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神影鎧装レツオウガ 第百九十二話

第192話「いつもこんな感じじゃないか、俺ら」 「そうだね、ホントにね」

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「う、お、お、お、おおおッ!!」
 辰巳たつみが吠える。レツオウガ・エクスアームドが唸る。
 裂帛の気合の元、繰り出されるは得意の連続攻撃だ。
 振るわれる一挙手一投足、それ自体に変わった点はない。術式経路の仕上がりが見事である事くらいか。
 だから、特筆すべきは。
 そこから生じている、異常な威力そのものであろう。
 鉄拳。一撃でヴォイド・シャドーが爆ぜる。
 前蹴り。一撃でヴォイド・シャドーが爆ぜる。
 薙ぎ払い。一撃でヴォイド・シャドーが爆ぜる。
 カカト落とし。一撃でヴォイド・シャドーが爆ぜる――!
「一、体」
 一体何なのだ。そう言い切るよりも先に、ゼロワンの頭脳は予測を導き出す。即ち、創世神の権能を用いた疑似銀河の作成、及びそれを用いた撃力の攻撃転用術式を。
 そんな事が可能なのか? 結論から言えばイエスだ。霊力とは現実を塗り潰す絵の具。術式という絵筆さえあれば、どのようなものだろうと描き出せるのだ。ちょうど今、ゼロワン自身がオリジナルRフィールド内部を、己の霊泉領域と定義しているように。
 そうして手をこまねいている合間にも、レツオウガ・エクスアームドの猛攻は続いている。
 拳打。蹴撃。打突。拳打。蹴撃。打突。
 流麗な動きで繰り出され続けるコンビネーション。比喩でなく、星を砕く威力を伴った連撃。そんな馬鹿げた暴力の嵐に、灼装ごときが役に立つ筈もない。それでも何機か強度を高めた個体をけしかけて見たが、違いはせいぜい寿命がコンマ一秒伸びた程度だった。
 となれば、レツオウガ・ヴォイドアームドの灼装でも保つのはせいぜいコンマ三秒……いや二秒といった所か。そもそもそれ以前に、現状のレツオウガ・ヴォイドアームドは虚空領域への門を無理矢理維持している状態だ。システムの殆どを虚空術式との同調に回している都合上、実は今は一歩も動く事が出来ない。それ故のヴォイド・シャドー軍団だったのだが、完全に裏目に出た。
 敗北。今まで何度も味わって来たが、今回は殊更に巨大である。何せこのままでは最初に虚空領域へ展開した術式が、「アンカー」までが破壊されかねない。
 ならば。
「こっちも勝負を、かけさせて貰おうかあア!」
 叫び、ゼロワンはあえて虚空術式との接続を解除。自由を取り戻す機体。引き換えに、不安定さを増していく空間。
 揺れている。地震、ではない。空間そのものが振動している。
「こ、れは!?」
 最後の二体を両手突きで同時爆砕しながら、辰巳は周囲を見回す。だがどんな異常であれ、まずは首魁を討つべしと認識を改める。しかし、僅かに遅かった。
「あっ!」
 そう風葉かざはが声を上げる合間に、レツオウガ・ヴォイドアームドは飛び込んだ。上空、虚空領域へ繋がる亀裂へと。
「何っ!?」
「……まさか!」
 訝しむ辰巳とは対象的に、風葉は何かを察する。かつて虚空領域に入り込んでしまった者の直感だ。
 だが、直感を辰巳へ伝えるよりも先に。それは起きた。
 広がり始めたのだ。今し方、レツオウガ・ヴォイドアームドの飛び込んだ空間の亀裂が。
 ぱりぱりと。ばきばきと。いっそ軽妙ですらある音を立てながら。
 一歩。下がって警戒しながら、辰巳は風葉へ問うた。
