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親は無意識に子供という存在と自分を重ねて、人生のやり直していると思う

子供を産んで気づいたことがある。それは、母親が何を思って子供を育てていたかってことだ。
私にはよく覚えている場面がある。私が小学生の頃、宿題をやらないと酷くイライラして怒っていたことだ。たしか習いごとのあとだった。

子育ても家事もパートもしてると夕方になったら疲れるんだよね、今ならわかる。夕飯の支度をするのも結構体力使うよねって。

だから、私が就職活動のとき聞いた「あなたの取り柄はコツコツがんばれることだよ。」って言葉も母親になった今なら素直に受け取れそうだ。ありがとうっていえると思う。

就職に失敗した記憶

コツコツ頑張るなんて誰でもできることじゃないか。当時の私は答えを聞いて酷く落ち込んだ。そんなのエントリーシートに書いて誰が採用しようと思うんだろう。

「私の取り柄ってなんだと思う?」そう母に聞いた。確か母が夕飯を作っていて、私が大学から帰ってきたときだった。
マフラーを外しながら聞いたから、たぶん冬かな。就職活動をしている私は自分がどんな人間なのか、何者になりたいのか、何の仕事をしたいのか全然わからなかった。

就職活動をした時期はいわゆる就職氷河期だった。どの企業でも求められていたのは、新卒でありながら即戦力になれる人、いわゆる「人間力の高い」人物だ。会社説明会へ行っても「人間力」のある新卒が欲しい!だったり、「コミュニケーション力」の高い人材を募集します!といわれていた。

企業はどこも「目をキラキラ輝かせてなんでも積極的に行動できるような勢いのある新卒」を求めていて、当時の私にはすごく高い壁に見えた。コツコツ地道にやる受け身で地味な人間なんてお呼びでないですよ。そんなふうに言われているようで。

だから、めいっぱい背伸びをして(普段はかない5センチのヒールをはいて)、駅のトイレで笑顔の練習をして、未来に希望を持ってやる気に満ち溢れた新人を装って企業と新卒採用試験に挑んだ。

でも私は嘘が下手だったから、無理やり自分を合わせて企業とお見合いしてもうまくいかなかった。SPIでも面接でもうちには合わないねって弾かれた。
(奇跡的に無理やり作った私を認められても、それは本当の私ではないなと思って息苦しさを感じたのだけど。)

自己分析をしてもコツコツ地道にやるのが得意ってこと以外、自分のことはよくわからかった。唯一わかったのは本心を偽りながら生活するのは苦しいんだなっていうことだけだ。

結局、就活の時期も終わる頃に進学イベントを企画する小さな会社に雇われた。

母に内定したと言うと喜んでくれたけど、私には母の期待外れだった気持ちが手に取るようにわかってしまった。「誰にでも自慢できるような会社じゃなくて、ごめん」口には出していわなかったけど、心の中で謝まった。


母親の本音という伏線を回収する

でも、あのとき謝らなくてよかったのかもしれない。
2人の子供を授かって、母親として生活していくなかで私は気がついた。

私は勝手に母の気持ちを慮っていたつもりだったけれど、それは勘違いだった。
自分自身が就活に失敗した気になって負い目を感じていただけ。母という存在を盾にとって納得いかない感情をぶつけていただけだった。22歳の子供だったんだ、私。

母は思った結果ならず気を落としている私を心配していただけだったんだろう。そういえば昔からすごく心配性な人だったよなと、オトナになった私は勘づいた。

母親には子供を守りたいと言う本能がある。
失敗した経験や怖い経験をもとに子供に教訓として「あれこれうるさい」注意をする。

幼少期の私は母の叱責を人格否定されていたように思っていたけれど、違ったようだ。母は辛い体験を私にさせたくなかっただけだったらしい。親心ってやつだ。

親の立場になってから親心を知るって、推理小説でいう伏線を回収してる状態かもしれない。

あの時の、あの事件、実はこういう背景がありました、みたいな。


お互いが母親という肩書を持った今、子供の頃の思い出話がしたい

昔から、自己肯定感が低かった私は、ネガティブな感情に囚われていて苦しかったし、ポッカリと穴が開いた孤独感に苛まれていた。

今思うと幼いころに感じた母親の圧力も、大学生時代のネガティブな感情も、母親としての経験もきっと昔の私が成長するために必要な要素だったのだろう。

母親という肩書を持ってから、好きなものへの感謝と日々の小さな幸せをありがたく感じられるようになった。

歳を重ねるごとに、ちょっとずつ心を成長させて、人と比べたら遅いかもしれないけれど、ポジティブに物事をとえられるようになったのはいい経験だ。

こうやってちょっとずつ大事なものを増やして、コツコツ毎日を積み重ねていけている今、母のいっていた私の取り柄が発揮されているらしい。

私は私なりにコツコツやってきたよ、おかあさんはこの30年間どうだった?とお酒を飲みながら語りあってみようか。

人生の先輩であり、大好きな人と会話はきっと楽しいに違いない。