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廃名 『菱蕩』 (翻訳後記)

廃名の写真を見たとき、大川周明に似ていると思った。

求道的な眼をしており、そこはかとない「ヤバみ」が感じられる。

この「ヤバみ」は、「ゼンみ(禅味)」から来るらしい。

廃名(名を廃する)というペンネームからしてそうである。

本名は馮文炳という。

彼は小説だけでなく、詩も書いた。

この『菱蕩』という作品も、これといったストーリーはなく、長い詩のようなもの、といってもいいのかもしれない。

この作品の主人公は後半にひょっこり現れる「陳聾子」なのかもしれないが、全体の多くを占めているのは「菱蕩」の描写であり、「陳聾子」もその風景のひとつと考えると、むしろ「菱蕩」そのものが主人公だといえそうだ。


とにかく、翻訳には苦労した。

短い作品にもかかわらず、意味の取りづらい部分が多く、一度となく挫折した。

しかし、それでもとりあえず訳し切ってみようと思い、どうにもならない箇所は無理くりに「えい!」と辻褄をあわせてしまった。

よって、誤訳は数カ所では収まらないかと……。

「菱蕩」「菱蕩圩」というのがどういったものかさえ、実はよくわかっていない。

廃名の翻訳は、二玄社という出版社から出ている『中国現代文学珠玉選 -小説1』に『桃園』という短篇が一つ載っているだけで、あとは確認できなかった。


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