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アフリカの野生動物と一緒に走ったからこそ見えた世界

これまで様々な場所でドローン撮影してきましたが、自分にとって最も壮大で、印象深い体験となったのが、アフリカ・タンザニアでの撮影です。当時ソニーのフラッグシップカメラである8Kフルサイズミラーレスカメラ「α1」を搭載した自作ドローンで、おそらく世界で初めてとなる「野生動物の8KのFPV撮影」に成功しました。

あるとき知人と雑談するなかで、「FPVドローンを使ってどんなものを撮ったら一番おもしろそうか」という話題になったんです。そのとき、アフリカの広大なサバンナで、大自然に生きる動物たちを撮れたらおもしろいだろう、と盛り上がりました。過去に犬や牛、鷹やトンビなどを撮った経験はありましたが、きっとアフリカの動物たちは、まるでスケールが違うんだろうなと。そういう経緯もあり、2021年8月にタンザニアへ初めて渡航しました。

やってきたのは、世界遺産に登録されている「ンゴロンゴロ自然保護区」。スワヒリ語で「大きな穴」を意味するンゴロンゴロは、数百万年前の噴火活動によって生まれた巨大なすり鉢状のクレーターで、標高約2400メートルの外輪山に囲まれています。そのため、大型動物の多くが直径約20kmのクレーターの中で棲息していて、「ビッグファイブ」と呼ばれるゾウ、ライオン、ヒョウ、バッファロー、サイのほか、チーター、ハイエナ、ヌー、シマウマ、ガゼル、カバ、フラミンゴ、ダチョウなど、多種多様な野生動物たちに出会えます。

僕はここに一週間ほど滞在して、日々撮影して過ごしました。通常の観光ツアーでは、オープントップのサファリカーで走り回り、動物の近くに寄って車から観察します。もちろんそれでも十分迫力はあるのですが、少し離れた場所に動物がいたら、望遠鏡やカメラのズームで見ることになりますし、去っていってしまうと望遠で追いかけられる範囲はすぐに超えてしまいます。

しかし、FPVドローンであれば自身はサファリカーにいながら、動物の動きに合わせて遠くまで移動することができ、視点も自由自在です。その特性が、これまでになかったダイナミックな映像を生み出しました。

ただ、この8K映像を撮影するためには、2021年の時点で市販されていたドローンでは実現不可能でした。せっかくタンザニアまで行くのだから、より鮮やかな映像で残したい。あとで高解像の映像から静止画を切り出すことも考え、カメラはソニーの「α1」を使うことにしました。でも、これが非常に大きく重量もあるため、積載負荷に耐えうるドローンを自作する必要がありました。

そもそもこんな巨大なカメラをつけて野生動物を撮るなんて、普通の人にはなかなか生まれづらい発想だと思うんです。しかし、僕はドローンレーサーだったときから、レースで勝つためにドローンを自作して最適化するのが当たり前でした。なので今回も、「このカメラを載せるなら、こういう構成で組めばいけるな」というのがイメージでき、部品の組み立てからはんだ付けまで、すべて自作して行いました。僕が「空飛ぶ100万円」と呼んでいる「α1」搭載のドローンはこうして完成し、なめらかな8K/30fpsの映像と同時に、約3320万画素の静止画を切り出すことも可能になりました。

SONY α1を搭載した自作ドローン@タンザニア

さて、いよいよ野生動物を撮影するときがきました。実際にドローンを飛ばし、ゴーグルを通して上空から眺める景色は最高に気持ち良く、まるで「ンゴロンゴロ自然保護区」で暮らす一羽の鳥になったような気分でした。そして動物の群れを見つけるとゆっくりと降下していき、彼らと同じ目線の高さで、かつわずか数メートルという距離の近さで観察していました。

動物によって、ドローンに対する反応が異なるのもおもしろかったですね。例えばサイやゾウなどは、僕が近くに寄ったらすぐ突進してくるんですよ。反対に、ヌーやシマウマは警戒します。そしてライオンは、僕(ドローン)の存在をまったく気にしませんでした。表情からは、「なんかうるさいのが飛んでるな。叩き落とそうかな。でもめんどくさいからやめるか」みたいな余裕を感じられました。

たくさんの動物を撮影したなかでもとくに忘れられないのが、3000頭くらいのヌーとシマウマの群れに出会ったときのことです。僕は上空から群れを眺めていました。するとその中に、ポツンと一羽だけ、ダチョウが混じり走っっていたんです。「ダチョウ?」と思って向かってい気づいたら僕も本能的に一緒に走っていました。そしたらダチョウにつられて、ヌーやシマウマも一斉に走り出したんです。その迫力がすごくて、今度はその群れの動き全体を映像で納めました。

ダチョウとヌーの群れ/ α1の動画から静止画切出し/ダチョウの毛が詳細に捉えられる

同行するタンザニアの政府関係者やレンジャーに映像を見せると「先頭のヌーが走る方向を指揮している様子がわかる」「シマウマとヌーがこんな風に走る姿を初めてみた」「学術的にもこれは非常に価値がある映像だ」と興奮した様子で映像に見入っていたのが印象的でした。

この大群を撮影したときの裏話ですが、3000頭を超える群れを無我夢中で追っていたところ、ドローンの電波が届く範囲を大幅に超えてしまって、突然ドローンが操作不能になり緊急着陸してしまったんです。そのときハッと我に返って、「こんな遠くまで行ってしまったんだ」と驚きました。後で距離を確認したら3km先まで飛行させていました。普段だったら、僕も当然プロフェッショナルなので、電波の強度などを見ながら、どれくらい遠くまで行ったらダメだとわかるし、それを頭に入れながら飛ばすんですよ。だから途中でコントロール不能になるなんて、あり得ないミスなんです。

でもそのときは違いました。好奇心から無我夢中になってしまって、それこそ動物としての本能で動いていたような感覚でした。我を忘れてしまうくらいすごい体験だったんです(機材はもちろん無事でした)。

機体を我先に拾いに行ってくれた視力5.0超えのレンジャーさん

帰国後、僕は撮影してきた映像をイベントでの上映を通して、いろんな人に観てもらいました。思った以上に反響が大きく、「躍動感がすごい」「ドキドキする」「興奮する」など色んな感想をもらったのですが、印象的だったのが「CGみたい」という言葉でした。こっちはアフリカまで行って「本物」を撮ってるのに(笑)。でも、きっと「見たことがないくらい現実離れしたリアルな世界」っていう意味だったんじゃないかと思うんですよ。群れが突然、本能的に走り出す様子とか、そんな映像はこれまで誰も観たことがなかったでしょうし、「うまく言語化できないけど、なにか心が動かされる」という状況なのかなと。いずれにせよ、貴重な映像を撮れた体験になりました。

今回撮影した躍動感のある生きた映像は、どうやっても通常のドローンや300mの望遠レンズであっても捉えることはできないし、野生動物である彼らと同じ目線、同じ速度で移動できたからこそだと考えています。

普段私達が生きて歩いて見る視点から、1m・10m・100mと高さを変え、移動するスピードを操りることで、これまで見てきた世界が大きく変わる。そんな体験を本物の野生動物と走ることで感じることができました。

像の目の前に回り込んだ途端に突進された瞬間、距離にして3mほど


※少人数での映像上映会を不定期で実施していますので、アフリカ映像に興味ある方はぜひお声がけいただき、見に来てください。

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