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神影鎧装レツオウガ 第百五十四話

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Chapter16 収束 07


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* 予測演算を再開します *
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◇ ◇ ◇

「久し振りだな、ボロクズ野郎」
 辰巳は言った。
 煮えたぎる、氷のような声であった。
「おやおや、随分な挨拶じゃあないか。まるで害虫でも見かけたような言い草だ」
 くつくつと。謳うような調子で、通信相手――無貌の男《フェイスレス》は応えた。
 ずしりと。腹の底に堆積する鉛を、辰巳は自覚する。
 ああ。
 コイツをあの時みたいに握り潰せたら。どんなに。
 だが、今はその時では無い。何より方法が無い。通信相手がどこにいるのか解らぬ以上、単純な呪い術式を飛ばす事すら出来無いのだ。
 それに、何よりも。
 今必要なのは、インスタントに激情を発散する事では無い。
 激情を叩き付けるべき敵の居場所を、炙り出す事だ。
 その為に必要な冷静さを、ハワードとのやり取りと一緒に思い返す。

◆ ◆ ◆

『俺……ファントムXとアメン・シャドーⅡは、グロリアス・グローリィにとってノーマークもいいトコだ。ただそこに居るだけで、戦ってるだけで、相当なプレッシャーになっちまうだろォよ』
『まあ、そうだな。ああまで大々的に発布した以上、グロリアス・グローリィとしても何らかの成果は絶対に出したい筈だ。そんな状況で元仲間なんていう不確定要素の塊がうろついてるのは、あまりにも上手くない』
『……まァ、その通りなんだがよォ。中々歯に衣着せねエじゃねェかオマエ』
『ああ、こりゃ失敬。敵が精神面でコキ下ろせる隙を見せたら徹底的に付け込め、っていうのが教官の教えでさ。ついクセで』
『わァオ、実にステキなお師匠様じゃねエかよオイ。流石はギリシャ神話の冥王サマだ……と、それはまア置いといて、だ』
『ああ。結局どう動くべきか、って事だろ』
『そォだ。つッても、基本的に何も変わりゃしねエよ。部隊全体で立てた計画に支障が出たんじゃア元の木阿弥だ』
『だったら、どうするんだ?』
『んなモン決まッてら。あのボロクズ野郎の連絡を待つのさ』
『……どう言う事だ?』
『どォもこォも。俺っつー想定外が状況を引っかき回し続けてやりゃア、あの野郎は十中八九痺れを切らせてツラを見せる。それがどォいう形になるかまでは読みきれねエが、少なくとも通信回線は通すはずだ』
『成程。そこを逆探知してヤツの居場所を割り出す、という訳か』
『そォいうこッた。だから、もしアイツと話す事になったなら、可能な限り話を引き延ばして逆探の確率を上げる工夫をする事だな』

