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行き止まりの世界に生まれて

少し前に見て、身震いするくらいに「好き!」と思った『mid90s』。スケボー少年3人の後ろ姿が印象的な宣伝ヴィジュアルを観たら、絶対に「おそらく『mid90s』に似てるに違いない!」と思うであろう『行き止まりの世界に生まれて』を観てきた。こちらは、第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされ、オバマ大統領が「年間ベストムービー」に選んだという一本である。

描かれるのはカルチャーじゃなく社会問題

結論から言うと、全く似ていない! キラキラとした青春のノスタルジーを追体験しようという軽い気持ちで行くと、絶対にズドーンと谷に突き落とされることになる(とは言うものの、最終的には前向きな気持ちにはなれます)。

スケボーがメインモチーフになっているし、スケボー仲間同士のわちゃわちゃが描かれているし、90年代が描かれているし……共通点は多い。けれど、『mid90s』がアメリカのA面なら、こちらはB面。あちらが太陽なら、こちらは月である。

劇中で「スケボーは、スタイルでも仲間とつるむための方法ではなく、生きていくために必要なことだ」というような言葉が出てくる。それが、この2作品を言い当てるのに、一番わかりやすい。『mid90s』がスタイルであり、仲間とつるんだ日々のノスタルジーに焦点を当てているのに対し、こちらは明らかに現実から逃避行するためのドラッグ的役割としてのスケートボードが描かれる。

好きな青春映画の共通点

以前書いたが、私が青春映画の中で好きな作品をあげるなら、以前にも書いたが以下の3作品で、

①NBA入りを目指す若者を描くドキュメンタリー『フープドリームス』。
②『8マイル』。なんやかんやで、好きなラッパーNO.1は、この時からずっとエミネムかもしれない。
③スコットランドが舞台の『スウィートシックスティーン』。大好きなケン・ローチ監督作品。ちなみに主演を務めたのは地元のプロサッカーの選手だったマーティン。

バスケットボール、ラップ、フットボールとそれぞれに向き合う対象は違うが、それぞれが社会に横たわる負の連鎖から逃れようともがく若者たちが主人公だ。今作は、それがスケートボードとなる。

アメリカのラストベルトの現実

3人(黒人、白人、アジア人)のスケボー少年の12年間を追った映像。舞台は、「さび付いた帯状の地帯」=ラストベルト。

(ラストベルトの一画を担う、イリノイ州の)ロックフォードは、ラストベルト―鉄鋼や石炭、自動車などの産業が衰退し、アメリカの繁栄から完全に見放された<錆びついた工業地帯>にある。2016年の大統領選で、“夢を失った”ラストベルトの人々による投票がトランプ大統領誕生に大きな影響を与えた。(HPより)

それぞれの12年をパーソナルに追いながらも、そこにはアメリカに横たわる人種問題や格差社会の負の連鎖が克明に刻まれてる。

3人のうちの1人、ベンがカメラを回し続ける。親友への信頼からか、あまりにも長い間回し続けていたためなのか、そこに映る誰もがカメラを意識していない。完全に、この12年間の撮影は、行き止まりで生きていかなくてはいけない若者たちのセラピーであり、それにより、もがきながらも、他の誰でもない自分を生きることを自覚するまでの3人それぞれの物語となっている(監督・製作・撮影・編集を担当したベン。膨大なフィルムをよくぞここまで編集しなすった!)。 

「スケートボードカルチャーが好き♡」という気持ちだけで観に行くのはオススメしないけれど、アメリカでなぜにここまでスケートボードが浸透したのかはよく分かる。

大統領選と日本の未来

私が歩いたラストベルトは、“大変身”は遂げてはいない。そこに失望を抱く人もいれば、「これからやってくれそうだ」という人もいて、それぞれが“通信簿”をつけている真っ最中だ。決戦を1カ月後に控えたスイング・ステートは、今、文字通り揺れている。

日本の所得格差と教育格差についての記事には以下のようにある。

注目すべきなのは所得水準との関係です。経済的にゆとりがあると回答した人で、格差を是認している人は72.8%に達しており、経済的にゆとりがあると自覚している人の大半が、格差はあって当然と考えていることになります。

大統領選を前に、その明暗を左右すると言われるラストベルトを知るために。そして、何より、これは日本が向かっている未来なのではないかということにもヒヤリとしながら。

「前へ進む」の意味を今一度確認したい方、是非!


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