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境界紛争解決のヒント

測量と不動産法務の何でも屋こと横山太郎です。
今日は認定土地家屋調査士・認定司法書士の立場から境界トラブルが起きた際の対処法について考えます。
境界トラブルはお隣さんとの揉め事ですから、日常生活にも支障を来しますので、可能な限り避けたいものです。


境界トラブルの種類

境界トラブルとひとことで言ってもパターンがありますが、ここでは

  1. 境界の位置について争いがあるとき

  2. 境界線の位置自体には争いがないが、建物や塀が越境している、落雪の影響など権利関係の問題が発生しているとき

  3. 1.2の両方

が考えられます。

1.境界の位置について争いがあるとき


「境界」について整理しましょう

ちょっと難しい話ですが、一口に「境界」といってもには大きく2種類の境界が存在します。筆界と所有権界です。

筆界(公法上の境界)ふでかい

大雑把に言うと不動産登記法14条の地図(公図)が示す境界です。A市B町X丁目1番1と、同1番2を区切る線です。


不動産登記法14条1項地図(公図)登記情報提供サービスで取得

筆界は国が設定する境界ですので、正式な手続き(分筆登記や区画整理事業)をしなければ変わりません。

筆界の成り立ちは地域によって異なりますが、地租改正や北海道においては植民区画や土地連絡整理などによって原始筆界が形成され、その後分筆・合筆が繰り返されることで今の筆界線が形成されたというのが基本的な考え方です。

原始筆界には、①(略)地租改正時に形成された筆界のほか、②埋め立て等によって新たに生じた土地について形成された筆界、③土地整理法・土地改良法・土地区画整理法等に基づく土地区画整理事業・土地改良事業等による権利変換の確定後に形成された筆界なども、これに含まれる。

寶金敏明先生「境界の理論と実務」

「筆界」について争いがあるときのステップ

筆界の位置について争いがある場合は、次のステップで進めるのが一般的です。

  1. 土地家屋調査士に確定測量を依頼する

  2. 筆界特定制度を利用する

  3. 境界確定訴訟を提起する

土地家屋調査士に確定測量を依頼する

土地家屋調査士は不動産の表示に関する登記・測量の外、筆界を明らかにする専門家であり、確定測量はもちろん、分筆登記や筆界特定など筆界に関する様々な手続きを代理する国家資格者です。
境界測量自体は「測量士」でも可能ですが、その後に分筆等が必要になる場合は土地家屋調査士による再調査が必要となり、二重経費となるリスクがあります。このため、最初から土地家屋調査士に依頼した方が安心です。

筆界特定制度を利用する

確定測量の結果に納得いかない場合は、法務局の筆界特定制度を利用する方法があります。筆界特定制度においては、「筆界特定登記官」が筆界調査委員の意見を元に筆界を特定します。この筆界調査委員は通常土地家屋調査士が任命されます(ちなみに私も地元土地家屋調査士会の筆界調査委員です)既にその土地の確定測量に係わった土地家屋調査士は、同じ事件に関する筆界調査委員にはなりません。(同じ人がやったら同じ結果になるから当然と言えば当然ですが・・・)


境界確定訴訟を提起する

最後に、境界確定訴訟という方法があります。
裁判により境界を確定させます。
民事裁判ではありますが、一般的な民事裁判と違い公法上の境界を設定するため、裁判所は当事者の主張に拘束されず筆界を確定させます。

所有権界(私的な境界)

所有権が及ぶ範囲の境界を、所有権界という言い方をします。
通常所有権界と筆界は一致しますが、隣接者間で境界について個別に合意したり、一部を売買したり、一部を時効取得するなどの事情により権利が変わった場合、登記手続きをしなかった場合等には筆界と所有権界がずれることになります。

「所有権界」について争いがあるとき

争いの内容も色々あるので一概には言えませんが、
まずはいずれにしても筆界を明確化させないと始まらないです。その上で、話し合って解決するか、弁護士・司法書士などの専門家に相談しましょう。

2.境界線の位置自体には争いがないが、建物や塀が越境している、落雪の影響など権利関係の問題が発生しているとき

この場合は基本的に隣接者同士で話し合いをし、話し合いがまとまらない場合は弁護士や司法書士に相談しましょう。当事者同士で解決する場合の選択肢(例)を説明します。

1.越境部分が簡単に撤去可能であれば、収去する

簡易な塀や、束石に乗っただけの物置など、越境部分の撤去が比較的少ない負担でできるのであれば、収去してしまった方が早い場合もあります。

2.簡単には収去できない場合は、越境部分を分筆して売買する

上記とは異なり建物本体や堅牢な塀など、収去するのに多額な費用を要する場合には、収去することは現実的ではありません。また越境の影響が軽微であるときは例え所有者とはいえ、収去を求めること自体が権利の濫用として認められないケースもあります。
参考:宇奈月温泉事件 - Wikipedia

このような場合は越境部分+α(落雪影響や建築基準法等を考慮)を分筆して売買することのが一つの方法です。

3.覚書を交わす

将来修繕や改築する際に、越境物を撤去するという旨の覚書を交わすという方法もありますが、自分はこの方法はお勧めしません。
将来がいつになるかわからないし、その時に当事者既にお亡くなりになっているケースもあり、紛争を先延ばしにしているに過ぎないからです。

4.時効取得の主張

あまり穏便ではないですが、長期間占有している場合は時効取得を主張するという方法もあります。
占有や所有の意思が認められない場合もあり、相隣関係にも影響するため慎重に検討しましょう。

(時効取得)
第162条 
20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の占有した者は、その所有権を取得する。
10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

民法-Wikibooks

誰に相談したらいい?

1の筆界の位置が不明確である場合は土地家屋調査士に依頼しましょう。土地家屋調査士は筆界特定制度の代理人にもなることができます。
2については、弁護士に相談することが通常ですが、認定司法書士も訴額140万円以下(不動産に関する訴訟においては固定資産税評価額280万円以下)であれば認定司法書士でも司法書士法の範囲内で簡裁代理手続きが可能です。
このため、地価の高い都市部では弁護士が第一選択となりますが、土地の価値が低く、弁護士が近くにいないような地方では司法書士に相談するというのも選択肢ですね。

境界トラブルを未然に防ぐためには

きちんと確定測量をして境界標を設置することが何より重要です。
特に
・不動産を売買するとき
・住宅や物置・塀を建てるとき
には、将来トラブルを防ぐための保険だと思って事前に確定測量を行いましょう。確定測量は20万-30万とか(地域によってかなり差があり)しますので高く感じられるかもしれませんが、基本的に一回きちんとやれば将来的に残り、紛争を防いでくれます。

コンクリート境界杭





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