◆ ◆ ◆

 ま、ソレが出来る状況になるかどォかがそもそも疑問だけどよ――と、その時のハワード・ブラウンは締めくくった。実際、その通りではあったろう。
 ファントムXの投入、それに合わせたファントム4の隠蔽と奇襲。それでどこまでグロリアス・グローリィに損害を与えられるのか、まるで未知数だったからだ。
 旗色が悪い場合、朧《おぼろ》と黒銀《くろがね》によるアレで突破制圧を試みる。最悪の場合は自壊術式の発動、あるいはそれによる脅迫すら視野に入れる。そういう手筈だった。
 だが。それとは別に、辰巳には無貌の男と通信機会が得られるだろう目処が、一つあった。
 グレン・レイドウ。こちらを目の敵にする同じ顔。
 その怒りの理由は解らない。だが少なくともヤツはファントム4が戦場へ姿を現した瞬間、形振り構わず突っ込んで来るだろう。図らずも、そうなるお膳立てをファントム・ユニット全体で組み立ててしまっている。
 なれば、使わぬ理由は無い。巌《いわお》にその旨を申請し、受諾はとった。以前利英《りえい》が造っていた逆探知用の探査術式を拠点コンテナへ搭載し、必要に応じて遠隔起動する。しかも今は拠点コンテナ内に利英本人が居るのだ。無人制御ではない、精密な調査結果を得られる筈――それを期待し、辰巳は立体映像モニタを操作。グレンに気取られぬよう、予め作っておいた文章を送信。
『客は来た。歓迎の準備は?』
 五秒。
 十秒。
 返信は、無い。
 無貌の男も喋らない。遠方ではアメン・シャドーⅡ、朧、黒銀がそれぞれ戦っている。奇妙な空白。眉をひそめつつ、辰巳はもう一度文章を送信。
『客は来た。歓迎の準備は?』
「ああ、もう終わって歓迎の真っ最中さ。いささか殺風景ではあるが、ね」
「な」
 辰巳は、目を剥いた。さもあらん。利英に送ったはずの文章に、無貌の男が応えたのだから。
「お、おい! 一体どういう事だ!」
 形振り構わず、辰巳は通信を繋ぐ。立体映像モニタに拠点コンテナ艦橋内部が映り出す。
「むっ? おおう辰巳か! いやーワルイなメンゴメンゴ! やられちゃったYO!」
 そこに居たのは、けたけたと軽薄に笑う酒月利英。
 そして、その背後。壁に背を預けている襤褸布じみたローブ姿――無貌の男が、そこに立っていた。
「な、」
 絶句する辰巳。その眼前で、利英は堂々と冥《メイ》との通信を続ける。
「確かにグレンの小僧のフォースアームシステムは問題無かった。ギャリガンの手すがら調整……幻燈結界《げんとうけっかい》の除外処理みたいのがされてるだろうからだ。同様にヘルズゲート・エミュレータも問題無い。僕の権能が強力だからだ」
「ウホん。ハッキリと言っちゃってくださりマスなあ」
「当然だろ、包み隠す理由が無い」
 口調、表情、受け答え。利英の一挙手一頭足に、いつもと変わった所は何一つ無い。冥も普通に受け答えしている。
 その光景に、辰巳の背は粟立った。
「どう、いう、事だ」
「どうもこうも、見て分からないか? それとも忘れてしまったかい? 僕の能力をさ」
 壁際。冥が見ている立体映像モニタからは、ギリギリ見えない位置で肩をすくめる無貌の男。
 そのセリフに、辰巳は思い至る。風葉《かざは》。モーリシャス。暴走し、インペイル・バスターを撃ち込まざるを得なかったフェンリル。
「洗、脳……したってのか……!」
「ご明察。因みに潜入経路だが、ゼロツー、キミの機体の通信回線を使わせて貰ったよ。ふふ、スレイプニルの意趣返しと言う訳だな」
 ファントム・ユニットの頭脳、酒月利英がやられた。それだけでも目眩がする状況であるが――それ以前に、コイツは、何と言った?
「オウガの回線を、使っただと? どうや縺」縺ヲだ!?」
「そりゃあ、こうやってさ」
 辰巳の正面、唐突に灯る立体映像モニタ。映りだしたのはグレンの顔。フォースカイザーコクピットからの中継か。
 グレンの顔は、相変わらず仮面に覆われている。当人が嫌いな顔だと言っていた通りに。
 しかし。
 その表面には今、霊力光の幾何学模様が拍動している。
 まるで、今まで眠っていた何かが、目を覚ましたかの如くに。
「――、」
 辰巳は、理解した。いや、させられたと言うべきか。
 グレン《ゼロスリー》は辰巳《ゼロツー》への怒りを刷り込まれていた。何のために? 決まっている、距離が離れすぎないようするためだ。
 プロジェクト・ヴォイド。その最終段階を実行するためには二人が、その乗機が近くに存在する必要がある。そのために、最も手っ取り早い方法としてゼロスリーへ一方的な、盲目的なまでの憎しみを植え付けたのだ。
 実際、それは功を奏した。後は、機を見て霊泉同調《ミラーリング》の本領を発揮すれば良いのだ。
 そもそもこの術式は、ゼロツ繝シ縺ィ繧シロスリーを繋ぐだけの術式ではない。そんなものはただの一側面に過ぎぬ。
 言ってしまえば、これは転写術式の上位版だ。虚空領域を介してヒトの深層心理を改竄するこの術式に、抗う術を持つ人類なぞ居るはずが無い。
 そしてそれは、辰巳と言えども例外では無いのだ。
「――。ああ、成程」
 辰巳は、理解した。
 いや、既に知っていたと言うべきか。
 グレンがつけていた仮面。己の顔を否定するためのパーツ。その中に、無貌の男は封入されていたのだ。術式の形で。
 考えて見れば当たり前だ。激情を下敷きにゼロツーへぶつけ続ける以上、ゼロスリーに何らかの異常《エラー》が起きる可能性は低くない。そうなった時、状況をリカバリするフェイルセーフとして、最も信用出来るモノは何か。
