09_楽園12_ヘッダ

神影鎧装レツオウガ 第七十五話

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Chapter09 楽園 12


「なんだ、これは」
 オウガの姿勢制御を行いながら、辰巳《たつみ》は辺りを見回す。ひたすらに殺風景だったEフィールドの様相は、完全に一変していた。
 フィールド全てを覆い尽くす焼けた砂。容赦なく吹き付ける熱風。だが何より目を引くのは、Eフィールド中央へ堂々と鎮座する巨大な石積みの四角垂――ピラミッドだろう。
 この光景は、まるで。
「エジプト、だな。はは、なんだこのデタラメは」
 呟く冥《メイ》。モニタ越しに外を見る双眸に、先程までの不機嫌は見当たらない。むしろわくわくしてすらいるようだ。
「けど、何でエジプトなんだ?」
『さぁな。単に、術者の趣味なのか……』
 冥はモニタを見る。ズームするピラミッドのてっぺん、ご丁寧にパラソルで日よけされた椅子の上。この偽エジプトを展開した術者、ハワード・ブラウンが座っていた。
 更にその傍らには、先程取り出された怪しいチェス盤が、台座ごと鎮座しても居た。
『……それとも、当人が術式に深く関係しているのか』
 どっちにせよ、聞いて見れば分かる事だ。そう思い立った冥は、おもむろに紫色の転移術式――ヘルズゲート・エミュレータを起動。
『と言うわけでちょいと聞いてくるよ。セット、ゲート』
『Roger HellGate Emulator Ready』
「え? ちょっ、ファントム3?」
 などと辰巳が止める間も無く、冥は飄々と転移術式を潜って行ってしまった。散歩するような気軽さだ。実際、当人からすれば似たようなものだろう。
「毎度の事だが自由な師匠だ」
 かつかつ、とヘッドギアのコメカミ部を小突く辰巳。
『おう、無事だったなファントム4』
 背後から巌《いわお》の声がかかったのは、そんな折だった。
 振り返った視界に映ったのは、赤い龍型の大鎧装、赫龍《かくりゅう》。スラスターから霊力光をなびかせる赫龍は、オウガの頭上で小さく旋回しつつ、人型に変形して着地。
 それとほぼ同じタイミングで、濃緑色の大鎧装四機がEフィールドへと跳躍侵入してきた。自衛隊凪守出向部所属の大鎧装、零壱式《れいいちしき》の部隊だ。
 その内の一機、頭部へアンテナを増設された指揮官機がオウガを見た。
『ファントム4! ご無事ですか!?』
 立体映像モニタが点灯し、指揮官機パイロットの田中三尉が映り出す。
「ええ、大丈夫です。ご心配をおかけしました」
『ならば良いのですが……おや? ファントム3の姿が見えませんね』
「ああ、少し野暮用が出来たみたいで」
『野暮用?』
 眉をひそめる田中三尉。だがその疑問に答える間も無く、外部から通信が割り込んで来る。
『よしよし、役者は揃ったようだな』
 点灯する立体映像モニタ。映り込むのは相変わらず腰掛けているハワードと、その隣でタブレットを操作しているファントム3――冥・ローウェルであった。


 Eフィールド中央。辺り一帯をぐるりと望む、ピラミッドのてっぺん。
「まるでこの状況を待っていたような口振りだな、ハワード・ブラウン」
 チェス板の乗る台座を挟んだ反対側で、冥はハワードを見やった。因みにハワード同様、冥もきちんと椅子に腰掛けている。転移した矢先、ハワードから勧められたのだ。
「そりゃそォだろ。ようやく本筋の仕事に取りかかれるンだからなァ」
「ふむ? つまりキミにとって、先程ファントム4の相手をしたのは、本意で無かった訳か」
「……あァ。師弟揃ってメンドーな連中だなオマエら」
 かん、かん。台座を小突くハワード。すると台座の一角へ正方形の切れ込みが走り、音も無く沈み込んだ。
 そして、きっかり五秒後に戻って来た。その上にパック入りの桜餅を載せながら。
