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なぜ、テロは起こるのか? 同時多発テロ事件を描く壮絶な実話『ホテル・ムンバイ』

この映画を観ている最中、アーティスト七尾旅人の『少年兵ギラン』を思い出していた。アフリカ・コンゴ民主共和国のひとりの少年兵を描いた楽曲だ。 彼は誘拐され、兵士としての訓練を受けさせられる。ユニセフの調べによると、現在でも18歳未満の子供たち、推定25万人が戦闘員などとして武力紛争に巻き込まれているという。

2008年11月26日。突如としてムンバイに銃声が鳴り響く。旅行者が集まる駅、レストラン、ホテルなどで10件のテロが同時に発生した。29日に事態が終息するまで、死者は少なくとも172人、負傷者は239人にのぼった。イスラム過激派組織による犯行。その実行犯のほとんどは未成年だったという。

『ホテル・ムンバイ』は実際に起こった同時多発テロが臨場感たっぷりに描かれた意欲作だ。いくつもの視点を通し、テロの惨劇が徹底的に描かれる。その非道さに目を背けたくなる。そして、もちろん来年の東京オリンピック開催が思いきり心配にもなる。

この映画をパニックサスペンス作品ととる人もいれば、ホテル従業員たちの勇気ある行動を礼賛する作品ととる人もいるだろう。

私は、終始テロリストとなった少年たちの存在が気になった。

貧困から家族を脱出させるためテロへの訓練を受けることを決意し、実行してしまった少年たち。善悪の判断を本当の意味で考えられない幼さゆえにイスラム原理主義に洗脳されてしまったであろう少年たち。

彼らの「なぜ、自分たちばかりが虐げられるのかという怒り」は揺るぎのない信仰心へと結実する。

この映画では彼らにとっての正義もあぶりだされる。自分たちの正義を疑わず(彼らにとってはそれ以外は絶対的な悪となる)、まるでゲームかのように殺戮に躊躇がない少年たち。劇中では、彼らの幼さや家族への愛情が発露するシーンも描かれる。

貧困。格差。人種。宗教……この映画は、さまざまな問題提起を投げかけてくる。いかなる理由があろうともテロを許してはならない。けれど、一方的に少年たちを加害者だと言い切ることができるのか。

元凶はいったいどこにある? 



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