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小学校の、あるクラスの、ある一コマ。

「先生ー!俺らもサテツ集めたいです!」

翌日の時間割を
小さなホワイトボードに書いていた私に、
クラスの元気な男子が声をかけてきた。

サテツ…?
さてつ…?
あー!砂鉄!

男子の方を向くと、
周りにいる子達もこちらを見ながら
ウンウン!私たちも集めたい!
みたいな空気を出している。

1週間ほどお休みをもらっていた間に
隣のクラスの先生が理科の学習を進めてくれた。
磁石の勉強を終えた子ども達に

「今度、砂鉄集めしようね!」

と言っていたらしい。
けど、そんなことをする時間もなかったらしい。
そして、隣のクラスは砂鉄を集めていたらしい。

それは悪いことをした。


「オッケー!
じゃあ明日の6時間目は
〝砂鉄あつめ〟ね!」


ホワイトボードに〝砂鉄あつめ〟と書く。


「やったー!」

「え?!砂鉄あつめ?!」

「1時間全部砂鉄あつめ?!」

「マジ?超ラッキー!」

「ねぇねぇ!
明日の6時間目、砂鉄あつめだってー!」

「イェーイ!!!」

トイレや水飲みに行っていた子達にも
そのことが伝わると
クラスは祭り状態になった。

え…?
砂鉄あつめってそんな盛り上がるっけ?
砂鉄って私の知ってる砂鉄?
まぁいっか。喜んでるし。


放課後、隣のクラスの先生に
明日の6時間目に砂鉄集めをすることを伝えた。

「あー!そうだ!
皆やりたがってたけど時間なくて
出来ずにすみませんでした!
でも砂鉄集めるの、
多分もって10分っすよ?」

だよね。
10分くらいで飽きるよね?
残りの時間何しようかな?

時間が余った時のために
一応やることを考える。



翌日の6時間目。

掃除を終えると
いつもより早く席につく子ども達。
ワクワクオーラがクラスを包む。

「先生!磁石ってどれ持ってっていい?!」

「俺、このでっかいのにしようかな?」

実験キットの中から
ジャラジャラと色んな形の磁石を出し
並べて悩んでいる子どもたち。


「今日は砂鉄あつめだから、
自分が集めやすいと思う磁石、
集めやすい個数、
好きなように選んでいいよ。
あ、でも磁石無くさないでね。」

私が言うと


「え?!好きなの?!好きなだけ?!」

「何個でも良いの?!」

「マジで?!俺5個持っていこうかな?」

「いや、絶対5個も使わないって!
俺はこれ1個にしよ!」

「私はコレとコレ!」

ガチャガチャと音がして
皆それぞれ考えながら
自分の砂鉄あつめ用の磁石を選ぶ。

6時間目の始まりの挨拶は
いつもの3倍元気な声が響いた。

「お待たせしました!
今日の6時間目は、
なんと!!!

砂鉄あつめでーーーす!」

私の声に合わせて
ドンドンパフパフと鳴りそうなほど
クラスのテンションは最高潮。

すごいよ、砂鉄あつめ。

あなどるなかれ、砂鉄あつめ。


「砂鉄を、集めたいかぁーー?!」

と聞くと、

ウオォォォォォォォォォ!!!

磁石や拳をあげ、
子ども達が叫ぶ。

教室が揺れる。

もうこれ、
1等ハワイ当たるみたいな空気だけど大丈夫?

「今日はみんな、
好きなだけ砂鉄を集めるぞー!」

ウオォォォォォォォォォ!!!

「学校中の砂鉄という砂鉄を
みんなの磁石にくっつけるぞー!」

ウオォォォォォォォォォ!!!

「学校から砂鉄を無くすぞー!」

ウオォォォォォォォォォ!!!

U字磁石と棒磁石が
高々と掲げられている。

もうこれ、
東京ドームのライブみたいな空気だけど大丈夫?

そんなテンションで校庭に出た。

子ども達は色んな方法で砂鉄を集めだした。

秘技!ホウキ集め!
秘技!トルネード集め!
秘技!3個集め!

取れた砂鉄の量を見ながら
色々な方法を編み出している。


10分…
15分…
20分…

いや、みんな全然飽きんやん。


「砂鉄だぞー!」

誰かが叫ぶと

ウオォォォォォォォォォ!!!

磁石と袋を持った子ども達が
ダッシュで移動する。

そんな子達を横目に

「アイツらは移動時間を無駄にしてるわ」

と、せっせと砂場で砂鉄を集める子もいる。

いや、本気マジやん。


30分くらい経ったあたりで、
数人の子に

「先生、この砂鉄あげる」

と言われた。

どうやらこのチームは飽きたらしい。
でも30分も良くもったね。

「え?!いらないなら分けてあげたら?」

私が言うと、その子達が

「砂鉄いる人ー!」

と、大声で呼びかける。

ウオォォォォォォォォォ!!!

磁石と袋を持った子ども達が
ダッシュで移動して
その子達の周りに集まる。

初売りの人気福袋かよ。

そんな子達を横目に

「アイツらは
本当に移動時間を無駄にしてるわ」

変わらずせっせと砂場で砂鉄を集める子。

いや、君、ずっと本気マジやん。


結局、授業の1時間をまるまる使っても
砂鉄あつめは盛り上がっていた。

終わりの声をかけると

「先生、見て!こんな集まった!」

と、みんなホクホク顔で袋を見せてくる。

可愛いねぇ。
平和だねぇ。

「でもさぁ。
コレ、絶対お母さんに捨てられるわ」

「ね!絶対いらないって言われるよね」

子ども達は突然現実に戻されたみたいな顔で
上履きに履き替える。

確かに。
親の立場の気持ちもめっちゃ分かる。
でも、こんな頑張って集めたのも知ってるから
今の私には
砂鉄が何だか特別なモノに思えた。
とはいえ、過程を見てないと
どうしても無駄に感じてしまうのよね。

親と子ども達、
どっちの気持ちにも思いを馳せながら
静かに整列させる。

そんな空気を打ち破るように

「ねぇ、先生!
砂鉄ってお金になる!?」

1人の子が元気に言う。

「ちょっと!なるわけないじゃん!」

「そーだよ!だって砂鉄だよ?!」

「ならないよ!」

周りの子達から
笑顔でツッコミを入れられている。

砂鉄…

え…

砂金…?

もしやアナタ
砂鉄のこと、砂金だと思ってた?

まさか本当に
一攫千金を狙っていた子がいたとは。
確かにそれくらいの熱量だったけども。

子ども達ってほんとに面白い。


それにしても
すごいよ、砂鉄あつめ。

あなどるなかれ、砂鉄あつめ。

お金にはならないけど
予想以上に盛り上がること間違いなし!

オススメです。

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