「何!? こ、の、パッケージは……まさか!?」
「そォ、察しの通りやまと屋の桜餅よ。事情とかウザさとか抜きにしても、こンなトコまでいらっしゃッたお客サマは、きちんともてなさねェとなァ」
 言いつつ、ハワードは台座にへ乗っていたもう一つの物品、チェスピースを手に取った。
 兵士《ポーン》。金色に光るその駒に、冥は片眉を吊り上げる。桜餅を手に取りながら。
「僕とチェスの勝負がしたい、という訳では無さそうだな?」
「そらそォさ。ご覧の通り、一種類につき一個しか駒が無ェし」
「ふむ。ならどうするんだ」
「こオするのさァ」
 無造作に、ハワードは盤の端へ駒を置いた。チェスのルールをまるきり無視した配置に、しかしチェス板は律儀に答えた。
 ぱりり。小さな火花を上げながら、霊力光が駒に走る。渦を巻く霊力光はそのままチェス盤へと伝達し、ぐるぐると拡大。
 渦はボードの枠を飛び出し、台座へと伝わる。ピラミッドの段差を走り抜け、オウガ達が居る方向へと拡散。
 その二秒後、砂を突き破りながら巨大な影が姿を現した。
『何ぃ!?』
 数は六。Eフィールド端のオウガ達を取り囲むように現われた異形共に、冥は目を細めた。
「あれは、恐竜……ティラノサウルス型の禍《まがつ》、か?」
「ご明察。ディノファング、って名前でなァ。中々に良い買い物だったぜェ」 
 鉈じみた爪を備える巨大な脚。スラスターを内蔵する長大な尻尾。そして、鋭い牙の並ぶ顎。
 その名に恥じぬ凶暴さを隠そうともしない恐竜型禍、ディノファング。だが冥が片眉を吊り上げたのは、そんな解りやすい脅威に対してではない。
「ほぉ? 意外だな、自分で造ったんじゃないのか」
「いンや、術式自体を造ったのは俺さ。それを封入する道具を、オマケ共々買い込ンだのさ」
 言いつつ、ハワードは金色の駒を小突いた。他にもサトウと交わした密約等はあるのだが、無論そんな事まで説明する義理はない。ただニヤついた笑みを深めながら、禍――ディノファングへ指示を出す。
「さァて初実戦だ! 性能を見せて貰おォか!」
 ぱきん、とハワードが指を鳴らす。
 それを合図に、ディノファング達は動いた。
『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!』
 砂塵を撒き散らし、巨大な顎を剥き出しに、オウガ達大鎧装部隊へと迫るディノファングの群れ。
 その巨大な顎の一撃を受ければ、いかな大鎧装であれ腕の一本や二本、容易く食い千切られてしまうだろう。
 故に、大鎧装部隊は先手を取った。
「おっ」と冥が感心する程の素早さで、左右両端に居た零壱式の三番機と四番機、そしてオウガが前に出た。
 三、四番機は中腰体勢を取りつつ、バックパックに畳まれていた二本のサブアームを展開。更に先端に装着されていた巨大なシールドが、下部のパイルバンカーを砂に突き刺して固定した。
『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!?』
 バリケードの如く展開した四枚のシールドに、突撃を阻まれる四匹のディノファング。因みに残りの二匹は、オウガの展開した二本のブレードによって、上顎を縫い止められていた。
 恐竜型禍の巨大質量を受け止めたシールドは多少へこみ、砂を穿つ杭もいくらか後ろに下がっている。だが防御態勢そのものは揺らがない。
『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!!』
 それでもその防御を突破すべく、ディノファング達は尻尾のスラスターを起動。横に割れた尻尾の中央、ロケットエンジンじみた噴射口に霊力光が灯り。
 しかしその噴出に先んじて、残りの零壱式一番機と二番機、更に赫龍がバリケードごとディノファングを跳び越えた。
