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『サラダ記念日』 俵万智

話の流れで、日本には短歌という定型詩があって、例えばこんなものがありますよ、と『サラダ記念日』の何首かを留学生に紹介することがあるが、あまりいいリアクションはない。

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

『サラダ記念日』俵万智(河出書房新社)

例えば、これは歌集のタイトルにも使われている代表的な一首だが、あまりピンときてくれない。

でも、千人に一人ぐらいは、「短歌、おもしろいかも」と思う学生もきっといるんじゃないか。そして、これぐらいの、あるいは、これより更にとっつきやすい歌が百、二百と並んでいたら、どうだろうか。日本語の勉強にも、短歌が一役買ってくれたりしないだろうか。

そんなことをふと思って、まずは『サラダ記念日』を読み直してみた。

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

これも有名な歌だが、こっちのほうが入門にはぴったりかもしれない。

いつもより一分早く駅に着く 一分君のこと考える

会うまでの時間たっぷり浴びたくて各駅停車で新宿に行く

金曜の六時に君と会うために始まっている月曜の朝

これらの恋愛の歌も想像しやすいだろう。

どうしても歩幅の合わぬ石段をのぼり続けている夢の中

「会わぬ」はちょっと難しいけど、若い人には共感できる内容だと思う。

一人住む部屋のポストを探るときもう東京の顔をしている

これなどは東京に来た留学生の歌みたいだ。


ため息をどうするわけでもないけれど少し厚めにハム切ってみる

タクシーの河の流れの午前二時眠り続ける横断歩道

この辺もいいんじゃないだろうか。

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