「どんな感じなんだい、あれ。専門家から見たら」
「専門家、って程じゃあないけど。まあ、ヤバイ感じかな。見た通りなんだけど」
 そう、風葉が言い終わるか終わらないかのタイミングで。
 ぱぎん。
 一際巨大な音を立てて、亀裂が一気に広がった。
 もとあった穴を起点として、十字に走る空間の裂け目。一瞬でオリジナルRフィールド壁面へと達したそれらは、更に巨大な孔となって空間を引き裂いていく。
「う、!」
 辰巳が乗機へ身構えさせる中、空間の崩壊は地面さえも当然のように飲み込む。引き裂く。
 そうして、レツオウガ・エクスアームドは投げ出される。漆黒の空間へと。
 スラスター噴射で即座に機体を安定させながら、辰巳は周囲を警戒。星、のような何かが遠くで瞬いている。
「ここ、は。まさか」
「虚空、領域――!」
 呻く辰巳。絶句する風葉。そんな二人の頭上から、投げ落とす声が一つ。
「そう、その通り! ぶっつけ本番ではあったが、なかなかどうして上手くいくものだな!」
 即座に見上げる辰巳。レツオウガ・エクスアームドのカメラアイが捉えたのは、やはりレツオウガ・ヴォイドアームド。
 そして、その背後には。巨大、かつ威容な術式陣が、脈動しており。
 その術式陣の名前を、風葉は知っていた。
「あれは、虚空術式!?」
 改めて全容を眺めれば、それはスレイプニルよりも更に巨大であった。構成する大量の霊力線は今までに見たどんな術式よりも複雑に絡み合っており、もはや電子回路より城郭とでも形容すべき威容。
 だが、そもそも。何故ここにこんなものが。
 そう思考した瞬間、虚空領域から二人の脳裏へ回答が流れ込んでくる。
 遥かな昔。秘密裏に研究を重ねていた天才魔術師達が、虚空領域を発見した事。
 それを利用すべく、アンカーとなる虚空術式を打ち込んだ事。
 アンカーを起点として、魔術世界の交通インフラ兼情報操作媒体として転移術式を創り上げていった事。
 他にも多様な機能を組み込んで行った結果、眼前にあるような超巨大サイズに拡大していった事。
 だが何より重要なのは、彼らが――。
「う、うっ!?」
 強く、辰巳は首を振る。気を抜けば再び押し寄せて来るだろう素晴らしい情報を、強いて頭から押し出す。正気を保つ。これもまたレツオウガ・エクスアームドの、創世神たるイザナギ神及びイザナミ神の権能だ。
 創世とは即ち、世界そのものを己の意志で書き換える事。少なくともレツオウガ・エクスアームドではそう定義されており、それを応用した精神防壁術式がコクピット内へ展開されたのだ。
『最悪の場合、敵が虚空領域へのアクセスを強行する可能性もある。それが何を引き起こすかは分からないが、少なくとも防御手段は用意した方が良いだろうね。虚空領域に引き込まれると戻れなくなるのは分かってるんだし』
 穏やかな、かつ的確な利英りえいの先読みは、今回も大いに的中したと言う訳である。
「辰巳、大丈夫!?」
「ああ。備えってのはホントに大切だな」
 先に回復していた風葉へ、辰巳は頷きを返す。状況を再確認する。
 精神防壁術式は問題なく駆動している。前後不覚に陥っていた時間は一分もあるまい。
 だが、その合間に。
 敵は、合体を終えていた。
 そう、合体だ。今や虚空術式は、レツオウガ・ヴォイドアームドを核とする超巨大神影鎧装へと姿を変えていたのだ。
「ふ、ふ。物理法則に縛られないこの空間で、どれ程の攻撃術式を創り上げられるか実験した事はあったんだがね。まさかそれが、こんな形で役に立つとはなあ!」
 頭部にレツオウガ・ヴォイドアームドを抱く、城塞じみた巨体の神影鎧装。それを見上げる辰巳の目に、しかし恐れはない。
