【小説】母はしばらく帰りません 31
半信半疑、いいや九十パーセントは気のせいだろう、
と笑いながら買った妊娠検査薬だった。
しかし、間違いでも気のせいでもなく、
陽性を示す青い線はあざやかに浮き上がった。
あちゃー、まいったな、というのが最初の、
そして正直な感想だった。
計画は勿論、想像さえもしていなかった。子供なんて。
輝子は検査薬を両手で握り締めたまま、
洗面台の鏡をじっと見つめた。
今、この瞬間、自分がどんな顔をしているのか、
じっくり見てやろうと思ったのだ。
「……こりゃあ、生活変わるねえ」
と、自分に言い聞かせるように呟いた。
ドキドキした。
けれどそれは決して嫌なことではなかった、
同時に、その胸は、ほこほこと暖かかった。
「よろしくね」
輝子はまだ膨らむ気配などどこにもない、
ペタンと平たいお腹に向かって呼びかけた。
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