蒸気の層に包まれていた。大通りは車夫も少なく、行き交う人はさらに少ない。埃を被ったいくつものテーブル席の真ん中に座ったところ、店にいるのは注文の前にまず値段をきくような我われ二人客のみであった。
〈原文〉
杨梅烧酒
病了半年,足迹不曾出病房一步,新近起床,自然想上什么地方去走走。照新的说法,是去转换转换空气;照旧的说来,也好去祓除祓除邪孽的不祥;总之久蛰思动,大约也是人之常情,更何况这气候,这一个火热的土王用事的气候,实在逼人不得不向海天空阔的地方去躲避一回。所以我首先想到的,是日本的温泉地带、北戴河、威海卫、青岛、牯岭等避暑的处所。但是衣衫褴褛、粥不全的近半年来的经济状况,又不许我有这一种模仿普罗大家的阔绰的行为。寻思的结果,终觉得还是到杭州去好些;究竟是到杭州去的路费来得省一点,此外我并且还有一位旧友在那里住着,此去也好去看他一看,在灯昏酒满的街头,也可以去和他叙一叙七八年不见的旧离情。
像这样决心以后的第二天午后,我已经在湖上的一家小饭馆里和这位多年不见的老朋友在吃应时的杨梅烧酒了。
屋外头是同在赤道直下的地点似的伏里的阳光,湖面上满泛着微温的泥水和从这些泥水里蒸发出来的略带腥臭的汽层儿。大道上车夫也很少,来往的行人更是不多。饭馆的灰尘积得很厚的许多桌子中间,也只坐有我们这两位点菜要先问一问价钱的顾客。
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