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亡父のアトリエにて

父の遺品の整理にきている。晩年、骨董や民具にハマり、とてつもない量の品物が倉庫的に使用していたアトリエに眠っている。

さて、どうしたものか。

アトリエの側の川では鮎釣りができる。川沿いには「やな」がいくつかある。やなとは、主に竹で作った仕掛けで鮎やマスなど川魚を獲る漁法のことで、やなの横では炭火で塩焼きなどが食べられる。東京生まれ、東京育ちの夫は、いつもえらく感動してくれる。昨日もいつものやなに鮎を食べに行き、いつも通り夫はしみじみと感動していた。

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幼い頃、夏がくる度に食卓には鮎が並んだ。海に接していない日本では数少ない県の生まれなので、「海の魚が食べたい」といつも恋焦がれていた。祖父が釣りをして釣ってきてくれることも多かった。食卓の鮎を眺めながら、「川魚しか食べられない。うちは貧乏なのだ」と思っていた時期がある。

そして、上京し、初めて、東京で鮎の値段を知った時にのけぞった。鮎、めっちゃ高級魚やん!

「こんな田舎にいるのは嫌だ!」と飛び出した私だったが、今では、東京から帰京した時メリハリがつくので、田舎すぎることに有り難さを覚えるようになってきた。うるさいほどに鳴く鈴虫や蝉、カエルの声も心地良い。夫も「本当にいいところだ」と強靭な蚊と戦いながら、繰り返し口にしている。

「いつか魅力をわかって欲しい」と、生前、父は私に骨董の説明をしてきた。私はそれを鬱陶しいとずっと思っていた。

今、骨董たちを整理しながら、もっと話をしておけば良かったな〜と後悔しながら、父の愛したアイテムたちと対峙している。



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