 一、二番機はアサルトライフル。赫龍は上腕部内蔵のグレネード。三機の大鎧装はそれぞれの射撃武器を、真下に並んでいる巨大トカゲ共へと照準。
 発砲。発砲。発射。
 焼けた砂よりなお熱い弾丸が、ディノファングの装甲へと着弾、着弾、着弾。そして爆発。
『GYAAAAAOOOOOOOOO……』
 力無い断末魔を残し、消滅していくディノファング。それに伴う霊力光を背に受けながら、三機の大鎧装は着地した。三番機と四番機もシールドをしまった。
「……なンだァ、あの装備は」
 目を細めるハワードだが、まぁ無理もない。今し方三、四番機が展開した大型シールドは、アームと連動したバックパックも含めて、凪守の基本装備には無い代物だったからだ。
 そんなハワードを横目に、冥は遠慮無く桜餅を頬張る。
「ふふん、まぁ知らんのも無理はないさ。何せあの盾は、ウチのヒラメキ坊主が開発に関わった試作品の一つだからな」
 正式名称、パイル・シールド。ファントム2のブレイク・シールドをもとに、より使いやすいよう開発された防御用装備だ。もっとも本家ブレイク・シールドと違って、表面に攻撃術式を精製する能力は無いのだが。
「あァ、模擬戦で使う予定だった試作装備をそのまま使ってるワケか。外すヒマも無かったろォからなァ」
「ま、平たく言えばそうなるな」
 肩をすくめる冥。その正面で、ハワードはまたもや駒を掴む。
「なら、こっちとしても出し惜しむ理由は無ェワケだ」
 騎士《ナイト》と城《ルーク》。二つの駒を、ハワードはそれぞれチェス板へと配置。二つの駒から新たな霊力光が走り、拡大し、Eフィールドへと走り抜ける。
『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!』
 するとその二秒後、またもや新たなディノファング達が砂塵を突き破って現われた。
 その数、十二匹。頭数もさる事ながら、冥の目を引いたのは禍たちの武装だ。
「おや、追加装備も出来るのか」
「そのとォり。汎用性の高さも売りの一つッてコトよ」
 ハワードが笑った通り、新たなディノファングには追加武装が施されていた。
 本来のティラノサウルスの腕へ該当する部位に、三本刃の大型クローアームを増設されたディノファング・ナイト。同様の位置に、三連装キャノン砲を装着されたディノファング・ルーク。
『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!!』
 各々の装備に則り、前衛と後衛に分かれて陣形を組むディノファング部隊。前衛となるナイト型六体が爪を振りかざしながら突撃し、ルーク型六体が背後からキャノン砲による援護射撃を行う。
 放物線を描いて着弾する炸裂弾、炸裂弾、炸裂弾。凪守大鎧装部隊の脚が止まる。その隙に肉薄する三本刃が、六機の大鎧装を八つ裂きにする。そういう戦術を立てていたのだろう。
「素直な押し方だねえ」
 つぶやく冥。無論、そんな教科書通りなぞ凪守には通用しない。
 オウガ。赫龍。一番機と三番機。二番機と四番機という四組に、大鎧装部隊は分散。更に散開。
 目標を見失い、虚しく弾ける炸裂弾の雨。その飛沫と敵の散開によってルークは照準に一瞬迷い、ナイトは突撃相手を見定めるべく一瞬止まる。
「そして、その一瞬が命取りだ」
 明後日の方向へ走っていたオウガが、ラピッドブースターを発動して急転換、急加速。四番機の方へ気を取られていたナイトの横顔へ、鋼鉄の膝蹴りを叩き込んだ。
『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!?』
 苦悶するナイトへ、オウガは膝部パイルバンカーで容赦なく追撃。Eマテリアルから射出される霊力の杭が、ナイトの脳天を容易く貫通。その凄まじい撃力は、ナイトの巨体を軽く浮かせる程だ。
『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!!』
