2021年7月3日に発生した熱海土石流のまとめ

 7月3日10時半ごろ静岡県熱海市伊豆山地区で発生した土石流について、地形・地質を専門とする筆者の個人的まとめです。はじめに、このたびの災害により被災された方に、心よりお見舞いを申し上げます。

①地形地質
・地質の特徴
 被害を受けた地点の地質は、「山麓斜面堆積物」に区分されます。これは土石流などで運搬された土砂が堆積することでできた、山地より斜面のゆるい谷あいの堆積物であることを示しています。
 崩壊の始まった地点は、「湯河原火山噴出物・城山溶岩類・安山岩―玄武岩質安山岩および火砕岩」に区分されています。20万年前ほどに火山から吹いてきた溶岩などの区分です。実際にはこの溶岩を覆って、表層部に箱根火山などから降ってきた火山灰等が堆積しているものと考えられます。
 一般的に、溶岩は水を通しずらい一方、降下火山灰等を中心とした土砂は水を含んで重くなると崩落などに繋がりやすい性質があると考えます(現地の溶岩、火山灰を見ていないので一般論です)。

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地理院地図 > 土地の成り立ち・土地利用 > 地質図-産総研地質調査総合センター > 5万分の1地質図幅 > 東京地域 > 熱海より地質図と凡例を抜粋


・地形の特徴
 被害を受けた地点は地形分類(自然地形)では山麓堆積地形、土地条件図(初期整備版)では、「土石流堆」と表記されています。

 地理院地図で見られる「地形分類(自然地形)」では各地形の特徴がわかりやすく表示されるので転記すると、
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土地の成り立ち 山地や崖、段丘崖の下方にあり、山地より斜面の緩やかな土地。がけ崩れや土石流などによって土地が堆積してできる。

この地形の自然災害リスク 大雨により土石流が発生するリスクがある。地盤は不安定で、地震による影崩れにも注意。
上記は一般的な自然災害リスクであり、個別の場所のリスクを示しているものではありません。
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 となり、崖崩れや土石流によって土地が堆積してできたこと、土石流のリスクがあることが明示されています。

 崩壊の始まった地点は、山地の斜面に相当しています。地形からみると、山地や斜面は土砂が崩れていく側にあり、下流側や崖の下でこのような土砂がたまる場所が山麓堆積地となります。もともと、山の崩壊や土石流によって土砂が運ばれて、溜まることでできた地形であるといえます。

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トップ > 土地の成り立ち・土地利用 > 土地条件図 > 初期整備版


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 トップ > 土地の成り立ち・土地利用 > 地形分類(ベクトルタイル
提供実験)> 自然地形

 「地理院地図」にある「断面図」の機能から谷の傾斜を簡易的に計算してみます。山地部における谷底を追っていくと、700mの区間で標高が305mから175mに下がっていく高低差130mから斜面の角度を計算すると、谷の傾斜は10.31度となります。
 土石流の崩壊が始まった発生域の傾斜はより急傾斜であったと考えますが、土石流が流れ下っていく流下域の傾斜は防災科研HPによるといっぱんに15~20度から10度前後とされています。今回の土石流の流れた谷では、やや傾斜が小さめですがこの数値に含まれています。

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地理院地図の断面図機能を用いて表示


②ハザードマップ
 静岡県の公開している土砂災害に関するハザードマップを見ると、土石流が流下し、家屋が被害を受けた地点は「土砂災害警戒区域(土石流)」に指定されています。いっぽうで、より警戒を要する土砂災害特別警戒区域(土石流)には指定されていません。

 崩壊した沢筋には民家がないことなどから、土砂災害警戒区域には指定されていません。一方で、「盛土」とされる地点よりすぐ北側にある住宅は、北側の谷筋の「土砂災害警戒区域(土石流)」に近接した地域にあることがわかります。

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静岡県GISにて土砂災害警戒区域・特別警戒区域マップを表示
※特別警戒区域・土石流、警戒区域・土石流(各・令和2年3月31日時点)を表示(概ねの土石流流下地点を赤線で追記)


 また、伊豆山地区の周囲には土砂災害警戒区域(土石流)のほか、土砂災害特別警戒区域(急傾斜地の崩壊)、土砂災害警戒区域(急傾斜地の崩壊)および、土砂災害警戒区域(地すべり)が多数存在しています。

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 ※特別警戒区域・土石流、警戒区域・土石流、特別警戒区域・急傾斜地の崩壊、警戒区域・急傾斜地の崩壊、警戒区域・地すべり(各・令和2年3月31日時点)を表示(概ねの土石流流下地点を赤線で追記)

