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谷崎、川端、溝口…ベトナム映画と日本の美意識の関係。新鋭監督の快作『第三夫人と髪飾り』。

脚本を読んだスパイク・リーが制作資金を援助。トラン・アン・ユンが美術監修。物議をかもしたベトナムでは(女性を権力で押さえ込んでいた時代と女性の奔放なセクシャリティを描いた作品ゆえ保守派から反発を受け)公開4日で上映中止。5年の歳月をかけて完成させた意欲作……そんなスペックに興味をもち鑑賞。

「役割」を生きる女性を描く

19世紀の北ベトナム。養蚕業、絹糸の生産で栄華を極める里。跡取りを産んだ威厳のある第一夫人。第二夫人は美しさで周囲を惹き付けるが子供は女の子が2人。そこに14歳で嫁ぐのが第三夫人となるメイ。彼女の役割は、旦那様を悦ばせることと男の子を産むこと……。

ストーリーは「女性の役割」についてを静かに、けれど鮮烈に描く。「これはベトナムの昔話だと思う?」とずっと問いかけられているような気持ちになる。タイミングが合わなかったが、トークショーには上野千鶴子さんがエントリーされていた。この映画は、もちろんその目線で語られることが多い作品だ。

こめられているであろうメッセージに対し語るべきことは多いけれど、私は、まず、この美しい世界観をつくりあげたアッシュ・メイフェア監督の瑞々しい感性に拍手を。

とにかく映像が美しい。映像にうつるすべてが美しい。たゆたう時間すべてが美しい。

トラン・アン・ユン監督の『青いパパイヤの香り』を初めて観た時の、あの衝撃! 今、その時代のベトナムに自分は生きているのではないかという没入感!(※ちなみに第一夫人役は、トラン・アン・ユン監督の奥様、『青いパパイヤの香り』で主演を務めたトラン・ヌー・イエン・ケー )。

影響を与えた日本文学&映画

この映画に影響を与えた日本文学と映画として紹介されていた作品は以下の通り。この4作品がお好きであるなら(そのいずれかであったとしても)、まず、観て間違いないのが今作である。

女性映画の巨匠と言われる溝口健二監督。18歳の時にメイフェア監督が初めて映画館で観て感動した作品『山椒大夫』。

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上流社会に生きる四姉妹の四季折々の生活を描き込んだ小説、谷崎潤一郎の『細雪』。

家族という悲しい幻想。夫と妻、親と子、姉と弟……日本独特の家族のあり方を描く川端康成の『山の音』。

明るさよりも翳りを、光よりも闇を重視してきた日本の美意識に関する谷崎の随筆『陰翳礼讃』。

余談だけれど『青いパパイヤの香り』では、主人公は夏目漱石の『草枕』を読んでいるのが印象的だったことも思い出した。

トラン監督から贈られた言葉

インタビューでメイフェア監督は、トラン監督からのアドバイスを明かす。

撮影に入る3年前、ベトナムでトラン・アン・ユン監督が若手育成を目的に開催したワークショップに参加しました。監督に本作の脚本の話をし、色々とアドバイスを頂きました。中でも心に残っているのは、今後、監督として決断をする際の2つの心得です。『何が真実なのか、何が美なのか、それを常に自分に問い続けなさい』と

何が真実なのか。

何が美なのか。

『第三夫人と髪飾り』は、まさに、この問いを究極に煮詰めて発酵させて昇華させたような作品だと思う。

この映画に限らず、ベトナム映画は国内の映画局からは歓迎されず、国内で劇場公開されることを見送られるインディペンド映画が多数存在すると聞く。けれども、続々と国際映画祭には出品され、次々と評価を受けているのだそうだ。

映画界の話ではあるが、日本とベトナムという国の有り様、勢いにも通じているような!? そんな気持ちにもなってくる。韓国映画の後塵を拝していると言われて久しいがこのままいくと、映画新興国にどんどん先を行かれてしまうことになってしまうのかもしれない。

とにもかくにも、『第三夫人と髪飾り』は、そんな気持ちにもさせられてしまう真実と美意識が極まった作品でありました。

何が真実なのか。

何が美なのか。

何かを考える時、私も反芻したいと思う。


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