「成程。それが自分を……いや。自分『達』を失った代償と言う訳か」
 一瞬。超巨大レツオウガ・ヴォイドアームドの体表で蠢く霊力線の脈動が、止まった。息を呑むかのように。
「何故、」
 何故、それを。そう言い切るよりも先に、ゼロワンは理解する。
 虚空領域。この場所には、全ての記録がある。全ての記憶がある。空間に飲まれぬための防備があるならば、望む情報を引き出す事なぞ造作もない。
 それこそ、今目の前にいるレツオウガ・ヴォイドアームドのパイロットの正体でさえも。
 ――遥かな昔。虚空領域を発見し、調査用のアンカーを打ち込んだ天才魔術師達。
 彼らはそれを起点とし、いよいよ本格的な干渉を始めるべく虚空術式を起動した。初期型の、現在より遥かに稚拙なものを。
 そして、むべなるかな。一斉に虚空領域に飲まれた。
 砕ける意識。散逸する自我。恐慌に陥った彼らのうち、一人がある決断を下した。
 このまま座して減衰消滅を待つよりも、我々の精神全てを統合し、一人格とした上で防護術式を貼るべきである、と。
 異論は無かった。カミソリじみた暴走霊力の嵐が肉体をズタズタ引き裂く最中、差し挟む余裕が無かったとも言える。
 どうあれ、その起死回生の策は成功した。成功してしまった。
 そうして、焼け野原のような破壊の跡に。それは現れたのだ。
 名前。記憶。理性。良識。
 ヒトとして重要なものがごっそりと抜け落ちた、しかし魔術の知識だけは膨大に持ち合わせている怪物が。
 怪物には、何もなかった。新たな術式を作り出すという信念。袂を分かった連中を見返したいという野望。一攫千金を狙いたいという物欲。統合前の個々人が持っていたそれらは、虚空領域の向こうへと既に溶け消えていた。
 だから、必然的に。唯一残滓が残っていた、統合前の者達に共通していた感情を元に、怪物は行動を開始した。
 目的。理論。立場。実践。事ある毎に衝突していた研究者達が、等しく持っていた感情。
 即ち。「好奇心」と「悦び」であった。
 要するに、ゼロワンは。名もなき怪物は。
 己の興味と情動を満たすために。それだけのために。世界中へ混乱を撒き散らしていたのだ。
「成程」
 ぽつりと、怪物はつぶやく。超巨大レツオウガ・ヴォイドアームドが、拳を握る。
「だったら、解るよな、ゼロツー?」
 背部スラスターが爆光を吐き出す。物理法則を無視した速度で、巨体が距離を詰める。
「オマエの存在が! どうしようもなく邪魔な事がなああ!!」
 ごう。
 彗星にも匹敵する速度と質量を備えた拳が、レツオウガ・エクスアームドを捉える。
 直撃。衝撃。
「――。成程?」
 しかし、レツオウガ・エクスアームドは微動だにしない。己の数倍はある拳の一撃を、片手で受け止めたのだ。機体内部の宇宙から取り出した運動エネルギーで、撃力を相殺したのである。
 しかもそのエネルギーは、超巨大レツオウガ・ヴォイドアームドの拳を逆に突き抜ける。爆砕する。
「ぐ、」
 半壊した腕を引きながら、舌打つ。恐るべき性能。だが打つ手はある。要するに、同じ機構をヴォイドアームド側にも構築すれば良いのだ。
 そう、レツオウガ・エクスアームドが機体内部を自在に定義出来るように。
 レツオウガ・ヴォイドアームドは、虚空領域を自在に定義出来るのだ。加えて、模倣すべき手本は目の前にいる。己の知識と霊力を総動員すれば容易い仕事だ。
 そのための時間稼ぎとして右拳を損壊したが、まあ、ささやかな代償である。再生なぞ幾らでも効く。そして既に、同様の機構は今、完成した――!