そんなオウガを狙い、ルークの一匹がキャノン砲を照準。だがその砲口が吼える直前、飛来したミサイルがキャノン砲をルークの息の根ごと黙らせた。炸裂が砂塵をまき散らし、更に一拍遅れてハワードの髪を揺らす。
「なンだァ……?」
 目を細めるハワード。霊力光の方向から鑑みて、発射したのは零壱式二番機だろう。だが妙な事に、二番機が構えているのは巨大な片刃剣だった。
 それまで背中に装着していたその刃を、二番機は構え直す。刃の峰には何故かショットガンの先台に似たパーツが装着されており、二番機はこれをポンプする。
 がしゅん。そんな音と蒸気を排出しながら先台が往復すると、スライドしたレール上に青色の霊力光が塗布されたではないか。
「あれは、そォか、レックウの塗布式ミサイルランチャーか」
 ハワードの看破を肯定するように、二番機は巨大な片刃剣――バスター・ザッパーを突き出す。直後、刃の峰へ引かれた青い光の線から、霊力の三角錐が飛び出した。見紛うはずも無い。サイズこそ違うが、レックウの後輪へ搭載されている物と同様の術式だ。
 その数、八本。くるくると回転する三角錐は、ディノファングの群れへと切っ先を定める。射出される。
していたのも束の間、八つの三角錐はディノファングの群れへと殺到。しかしディノファング達はすぐさま散開し、三角錐は一発たりとも当たらない。
 だが、それで良いのだ。待機していた三番機と四番機の前へおびき出せたのだから。
「あ」とハワードが言うより先に、パイル・シールドに装着されたパイルバンカーがディノファングを貫通。断末魔を上げる間も無く、二匹の恐竜が霊力光へ還っていく。 
「ほォーう。思った以上にやるなァ」
 片眉を吊り上げるハワードだが、口端にはまだまだ微笑が浮かんでいる。
「ふむ」
 その態度に、冥は疑問を覚えた。桜餅を囓る手を止め、改めて戦場を見回す。
 戦況は概ね、と言うよりほとんど凪守側へ有利に傾いていた。
 零壱式一番機がバックパックから一対のキャノン砲を展開し、砲撃。
 零壱式二番機がバスター・ザッパーを振りかぶり、真っ向から両断。
 零壱式三番機がパイル・シールドで殴りかかり、敵の動きを止める。
 零壱式四番機がその隙にアサルトライフルを構え、銃撃を浴びせる。
 まったくもって順調な戦い振りだ。
「……妙な違和感を覚えるくらいに、ね」
 凪守部隊は前進する。ハワードが駒を小突く度、律儀に現われるディノファング共を蹴散らしながら。Eフィールド中心にあるピラミッドへ向かって、一心不乱に。
 ふと、冥は疑問を覚えた。なぜここに向かっているのか。
 決まっている。ここ以外、怪しい場所が見当たらないからだ。辺りは起伏に乏しい砂漠であり、てっぺんには術者ハワード・ブラウンの分霊が陣取っている。成程分かりやすいターゲットだ。何せ冥ですら興味を引かれたのだから。
「だが……」
 こんな大規模なEフィールドを構築したり、転移術式でファントム4をさらうような計画を立てる術者が、詰めの段階でこんな劣勢を良しとするだろうか。
 そんなはずは無い。だが、だとしたら向こうの狙いは一体何なのか。
「あ、成程」
 方々を見回した冥は、やがてハワードの目論見に気付いた。同時に、妙な違和感の正体も理解した。
 この戦場は静かすぎるのだ。本島側で戦っているファントム2のタイガーなんちゃらが、まったく聞こえて来ないくらいに。
『ファントム3! モーリシャス本島へ連絡を取ってくれ!』
「ああ、丁度僕も同じ事を考えていたよファントム1」
 丁度同じタイミングで気付いたらしい巌の通信に頷きながら、冥はファントム2への通話を試みる。が、返って来たのはノイズのみ。グロリアス・グローリィによる通信妨害だろう。それだけなら特に不思議な事ではない。
 だが、ならば。
