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Lucky Chanceをもう一度

昨夜は、前々から楽しみにしていたNHKスペシャル「筒美京平からの贈りもの」を観た。

松本隆さんを始め、たくさんの貴重なインタビューコメントが寄せられたが、なんといっても白眉はCCBのドラム、笠浩二さんだったかな、と思う。

職業作曲家として大先生な立場の筒美さんのメロディを、笠さんが勝手にアレンジしてしまったというエピソード。「ロマンティックが止まらない」の中の「胸が 胸が 苦しくなる〜」の部分の「る〜」を笠さんは勝手に上げてしまったのだという。もう、それで耳慣れているからだとも思うが、これに関しては、焦燥感を表現するという意味において笠さんが正しいと私も思う。当時、大先生に対するあるまじき越権行為だったが、先生は「若者の感性に従うのが正しい」と承諾してくれたのだという。なかなかできることではない。

筒美さんが当時のまだ無名のアーティストたちに自信を与え、そして何より、いかに若者の意見に耳を傾けていたのかがよく分かるエピソードであった。

余談だが、CCB×筒美京平のタッグは「ロマンティックが止まらない」が代表曲とされるが、紅白初出場曲は「Lucky Chanceをもう一度」だった。そう言えば、この曲はベース渡辺、ギター関口、ドラム笠の3人が全員ボーカルをとれるというバンドの特徴がよく分かる。当時、私はこちらの曲の方が断然格好いいと思っていたのを急に思い出して、その後、何回もYouTubeを繰り返し観てしまった。

90年代に入り、歌謡曲の世界はガラリと様相を変える。職業作曲家がつくった曲がヒットチャートから、ほぼ消える。その時の筒美先生のコメントが紹介される。

時代が作家を選ぶ。

その苦境を受け入れつつ、「時代に求められる作家でありたい」と筒美さんは時代の荒波の中を泳ぎ続ける。

番組では、Nokkoの「人魚」(1994年)が紹介された。個人的には、小沢健二『強い気持ち・強い愛」(1995年)、KinkiKids「やめないで、PURE」(1999年)あたりも紹介して欲しかったな、とも(笑)。

筒美さんは亡くなる時まで、時代に求められる自分であるために作曲を続けたそうである。ちなみに、番組最後には、未発表の最後の遺作も紹介された。タイトルは「Pale Moon(淡い月)」。

人生の最後まで(人前に顔を出すことに積極的でなかったため、驚くほどに写真や映像が残っていない)黒子に徹し続けてた職業人の生き様に思いをはせ、懐かしい楽曲と共に、涙、涙の夜となった。



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