「だが、これで互角だッ!」
 左拳。レツオウガ・エクスアームドは再度防御しかけ、しかし即座に回避行動へ切り替えた。
 スラスター全開。上方移動。直後、レツオウガ・エクスアームドの足裏を巨大拳が掠めた。
「こ、れは」
 眉間に皺寄せる辰巳。すぐさま理解する。敵機の機能向上を。更に目撃する。敵機の右拳が再生しているのを。
「く、は、は、は、は、は、は!!」
 耳障りな哄笑を上げながら、超巨大レツオウガ・ヴォイドアームドが攻勢に転じる。
 打撃。打撃。打撃。打撃。一挙手一投足、それ自体はとてもオーソドックスな動きばかり。だがその一撃は、どれも比喩でなく星を砕く威力を伴っている。それを時に回避し、時に打ち返しながら、辰巳は感嘆した。同時に嘆息もした。
 これ程の技術が、正しく使われていたならば、と。
「はは、は! そろそろこの力の制御方法も分かってきたぞ! ゼロツー! レツオウガ! 所詮お前達のようなふざけた連中に、僕を止める事なぞ出来はしない!」
「――ふざけた、だと?」
 幾度目かになる上昇回避。それを敢えて中断し、辰巳は構える。迎え撃つために。
 宇宙の力を今まで以上に引き出し――放つは両手突き。それは超巨大レツオウガ・ヴォイドアームドの拳と衝突し、通常空間であれば太陽系を消し飛ばす程の衝撃を生んだ。
 拮抗する二機のレツオウガの拳。一瞬でも気を抜けば吹き飛ばされるだろう拮抗の中で、辰巳は言い放った。
「世迷い言を。ふざけているのは、オマエだ」
「な、に」
 超巨大レツオウガ・ヴォイドアームドの圧力が、僅かに弱まる。辰巳は続ける。
「目的。信念。執念。激情。欲望。俺が今まで拳を交えてきた相手は、多かれ少なかれ、そうした感情を持っていた。そこから生まれる炎を、原動力にしていた」
 レツオウガ・エクスアームドは、睨み据える。超巨大レツオウガ・ヴォイドアームドの頭部を。
「だがオマエはどうだ。享楽、ですらない。自分が死人である事を自覚しながら、生前の感情の残骸に縋り付いている。力と情動だけが肥大した、ひたすらに迷惑な影法師――」
 レツオウガ・エクスアームドの出力が増す。打ち出される回し蹴り。凄まじき衝撃。レツオウガ・ヴォイドアームドを後退させる。
「――そんなヤツに。そんなモノに。負ける道理は無い」
「こ、の」
「……よし、っと! やっと出来たよ辰巳!」
 激昂しかかった絶妙なタイミングで、風葉が声を上げた。それまである作業に集中していたため、現状を気に留めていなかったのだ。そして今、改めて闘志を嗅ぎ取った。
「ご、ごめん。お邪魔だったかな」
「いや? そんな事は無いさ」
「お、前、達ィィィっ……!」
 レツオウガ・ヴォイドアームドが、巨大な両腕を振り上げる。その拳には、星雲のような霊力光が渦を巻いている。攻撃の出力を上げた証だ。一気にケリをつけるつもりか。だがそれは辰巳としても望むところであり。
「セット。モード、ギャラクティック」
『Roger Galactic Buster Ready』
 レツオウガ・エクスアームドの左腕。上腕全体を包み込む霊力の光。それと同時に胸部エンブレムが分離し、更に四つのパーツへ分解。一個ずつがレツオウガ・エクスアームドの上下左右へと移動し、静止。本体を中心とした霊力のラインを作り出す。
 循環が拡張する。宇宙が、膨れ上がる。
「それがっ! どうしたああああああああああッ!!」
 レツオウガ・ヴォイドアームドの拳が唸る。一撃。五撃。十撃。二十撃。先程よりも遥かに激しい打突の乱舞。相対するレツオウガ・エクスアームドは防御し、回避し、打ち返す。
 殴り合いながら、両機ともスラスターを全開。激突し、離れ、また激突する。
 時に直角に。時に螺旋状に。複雑な尾を引きながら、縦横無尽に虚空領域を駆け巡る二つの星。そうして、どれだけの激突を重ねただろうか。果てるともなく続いていた拮抗へ、不意に綻びが生まれた。
 鉄拳同士が激突し、互いが弾かれた直後。
 レツオウガ・エクスアームドのスラスター推力が、僅かに落ちたのだ。
 何らかの不具合。つまりそれは、回避運動が弱まった証左。故にレツオウガ・ヴォイドアームドは、仕掛けた。両腕へ充填していた霊力を開放し、空間ごとレツオウガ・エクスアームドを捻り潰す。そんな目論見は、しかし。
 レツオウガ・エクスアームドの背後へ現れた術式陣によって、かき消された。
「なッ」
 その図式を、彼は知っていた。良く、知っていた。
