呪いの『縫針』
「縫針」
彼女はそう名乗った。
「どの辺が?」
反射的に僕は呻いた。
何せデカイ。胸元の短刀が玩具のよう。僕自身背が高くないのもあるけど。
それ以上に得物がデカイ。槍か、斧か。とかく凶悪形状の長柄武器は、外観に相応しい威力を叩き出した。
縦振り。びょう。両断される強魔。
横薙ぎ。びょう。引き裂かれる強魔。
一突き。びょう。串刺され、両手で夜気をかき回す強魔。
雇われた護衛である、と唐突に現れた『縫針』は、名乗りを含む数呼吸でそれらを為したのだ。
だが強魔はまだ現れる。まだまだ現れる。ここまでするのですか叔父上。そんな嘆きすら忘れる程、『縫針』は鮮烈だった。
びょう、びょう、びょう。
五撃。十撃。二十撃。刈られる麦でももう少し頑張るのではと思うくらい、強魔が倒れていく。
「ふー」
と、ようやく『縫針』が一息ついた。見回せば、強魔は全て地面に倒れて、いない。
「う」
背後。木々を薙ぎ倒して現れた強魔に、また僕は呻いた。
コイツもデカイ。『縫針』よりもデカイ。明らかに建物サイズだ。
後ずさる僕。だが逆に『縫針』は前に出た。横顔に、表情はなかった。
「さて」
呟く『縫針』。得物を構える。
唸る巨大強魔。巨腕を掲げる。
『縫針』が動いた。走る。
巨大強魔は待ち構える。振り下ろす。砕ける地面。
『縫針』の姿は無い。既に跳躍済。今まで以上の身軽。当然だ。長柄武器を手放している。棒高跳びの要領。
『縫針』は跳ぶ。短刀を引き抜く。
瞬間、視えた。あの刃、恐ろしく強力な呪いがかかっている。
それを、彼女は刺した。敵の額に。
まさに針。その一刺しで、巨大強魔は弾け飛んだ。
轟音。爆風。死屍累々。その只中で、彼女の無表情と、短刀の刃だけが静謐だった。
「その辺が『縫針』って事か」
呻く僕。だが『縫針』は首を振った。
「いや。その方が少しは可愛いかなって」
言って、彼女は頬をかいた。
「ダメ、かな」
自信なさげに、彼女は笑った。
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