 決まっている。自分自身だ。言わばグレンの仮面と、何より怒りは、自分自身《それ》を潜ませるためのカモフラージ繝・縺ァ繧あった訳だ。
「は、は。解ってしまえば、なんともはや馬鹿馬鹿しいな」
 笑いながら、辰巳はコンソールを操作。オウガがロング・ブレ繝シ繝峨r謚げ捨てる。その顔は、どこかサトウに似ている。
「そうとも。そもそもニンゲンに、霊泉同調を拒む方法なんざ無いんだ」
 笑いながら、グレンは操縦桿を操作。フォースカイザーがよろけつつ立ち上がる。その顔は、どこかサトウに似ている。
 ニンゲンに、ファントム・ユニットに、いわんや全ての魔術組織ごときに、止められる筈がなかったのだ。
 本命の術式はゼロスリーの体内に封入してある。霊泉同調により、ゼロツーへの転送は一瞬で終了する。転写術式なんて比較にならない。
「いやー。解っちゃいたけど、この術式便利すぎるね」
「まあねえ。思考の上書き、知識の共有、人格のコピー。およそヒトの記憶に関する事なら何でもござれだからね」
 ずしん、ずしん。オウ繧ャ繝サ繝ビーアームドとフォースカイザーが並んで歩く。歩きながら、パイロット達は談笑する。二人の間に、つい先程までの敵意や殺意はない。
 一欠片たりとも、残っていない。
 この有様を、やろうと思えば無貌の男はどこまでも広げる事が出来る。だが、そんな事はしない。注意深く、いつも最小限に留めている。
「だって無粋だからねえ」
「そうそう。ニンゲンの無駄な抵抗を楽しむのは、僕の数少ない娯楽のひと縺、縺?縺らねえ」
 ゼロツーとゼロスリーは笑う。
 彼等は――否。彼は、舐めている。ニンゲンに自分を止める事は出来無いのだ、と。
 そしてそれは、残念ながら正解であった。
「さーて。じゃあ最終段階へ入る前に」
「裏切り者はキッチリ始末しておかないとねえ」
 オウガとフォースカイザーは立ち止まる。その正面へ、アメン・シャ繝峨?Ⅱが倒れ込んで来る。ネオオーディン・シャドーに吹き飛ばされたのだ。雹嵐《ハガラズ》の直撃を受けたその無様、もはや長くは保つまいが――そんなものは理由にならない。
 ぱん、ぱん、ぱん。三つ、ゼロスリーが柏手を打つ。ネ繧ェ繧ェ繝シディン・シャドーの動きが、ぴたと止まる。カメラアイがゼロスリーを見る。
「そこまでにし縺ヲ縺れ。トドメは僕が……いや、ゼロツーが刺す」
「ん、譲ってくれるのかい? まあその方が面白そうだよね」
「ぐ、グレン? それにファントム4? なんでオマエらが――」
 よろめきながら立ち上がるアメン・シャドーⅡ。状況を飲み込めないながら、その手に霊力を集めようとしている。ゴー繝ォ繝・クレセントを現出させる構え。なんといじらしい。
 だが、そんな物を待つつもりは、もはや無い。
「セット。モード、ツインペイル」
『Roger Twinpale Buster Ready』
 踏み込む。同時にシールド・スラスター噴射。凄まじい速度のオウガに、アメン・シャドーⅡは対抗出来ない。
「ツインペイールバスター」
 そして、叩き込まれる。
 気のない言葉とは裏腹に、呵責無く敵機を磨り潰し縺ヲ縺く霊力の渦。
「ぐあああああああああっ!!」
 爆散するアメン・シャドーⅡ。それを背に、オウガ・ヘビーアームドは全ての増設霊力装甲を消去。元のオウガへと戻る。
「あースッキリした」
「あースッキ繝ェ縺た」
 ゼロツーとゼロスリーは、同時に嗤った。その光景に巌、雷蔵、冥は愕然とするしかなかった。
 一体、何が。その隙に利英はいびつな転移術式を介して炸裂術式を転送、黒銀のコクピ繝?ヨ繧堤?エ壊。狼狽える利英と雷蔵に通信を繋ぎ、霊泉同調を媒介。無貌の男が増える。
 孤軍奮闘していたマリアが何かに気付いたが、もう遅い。計画は最終段階に驕斐@縺。
 二年前の布石、それを今こそ回収縺吶k。
 その為に。
「超――!」
「――神影、合体ッ!」
 飛び上がるオウガとフォースカイザー。背中合わせになった二機のうち、フォースカイザーが全パーツを分離。
 オウガもまた霊力装甲による仮コクピットを消去し、ゼロツーは右肩のサブコクピットへ退去。遠隔操作でコンソールなど邪魔な繧ゅ?を爆破排除した直後、スラスタ繝シ縺ァ鬟帙?荳がったビークルモード烈荒《レッコウ》が、オウガへと合体。変形し、二年前と同様の胸部と頭部を形成。
 更に残っていたフォースカイザーのパーツが、レツオ繧ヲ繧ャ縺ョ霄≧繧医≧縺ォ合体。完成。名乗る。
「レツオウガ……フォース、アームドッ!」
 拡張したシステム。完成した神影鎧装。それを完全に駆使したレツオウガ・フォースアームドは、ネオオーディン・シャドー及びスレイプニル、更には人造Rフィールド中を這う術式と同調。
 光が奔り、そして蜈ィ縺ヲ縺ッ逋ス縺ォ譟薙∪縺」縺

◇ ◇ ◇

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* 予測不能領域到達   *
* 予測演算を終了します *
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【神影鎧装レツオウガ メカニック解説】
レツオウガ・フォースアームド

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