 彼の分体のうちのひとつ、サトウがゼロスリーと共に行動していた時、さんざん使用した術式。即ち四神の権能を応用した転移術式こと、フォースアームシステムが展開していたのだ。
 ――先程はああした啖呵を切った辰巳であったが、内心では厳しい戦闘になるだろうと分析していた。何せ敵機は虚空領域の特異性を存分に用い、こちらと同等の性能を容易くコピーして来るのだ。真正面から打ち倒すのは難しい上、改良してこちら以上の性能になり始めたらどうする事も出来ない。
 故に、活路は一つ。まだ出していない能力を用いた、意識外からの一撃必殺。風葉がしていたフォースアームシステムの準備、及びスラスターの不調偽装はそのための呼び水であり。
 かくてレツオウガ・エクスアームドは完璧なタイミングで機先を制し、レツオウガ・ヴォイドアームドの頭上へと転移。同時に右腕へ展開していた術式の出力上昇。身体ごと引き絞る。
 霊力を感知したのか、見上げるレツオウガ・ヴォイドアームド。目が合う。
 その双眸、めがけて。
「ギャラクティックッ――! バスタアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
 辰巳は、レツオウガ・エクスアームドは、左拳を突き出す。術式が発動する。
 空間すら軋ませながら放たれるは、インペイル・バスター及びヴォルテック・バスターを下地とした必殺の一撃。超高速で渦巻くそれは、しかし上記の術式なぞ比較にならない速度と威力を伴ってレツオウガ・ヴォイドアームドへ直撃。渦は瞬く間に敵機の巨大な躯体を飲み込み、尚も拡大。周囲の広範囲へと広がり、空間を歪ませ――やがて、風葉は見つける。虚空領域と現実の空間を強引に繋いだ、術式の結節点を。
「そ、こ、だっ! 辰巳!」
「ああ!!」
 辰巳は敵機のみならず、その場所へもギャラクティック・バスターを収束。程なくして超巨大レツオウガ・ヴォイドアームドが、次いで空間そのものが、音を立てて爆裂。迸る閃光。物理的な圧力さえ感じさせる光は、やがて緩やかに減衰。完全に消え去る。

◆ ◆ ◆

そうして辰巳と風葉は気付く。自分達が、レツオウガ・エクスアームドが、海上で浮遊している事実に。
 イザナギ及びイザナミという創世神の権能と、ハワードが提供したステイシス・ドライブの技術応用。それらが組み込まれたギャラクティック・バスターは、レツオウガ・ヴォイドアームドのみならず、空間結節点で繋がっていたオリジナルRフィールドまでをも消滅させたのだ。
「……。終わった、んだよな」
「……。うん」
「……。はぁぁー」
 一つ、大きく息をつく辰巳。気持ちは良く分かる。風葉も苦笑し、同じように息をついた。
「あ、そういえば。種は蒔いたんだよな」
「ん、それはモチロン」
 ――二年前、ヘルガが虚空領域へ最初に放り出された後。何故彼女は正気でいられたのか。己の存在を保っている事が出来たのか。その答えが、今し方辰巳の言った「種」だ。
 辰巳がギャラクティック・バスターを放っている最中、風葉もまた術式を起動していた。ベッドつきの小さい部屋を模した、虚空領域仕様の保護シェルター。それを二年前へ送り出したのだ。創世神の権能と、虚空領域の特異性を重ね合わせた離れ業である。
『まぁ、多分出来る筈だよ。封鎖術式とかも込みで。そうでなきゃアタシが平気だった説明がつかないからねえ』とはヘルガの弁である。
 どうあれ、全ては終わった。これからどうなるか。どうすれば良いのか。それはわからない。だがまずはアリーナと合流しなければなるまい。そう考えた辰巳はレツオウガ・エクスアームドを回頭させ。
 ぼすん、という音がコクピット内に響いた。
「あれ」
「えっ」
 コクピット内の電装系が軒並み落ちる。レツオウガ・エクスアームドをエクスアームドたらしめていた霊力装甲が消失し、機体の動きも止まる。当然スラスターも停止し、レツオウガは重力に捕われる。落下。着水。どんどん沈む。
「……なんかさ。いつもこんな感じじゃないか、俺ら」
「そうだね、ホントにね」
 くすくす笑う二人を乗せたまま、レツオウガは海の底へと沈んでいった。

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【神影鎧装レツオウガ メカニック解説】
レツオウガ・ヴォイドアームド

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