 何故モーリシャス本島に展開しているだろう迅月《じんげつ》や、ディスカバリーⅢ部隊の姿が見当たらないのか。
「Eフィールド全体を覆う霊力の壁を密かに構築し、その内側に過去の風景映像を貼り付けていた、か……セット、ゲート」
 ヘルズゲート・エミュレータを起動しながら、冥は考える。
 壁が展開したタイミングは、恐らく最初にポーンを置いた後。恐竜型の新顔へ注意が向いている内に、ハワードは仕事をしたのだろう。
 見切ってしまえば単純なカラクリだ。だがその単純さに、結局全員が騙されてしまった訳で。
「実に有効な一手だね。そんな顔になるのも当然か」
「だろォ?」
 にやり、と笑みを深めるハワード。ヘルズゲート・エミュレータ越しに外を見た冥は、ハワードの余裕の意味が良く分かった。
 その映像は赫龍へリアルタイム転送されており、巌は瞬時に状況を悟る。
『な、んと』
 その、予想だにしなかったレイト・ライト本社の状態を。
『だが、今なら、まだッ!』
 叫ぶ巌。そう、ギリギリだが今ならまだ挽回出来る。
 それが為せる出力の武器を赫龍は持っており、その為の照準を冥は付ける事が出来る。
『セット! カノン!』
『Roger Crimson Canon Ready』
 砂漠で行われている激闘を無視し、赫龍はクリムゾンキャノンを集束モードで展開。急速充填される砲口の正面に、紫色の転移術式が灯る。冥が展開したヘルズゲート・エミュレータだ。
 だがそのチャージを阻むべく、ルークが咆吼と砲口を上げる。
『GYAAAAAOOOOOOOOOッ!!』
「今立て込んでるっぽいんだよ、黙ってろ!」
 赫龍を捉えかけたルークの照準を、割り込んだオウガがブレードで黙らせる。
『悪くないアシストだ、な……!』
 ほんの少し眉をしかめ、しかし頷く巌。その真正面、赫龍のディスプレイ上ではEフィールド外の戦闘光景が未だ続いている。
『タイガァァァァッ! 全力疾走ブレェェェェェェイクゥ!』
 奮闘する迅月。舞い踊るライグランス。応戦するディスカバリーⅢ。だがそれ以上に目を引くのは、レイト・ライト社ビルの上を悠々と飛んでいる、黒く巨大な戦艦の姿だ。
 十中八九、あれこそがグロリアス・グローリィの新たな拠点。Eフィールドという巨大な囮に注意を引きつけ、戦力を分断させ、その隙に逃げる算段だった訳か。
 船体後部に並ぶスラスター群には、今この瞬間にもはち切れそうな霊力の白光が燃え盛っている。オーバーブーストの兆しだ。
 あと十数秒もせぬ内に、黒い戦艦は加速するだろう。そうなればもう追い付けまい。
 だが、その十数秒があれば十分だ。
 今まさに極限まで霊力を燃やしているスラスター部。そこへクリムゾンキャノンを叩き込めば。
『沈める事は、可能な筈だっ!』
 目標照準、完了。霊力充填、完了。後は引金を引くのみ。
 しかして、その直前。巌の直感が、大きな警報を鳴らした。
 照準したスラスターの斜め上、甲板の端。寝そべるような体勢で、長大なライフルを構えている少女が一人。
「な、に」
 酷く小柄だが、それはどうでもいい。鎧装を着込んでもいるが、それもどうでもいい。
 巌を絶句させたのは、少女――ペネロペが構えているライフルに、見覚えがあったからだ。
「グレイブメイカー……対竜鱗徹甲弾か!?」
 対竜鱗徹甲弾。アンチ・ドラゴン・ペネトレイター。その名の通りドラゴンの鱗すら貫く特殊弾丸と、それを苦も無く運用出来る高性能大型ライフルの一種、グレイブメイカー。
 十中八九壁の除外処理を受けているだろうその引金を、ペネロペは引き絞った。
 照準は、赫龍を捉えていた。

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【神影鎧装レツオウガ 用語解説】
ディノファング

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