③雨量等
 雨量については、日本気象協会の記事によると、土石流発生地点から10キロ離れた熱海市網代では、72時間の雨量が411.5ミリとして、昨年7月ひと月分の1.7倍の雨が3日間で振ったことをまとめています。
 網代のアメダスの1時間雨量では、1時間に30ミリ以上の「激しい雨」は観測されていませんでしたが、断続的に1時間に10ミリ以上の雨が降るなど継続して雨が降り続けたことがうかがえます。

 防災科学技術研究所が公開している「防災クロスビュー」の「大雨のまれさ情報(何年に一度の大雨?)」によると、7月3日12時からみた半減期72時間実効雨量の「稀さ」は、災害が発生した地点付近では「再現期間が100年以上」とされています。南側の網代はオレンジ色のメッシュで10~30年に1度クラスのようで、網代より強い雨が降っていたことも想定されます。

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防災科学技術研究所「防災クロスビュー」より


④土石流発生地点の情報
 土石流発生地点付近では、南側の尾根に当たる部分の造成(ソーラーパネルとの情報)のほか、土石流が発生したと考えられる崩壊がある地点に、人工的な盛土があるとの報道が複数あり、静岡新聞の報道によると静岡県の調査では長さ約200メートル、幅約60メートルの盛り土が分かったという。   

 実際にYahoo!地図の空中写真で見てみると、谷の最奥部付近に階段状の人工的な盛り土らしき部分がみてとれます。

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 Yahoo!地図(写真)に谷筋と崩れた地点を追記

静岡県のドローン空撮によると谷をまたぐようなアスファルト舗装の道路上流側が少し高くなっていて、わずかに残ったアスファルト路面の左右から崩壊が始まっていることがわかります。
 道路の上流側は土が道路面より高くなっており、崩壊の発生部分は周囲より白っぽい土砂が流れ下っていることがわかる。もともとの自然に堆積した地山が火山性の土砂が黒色なものと考えると、流れ方を見ると白っぽい土砂が粘性土主体の盛り土である可能性も考えられます。

 静岡県のドローン動画では、引き続き崩落が進んでいることもみられ、かつ地下水の抜けた後が複数見られ、地下水の水みちのようなものがあった可能性もある。地元の方の動画では地下水が多く排出されており、土砂中に降水による大量の水が原因で土砂が不安定となったことも想定されます。

 崩壊の発生地点が盛土とされる位置にあるようですが、
①盛り土より下流側の土が崩壊しはじめ、盛土も引きずられて崩壊したか、②盛り土の部分が崩壊しはじめ、周囲の自然地盤も巻き込んで土石流が発生したことなどが考えられるのではないでしょうか(7月5日朝までの情報により推測されるシナリオを示したものです)。

 今回の土石流では、複数の動画で土石流が流れ下っていく様子が撮影されています。黒色で大きな岩や木々を含まない、比較的粒の細かい土砂が流れ下っているように見て取れます。

 西日本の花こう岩分布域の土石流では、表層の「まさ土化」したもろい砂層と、風化しかけている花こう岩塊が木々とともに流下し、家屋に大きな被害を与えている様子とは異なりますが、速度の速い流れにより大きな被害を受けていることが動画で撮影されていました。

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2018年7月豪雨における広島市内の土石流被害

・国土地理院さんの公開資料
 その後、国土地理院さんが、崩壊地等分布図と、崩壊地等分布図及び土砂堆積範囲図を示している。崩壊地は一部道路を残存した二手に分かれ、道路背後の道路より高くなっている地点に始まっていることが明確です。

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国土地理院の地理院地図に令和3年7月1日からの大雨>崩壊地等分布図を表示

 同じく、国土地理院さんが示した、下流側の土砂堆積範囲図では、堆積した範囲は谷の出口から東海道線までの間は山麓堆積地形を流下していることがわかります。東海道線より海側では地すべり域とも一致し、海岸に達していることが見て取れます。

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 国土地理院の地理院地図に令和3年7月1日からの大雨>崩壊地等分布図及び
土地利用 > 地形分類(ベクトルタイル提供実験)> 自然地形を表示


なお、国土地理院さんは逢初川全域の傾斜図を示しており、直線上に一定の勾配(約11度)で海に到達している点が確認できます、とのことです。

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国土地理院による逢初川全域の傾斜断面図


追記を進めます。

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